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騎士団見学3
しおりを挟む私とルザークが見学に来たということで、どうやら今から一対一の模擬戦をしてくれるらしい。
私は騎士の方々が用意してくれた椅子に腰掛けた。わざわざ日除けの大きな傘まで持ってきてくれて、なんだか申し訳ない。
「アリアお嬢様、温かいお飲み物はいかがですか」
「ひざ掛けもございますので」
「模擬戦が始まるまで何か芸でも披露しましょうか」
こうして、さっきから至れり尽くせりな状況が続いている。
騎士たちは嬉々とした眼差しをこちらに向け、我先にと私に声をかけようとしていた。
同じく隣に座るルザークが「アリアちゃんモテモテ~」と茶化してくる。面白そうにはしているけど、自分は遠慮したいのか少しだけ距離を取られた。おい。
「ありがとうございます。飲み物いただきます。ひざ掛けも。芸は気になるけど大丈夫」
遠慮がちに笑みを向ければ、どの騎士も噛み締めるように拳を握っていた。
……自分でもアリアとしての容姿は美幼女だと思うし、きっと愛嬌を振りまけばそれなりに可愛いという自負はあるものの。
ここまで感涙されると逆に怖い。思わず遠い目をしそうになった。
「お前たち」
そこへ、見かねたラオ副団長が現れる。
彼の「散れ」の一声で、騎士たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。
「ありがとう、ラオ副団長」
「私のことはラオとお呼びください、アリアお嬢様」
そう言って、ラオは口元を緩める。
クリストファー並に表情筋が乏しいけれど、常に洗練された騎士の佇まいがあって、近くにいると気持ちが引き締まるようだ。
でも、たまに向けてくる優しい顔つきは、彼の心根を物語っているみたいだった。
ラオはもう少しで模擬戦を開始しますと告げると、ほかの騎士たちの元に向かっていった。
「皆、アリアお嬢様にお会いできて気が昂っているようですね。きっと素晴らしい剣技を見せてくれることでしょう」
さりげなく騎士たちにプレッシャーを与えるジェイドの言葉を聞きながら、私はある方向に目をやった。
「子ども、結構いるね」
広場の隅っこには、私よりいくつか歳上だと思われる子どもの姿があった。
男の子が多いけれど、女の子も何人かいる。そして共通しているのは、紺色の制服を着ているということ。
「あちらにいるのは、グランツフィル騎士団の見習い騎士です」
「見習い……あ、ゼノ!」
数人の子どもたちの中に見知った顔を見つけた私は、自分が思うよりも大きく声を出していた。
呼ばれた本人は驚いた様子で振り返り、ほんのりと赤い瞳を見開く。
「知ってる子?」
「うん、前に書庫室で会ったことがあるの」
ルザークにそう答える。ジェイドは以前報告を受けて知っていたのか、見当がついた様子だった。
(ゼノとは書庫室でばったり会って以来、一度も顔を合わせなかったんだよね)
しかも私はあの時書庫室で倒れてしまい、付き添ってくれたゼノからしてみれば完全にとばっちりだっただろう。
(一言でも謝りたいな)
私の気持ちが伝わったかのように、ゼノはこちらに近寄ってくると丁寧に会釈をした。
「アリアお嬢様に、ご挨拶申しあげます」
「こんにちは、ゼノ。久しぶり」
「はい。またお会いできて光栄です」
「ええと。それでね、ゼノ」
ちょいちょいとゼノに向かって手招きする。
首を傾げながらも、ゼノはまた一歩前に近づいた。
「この前、ごめんね」
「え?」
「倒れて迷惑かけちゃったから」
両手を口に添えながらこっそりと言う。
一応、私は公爵令嬢なので、一介の見習い騎士に謝るときは小声で目立たないようしなければいけない。
室内なら話は別だけど、今は周囲にたくさん人がいるから。
「お気になさらないでください。お嬢様が回復されて、よかったです」
何となく私の意図を理解したのか、ゼノはぱちぱちと瞬かせたあと、ふわりと笑った。
なんというか、騎士というよりは王子様の微笑みのようで、顔が眩しい。
「ゼノは模擬戦に出るの?」
「はい。ほかの見習い騎士も数人参加させていただきます」
「そうなんだ。頑張ってね」
「ありがとうございます。アリアお嬢様に勝利をご覧いただけるよう努めます」
軽く会話を交えたあとで、ゼノは元の場所に戻っていった。
「彼、見習い騎士の中でも段違いだね」
横で話を聞いていたルザークが、ゼノを含めた見習い騎士がいる方向に目を向けて呟いた。
「そうなの?」
「うん、オーラが違う。きっと日頃から人一倍鍛錬を積んでいるんだろうね。将来有望だなー」
「へえ~……」
まるで未来ある若者に対する口調に、私は心の中で「あなたほんとに9歳……?」と疑惑の眼差しを向けた。
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