ヒロイン覚醒要員である黒幕お父様の暴走を阻止します 〜死なないために愛嬌を振りまいていたら、不器用な愛情過多がとまりません〜

文字の大きさ
上 下
9 / 36

こうして契約は結ばれた

しおりを挟む



 力を貸してやると言われた。
 あまりにも急なことで聞き間違いかと思い、サルヴァドールにもう一度確認をとる。

「本当に、本当に手伝ってくれる?」
『ああ。その前に、オレの封印を解いてくれたらな』
「封印って。あれ、まだ解かれてないの?」
『まだ? お前……悪魔やら契約のことも知ったふうだったよな。何者だ?』
「え、え~、そうかな」

 疑わしげな声に、私は口に手を当てた。

『その動き、なにか隠してるヤツがする動きだ。お前、一体なんなんだ』
「そ、それはサルヴァがちゃんと協力してくれるって確証がもてたら話す!」
『ガキの癖に変なところで言葉がしっかりしてるよな』

 まずい、どんどん疑念を抱き始めている。

「今大切なのは、サルヴァのことだよ」

 逸れていた軌道を無理やり修正して、封印についての話に戻した。
 私が知っている「リデルの歌声」のサルヴァドールの封印は、まず第一章の黒幕であるクリストファーと契約した悪魔を歌で退ける。
 そして、歌に込められた効果によりサルヴァドールの封印が解かれる、という流れだったはず。

 ある理由で、リデルは公爵領に拉致されるんだよね。ちょうど閉じ込められる場所が別館の書庫室にある倉庫で、その流れで本に封印されていたサルヴァドールにも歌が聞こえるのだ。

「封印って、どうやったら解けるの?」
『古の天使が残した歌を聞けば、解けるはずだ。オレの封印は同じ大悪魔にやられてもんだからな』
「それ、わたしじゃできないじゃん……わたしが知ってるの、旋律メロディだけだよ」
『だから中途半端なんだってさっき言っただろ。動けるようにはなったが、ほかはさっぱりだ』

 だからサルヴァドールは本のままなんだ。彼は他の大悪魔によって本の中に封印されたので、封印を完全に解かないと本体が閉じ込められたままということだった。

 リデルはちゃんと歌ってたもんな。サルヴァドールって、急に出てくるキャラだったから封印が解かれた描写なんて一つもなかったし。

「ほかにないのかな、封印が解ける方法」
『お前じゃ魔力も少ねぇから、取り込んだところで大した力に変えられないしな、核もしょぼい。あとは、魂を取り込むぐらいしか思いつかない』
「魂を取り込む……」
『普通の人間は魂を取られたら死ぬんだよ。だが、お前は特殊だ。なぜか知らないが二つあるからな。天使の気配がして不自然に体から浮いているそっちの魂をオレにくれるなら、封印は解ける……たぶん』

 私のような体の人間は今まで目にしたことがなかったようで、サルヴァドールも断言はしなかった。
 
 封印を解く方法について整理してみる。
 まず、私では歌声が使えないのでこのやり方は一番初めに除外。
 つづいて魂を取り込む方法は、ただの魂ではなく、天使の気配――名残りがあるものじゃないと意味がない。
 どうやら私には魂が二つあり、サルヴァドールの封印が解ける可能性があるとすれば、おそらく前世の私のものである魂を取り込むということ。

「わたしは魂が二つあるから、一つサルヴァにあげても、大丈夫ってことだよね? おかしくならないよね?」
『理屈で考えるならな。実際のところやってみないとわからない』
「それもそうだ……」

 不安だけど、もうこれに賭けるしかない気がする。ほかに宛になるような人を知らないし、何よりも悩んでいる時間すら惜しい。
 うじうじと選択を躊躇っていては、それこそ手遅れになりかねないから。
 
「わかった、お願いします。それで、サルヴァの力を貸して」

 サルヴァドールは「リデルの歌声」の登場キャラの中でも謎が多かった。
 大悪魔だというわりには、人間の核には興味ないし、むしろそこら辺の人間に取り憑く悪魔を退治しようとするし。
 エピローグまで読み終えても、サルヴァドールはリデルの相棒ポジションで、マスコット的なキャラクターのままだった。

 わからない部分は多々あるけれど、普通の悪魔とは違う。
 私を騙して乗っ取ろうだとか、核を喰らってやるだとか、そんなことは考えない――と、信じたい。

『よし、いいんだな』

 その問いに、何度も頷く。
 もう腹を決めてやるしかないのだ。

 どうやって私の中から魂を取るんだろうと思っていれば、ずっと目の前を浮遊していた本が、黄金の光を帯び始めた。
 光というか、靄に近いかもしれない。靄に光を纏わせた感じ。

 その黄金に光る靄は、スっと本から伸びて私の全身を包み込む。
 最初は慣れない感覚に身を固くしていたけれど、そのうち平気になってきて、ゆっくりと瞼を下ろした。

『バカ素直なやつ』

 耳を掠めたサルヴァドールの声。意外そうでいて、ひどくおかしそうに、思わず笑ってしまったような声だった。

 
 ***


「おい」
「…………」
「おい」
「……む、ん?」
「もう目ぇ開けろ。終わった」 

 抜き取られたような感覚もなく拍子抜けしてしまう。
 ぎしりとベッドが軋む音がして、私は声の通りに目を開く。

 視界に飛び込んできたのは、じとーっとまるで猫のような瞳で私を見つめる少年の顔だった。

「…………え、だれっ」
「オレ」
「だから、だれ……?」
「本当にわからないのか?」

 私の様子に不敵な笑みを携えた少年は、口角を吊り上げて試すような眼差しを向けてくる。

 昨夜出会ったゼノと匹敵するくらいの美少年だ。
 無造作な黒髪と金の瞳。まつ毛は長さのあまり目尻にまでかかっていて。見た目もゼノと同じくらいで、ベッドの端に座り体を後ろにひねるような体勢で私の顔を覗き込んでいる。

「サ、サルヴァ?」
「あたり」
「ど、どうして!? 人だったの!?」

 ようやく現実のものだと頭が理解し、たまらず声をあげた。
 私の知っているサルヴァドールは、鳥か狐のような姿の二動物にしか変化していなかった。
 基本は狐よりの姿をしており、人の姿になるだなんて「リデルの歌声」でもなかったのに。

「人じゃなくて、悪魔な。大悪魔ともなれば、人型にだってなれるんだよ」
(ノベルゲームの中では一度も人の姿じゃなかったけど!?)

 サルヴァドールは自分の前髪を指で弄って遊んでいる。
 横から見ても整った顔をしている。どうしてこれを公式で見られなかったのか不思議なくらいだ。

「そんなにオレの人型が気に入らないのか?」
「逆だよ、どうしてそんなにかっこいいの?」

 これではマスコットキャラという立場では収まらない。私の知らない公式供給があったのだろうか。今ではわからないことだけど、本当にびっくりした。

 思ったままの意見をさらけ出した私に、サルヴァドールは満更でもない顔をしている。

「ま、オレは大悪魔サルヴァドール様だからな。欠点なんてないんだよ」

 得意げに笑う。様になっているのがすごい。
 子供の姿なのに、色気まで兼ね備えているなんて。

「にしても、お前って別の世界の人間だったのか」
「へ……」
「魂を取り込んだら、なんとなく記憶が入ってきてな。どーりで悪魔とか契約を知ってるわけだ」

 さらりと言ってのけるので、私は言葉を失った。

「どっちもお前の魂だったからか、必然的に繋がったみたいだな。契約印、左手の甲にあるだろ」

 指摘されて自分の左手に注目すると、たしかに契約の印である紋様が刻まれていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。 ※諸事情により3月いっぱいまで更新停止中です。すみません。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...