占い師が不良少女でも信じてくれますかっ!?

しんしょう

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占いと王子様

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 今日もまた、占い部を訪ねる者が一人。コンコンっとノックをするも、中から返事が返ってこない。

 「あれっ? ここが占い部であってる・・・よね? 誰もいないのかな? 」

 扉の前でキョロキョロしながら一人呟く少女。すると、

 「おい、占い部の前に突っ立って何してんだ? 」

 肩に通学カバンを下げた不良少女がやってきた。急に声をかけられ、驚く少女。しかし次の瞬間には冷静を装う。

 「ひゃう! ・・・おっと、君がここのマスターかい? 」

 「あ? マスターだぁ? 何言ってんだテメェ? 」

 マスターなどと、言われ慣れているはずがない不良少女は、あきれる。

 「おやおや、これは躾のなっていない仔猫ちゃんだ」

 「あぁ? 」

 間髪入れずに、ドスを効かせた声と共に、不良少女が睨み付ける。すると、扉の前の少女は顔をこわばらせるも、またすぐに冷静を装う。

 「ヒッ! ・・・ぅゔん、今日は時間を割いて、わざわざ僕から足を運ばせてもらったよ。ここの占いはよく当たるのだと、僕の周りの仔猫ちゃんたちが言って…」

 「前口上が長え。いいからサッサと中に入れ」

 「はい・・・」

 少女の得意なペースは何処へやら、不良少女のペースで進む。

 「ほら、そこ座りな」

 不良少女が促すと、黙って座る少女。少女は視線を右往左往させ、落ち着かない様子。

 「なにソワソワしてんだ? ここに来るのはあたしに占って欲しい奴だけだ。あんたもそうなんだろ? 」

 「ッハハハ! そうなんだよ。私の悩みを聞いてくれるかな、仔猫ちゃん? 」

 「うおっ! んだ? テメェ、いきなり大声出してんじゃねえよ」

 ビクゥ!

 強い口調の不良少女に、ヘビに睨まれたリスのように体を震わせる。それを見かねた不良少女はこう話しかける。

 「っはぁ~、取って食うわけじゃ無えんだから、まずは落ち着け」

 「はい・・・」

 そう言うと、大きく深く息を吐き出す少女。

 「落ち着いたか? んじゃぁ、あんたの占って欲しい事を言いな」

 「あぁ・・・ 実はこの王子様キャラの事で悩んでいるんだ」

 「王子様キャラだぁ? さっきから妙だと思ってたが、あれで王子様なのかよ・・・つか、自分からキャラって言うんだな」

 「いや、幼い頃はもっと控え目な性格だったんだ。いわゆる根暗っぽいって奴だね」

 そう言う少女の口元は、ぎこちなく引きつる。

 「おい、あんまり自分を卑下してんじゃねぇ。見てて腹立ってくる」

 「っ! あぁ、すまないね」

 「ちっ、いや、あたしも悪いな。あんた、見た目は男前だから、つい強い口調で言っちまった。中身はただの女の子なのにな」

 バツの悪そうな顔をする不良少女に、王子様キャラの少女は口元を緩めて言う。

 「ふふっ、優しいね、あなたは」

 「ハッ、どこに目ぇつけてんだ? このあたしが優しいだとか」

 不良少女は耳に慣れない言葉に反発した。しかし、

 「目では捉えられないよ。なにせ僕が感じた優しさは気持ちだからね」

「けっ、言ってくれるじゃねぇか」

 そう言うと、不良少女の頬は少し染まる。

 「お、おらっ、悩みだ悩み、なんかキャラがどうとか言ってたよな? 」

 王子様キャラの少女に傾きかけた話のペースをもう一度引き寄せる為、無理やり話を変える不良少女。

 「あぁ、そうだね。僕の悩みはこの王子様キャラの事だ」

 「んで? そのキャラがなんだってんだ? 」

 不良少女の問いに、少女は答える。

 「実は、このキャラを辞めて、本当の自分で過ごしたいんだ。だけど、こんな僕にも仔猫ちゃん達がたくさんいるから、どうすればいいか分からなくなってしまったんだ」

 「だから、僕はどうすべきかを占って欲しい」

 そう答える少女に、不良少女は、

 「とっとと帰りな」

と、ひと言だけ返した。

 「えっ? な、何故だい? どうして急に・・・」

 想定外の言葉に、驚く少女。

 「急にも何もねぇよ。ただ、あんたにはあたしの占いは必要ねぇから帰れって言ったんだよ」

 「・・・教えてくれないか? どうしてあなたがそう言うのかを。僕には見当がつかないんだ」

 そう質問された不良少女は、苛立ちつつも、順序だてて説明した。

 「ちっ・・・ いいか? あたしの占いってのは、悩んで立ち止まったままの奴を、その占い結果で無理矢理にでも動かす為のもんなんだよ」

 「あんたの悩みってのは、その仔猫ちゃんとかいう他の誰かを肩代わりしてっから生まれたもんだ」

 「そんなもん、あたしの占いでどうにかなる訳ねぇだろ。仔猫ちゃん一人ずつ占って、悲しまないようにしろってか? んな暇じゃねえっつの」

 「あんたのは悩みじゃねぇ、ただのエゴだ」

 おら、さっさと帰りな、そう言って、未だ戸惑う少女を部室から押し出そうとする不良少女。
 押し出される少女の顔は困惑している。

 「ま、待ってくれ! 帰るからそんなに押さないでくれっ」

 その言葉を聞いた不良少女は、押すのを止める。

 「・・・最後に一つだけ謝らせてくれ。まだあなたの言葉の意味がよく分からないんだ。だけど、考えるよ。あなたが適当な事を言う人ではないのは分かったからね」

 また来るよ、そう言って部室の扉に手をかける少女。その背中に向かって、不良少女はボソリと言う。

 「・・・今度はテメェ自身の面を見せやがれ」

 部室を後にする少女は、ありがとう、とだけ言い残し、去っていった。

 「チッ・・・」

 一人残された不良少女は、舌打ちをしてこう言った。

 「まだまだだな、あたし・・・ 次なんてもうねぇんだぞ・・・」
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