30 / 36
騎士団見学4
しおりを挟むやがて模擬戦開始の合図がラオから出され、まず正騎士たちが三組ほど華麗な剣さばきを披露してくれた。
あくまで客人に見せる剣闘試合なので、血なまぐささが全くなく綺麗なものだった。
飾らない普段の訓練風景も気になるけれど、これはこれで見応えがある。
いつの間にか私は夢中になって見入っており、手に汗まで握っていた。
中でもソードマスター候補と呼ばれる騎士同士の模擬戦は凄かった。
体内の魔力を「オーラ」という力に変え、剣や身体に纏わせて戦うんだけど。
魔法とはまた違った不思議な光景に圧倒されてしまった。
グランツフィル騎士団には、二人のソードマスターがいるらしい。
今は領外に出ているということで私も見たことはないけど、相当の腕を持っているそうだ。
「あ、ゼノだ」
正騎士たちの模擬戦のあと、出てきたのはしっかり胸甲を装備したゼノだった。その手には、 兜を持っている。
同じくゼノの相手と思われる騎士も出てきた。つい先ほど模擬戦を繰り広げた騎士たちよりも、いくらか若いようだ。
「あの者は準騎士です。去年13歳で見習い期間を満了し、今は14歳です」
「14歳? ゼノ、8歳だけど大丈夫?」
「ゼノは見習いの中でも群を抜いて実力が高いと報告を受けています。問題ありませんよ」
ルザークもそうだと言っていたけど、一体どれほどのものなんだろう。
視線を再び戻したとき、ゼノはちょうど兜を被ろうとしているところだった。
見習い騎士は原則、安全措置として剣を交えるときは兜と鎧を装着する義務がある。
通常の騎士は鎧よりも制服が主体という感じの騎士服を着ているんだけど、一応それにも鎧のような役割はあるらしい。魔物の皮などを使って仕立てているので丈夫なんだとか。
(…………ん?)
そして、兜を被ったゼノを遠目から見ていた私は、何となく既視感のようなものを覚えて首をかしげた。
兜の目元から窺える赤い瞳と、はらりと流れた亜麻色の髪。
気を取られている間に剣の打ち合う音が聞こえてくる。私は瞬きをしながらゼノの姿を注視した。
(なんか、あの顔周り見たことあるような……)
先ほどの穏やかな目つきから一変、相手を前にしたときのゼノは、鋭く射るような視線を送っている。
(見覚え……アリアとしての記憶じゃないなら、前世?)
兜の奥の赤色がきらりと輝く。
兜、亜麻色の髪、赤色の瞳。そのシルエットと色合いがどうしても引っかかる。
(あ、あーーっ!!)
やっと既視感の正体を突き止めた私は、堪らず立ち上がってゼノを凝視した。
「アリアちゃん、どうかした? あのゼノって子がなにか気がかり?」
わなわなと震えた私に声をかけたルザークは、ゼノの方向に目をやりながら尋ねてくる。
「え、えっと……」
うまく言葉を繋げられずにいると、ゼノが相手の剣を落としたことで模擬戦の勝敗は呆気なく決した。
なんだか頃合を見て簡単に勝利を取ったように見えなくもないけれど、それよりも私の意識はあることに集中する。
(ゼノ…………って、もしかして、ギルバートと敵対する皇帝の妾子・ゼノクス!?)
模擬戦が終了し、兜を取ったゼノの顔を遠目に見つめながら、私はあるキャラクターのことを思い出した。
***
ゼノクス・デル・ヴァリアス。
ヴァリアス帝国皇帝の妾子である彼は『リデルの歌声』に出てくる敵役だった。
ほぼラスボスに近い立ち位置と言って過言でもないゼノクスは、幼少の頃に皇室を追われて死に物狂いで生きてきたという壮絶な過去がある。
(それで、ゼノクスも悪魔との契約者だった。彼もリデルの歌声で浄化されたとき、過去の背景がいくつかわかったけれど……)
それは皇城にいたときの朧気な記憶と、身を寄せていた場所に居られなくなったゼノクスを敵サイドの公爵家が引き取った頃の記憶ばかりだった。
ここで言う敵サイドの公爵家というのは、皇室の傍系にあたる公爵家で、グランツフィルではない。
『リデルの歌声』には、ヒーローであり皇太子であるギルバートと、そんな彼の地位を引きずり下ろそうとする敵勢力との後継者争いも描かれている。
ゼノクス・デル・ヴァリアスというキャラクターは、その敵勢力が秘密裏に用意した、切り札そのものだったのだ。
1
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい
ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。
よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。
その中の自分はまさかの悪役令嬢?!
悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!
飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます!
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。
※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる