占い師が不良少女でも信じてくれますかっ!?

しんしょう

文字の大きさ
上 下
4 / 8

占いと委員長

しおりを挟む
《コンコン》

 「失礼します」

 ガララっと扉を開け、占い部に入ってくる者が一人。キリリッとした表情に整った顔、そして着崩れの一切無い制服の着こなしをしている。

 「あい、どちらさんで・・・ゲッ、委員長じゃねえか」

 「ゲッとはなんですか? ゲッとは」

 それは悪うござんした、と悪びれる様子もなく言う不良少女。

 「んだけど、こんなところになんのようだよ? 占いと縁遠そうなのに」

 「それをあなたが言うのね・・・」

 少しあきれた様子の、委員長と呼ばれた少女。

 「まあいいわ、今日は、この部室についてある噂を聞いたもので、それを確かめにきました」

 「噂? 」

 「えぇ、なんでもここの占いはよく当たるのだとか」

 「ハハッ、誰かは知らねえが、そう言ってくれるのは嬉しいねぇ」

 不良と遠い位置にあるはずの委員長からの予想外な言葉を聞き、顔を逸らす不良少女。その口元は緩んでいる。

 「んで? その噂を聞きつけてここに来たって事は、委員長もあたしに占って欲しいって事だよな? 」

 「そ、そうよ。何か悪いかしらっ? 」

 「いんや、全然悪くなんかねぇよ。あたしはここに来た奴は誰であろうと占うからさ」

 「まぁ、冷女(れいじょ)と呼ばれる委員長が、何を占って欲しいのかは興味あるな」

 ニシシっ、とからかうように言う不良少女。すると、

 「ッッ! もう結構ですっ! 」

 ドタドタッと部室を出ようとする委員長。

 「待て待て委員長、ここで帰ったら一体何しに来たんだって話だぞ? まぁそんな怒んなって。悪かったからさ」

 ほら、ここ座れよっと案内する不良少女に、しぶしぶと座る委員長。

 「んで? さっそくだが委員長は何を占って欲しいんだ? 」

 「・・・こ・・・い」

 「こ? 何だって? 」

 「だ、だから、恋占いをしてちょうだいって言ってるのよ! 」

 部室にしばらくの間委員長の声がこだまする。そしてすぐに静寂が訪れると、

 「こ、恋占い? あの委員長が? 」

 その空気に耐えきれない様子で、不良少女は委員長をからかう。

 すると、無言でガタッと立ち、顔を真っ赤にして立ち去ろうとする委員長。その背中越しに不良少女は言う。

 「いいのか? あたしの占いはよく当たるらしいぞ? 」

 その言葉を聞くと、ピタッと体を硬直させ、数秒間立ち止まると、くるりと向きを変えて戻ってくる委員長。

 「もうここまで来たらお願いするわよ! さあ、早くしなさい! 」

 吹っ切れたと言わんばかりの委員長に、

 「まぁまぁ、そう焦りなさんなって」

 と、飄々と諭すように不良少女は言う。そして懐からタロットカードを取り出す。

 「んじゃ、このタロットで占うぞ」

 「えぇ」

 手慣れた手つきでカードを切っていく。そして、規則通りに裏向けて並べ、その中から一枚のカードを表向ける。

 そこに描かれていたのは、死(デス)だった。

 「死? 死って事は上手くいかない・・・」

 みるみると表情を青ざめていく委員長に、不良少女は語りかける。

 「いや、そう判断すんのは早計だぜ」

 「だけど死って出てるのよ! 」

 「まぁ落ち着きなって、委員長。死ってのは、全部が全部悪いだけじゃねぇ。特に恋に関してならな」

 「・・・本当? 」

 うるうると目元を濡らし、小刻みに震える委員長。その様子はまさに子犬のよう。

 「クハッ! まさに恋する乙女だな、委員長」

 そう言って茶化す不良少女。

 「そ、そんな事いいから、さっさと意味を教えてちょうだい! 」

 「焦んなって。だけど、説明する前に、委員長の恋について教えな。じゃねぇと、上手く伝わらねぇからな」

 「うッッッ」

 この不良少女に言うべきか悩む委員長。そして不良少女はそれを静かに見守る。

 「・・・分かりました。簡単に説明します。告白されました。はい、以上です」

 「・・・マジで? 」

 「マジです」

 そう言って、委員長はズズイッと顔を不良少女へと寄せる。

 「はぁ~、それでどうしていいか分からずテンパった委員長は、噂で知ったあたしの占いに頼ろうってなったわけか」

 「///べっ、別にいいでしょ!? そ・れ・で! 私は話したのだから、占いの死の意味を教えなさい! 」

 そう言ってさらに顔を近づける委員長に、不良少女はたじろぐ。

 「近ぇ、近ぇから! んなにガン飛ばしてくんじゃねえ/// 分かったからまずは座れって」

 委員長のあまりの顔圧に、さすがの不良少女も動揺する。そして、気を取り直すように、委員長へ意味を教える。

 「まぁ簡単に言うと、死ってのは、終了とか衰退ってのを意味してんだ」

 「やっぱり良くないじゃない・・・」

 「まだ説明は終わってねえよ。終わるって事は、新しい何かが始まるって事でもあんだよ」

 「? 」

 不良少女の言葉に、置いてきぼりにされる委員長。その様子を見た不良少女は続けて言う。

 「例えば、これまで他人だった関係が終わって、新しく恋人っつう関係が始まるとか」

 「つ、つまり、付き合うって事!? 」

 「それは知らねぇよ。あんた自身が決める事だからなぁ。あたしの占いは、付き合えば幸せになれる、とかが分かるもんじゃねえし」

 まぁでも、と前置きをして、さらに不良少女は何かを悟ったように言う。

 「死っつう結果が出た時の、委員長の顔見てりゃあ、どうしたいかは分かるけどな」

 それを聞き、アワワっと口元を震わせ、顔を真っ赤にする委員長。

 「どうだ? 占いの結果についてはもう大丈夫か? 」

 「えぇ、もう十分よ・・・」

 そう言う委員長の表情は、何か憑き物が落ちたかのように、どこかスッキリとしている。

 「今日はありがとう。またお邪魔させてもらうわ」

 「おう、いつでも来な」

 そうしたやり取りを交わし、委員長は部室を後にする。

(ま、せいぜい頑張りな、委員長)

 窓越しに夕焼けの光が射したせいか、不良少女の表情は、やや紅く染まっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

待つノ木カフェで心と顔にスマイルを

佐々森りろ
キャラ文芸
 祖父母の経営する喫茶店「待つノ木」  昔からの常連さんが集まる憩いの場所で、孫の松ノ木そよ葉にとっても小さな頃から毎日通う大好きな場所。  叶おばあちゃんはそよ葉にシュガーミルクを淹れてくれる時に「いつも心と顔にスマイルを」と言って、魔法みたいな一混ぜをしてくれる。  すると、自然と嫌なことも吹き飛んで笑顔になれたのだ。物静かで優しいマスターと元気いっぱいのおばあちゃんを慕って「待つノ木」へ来るお客は後を絶たない。  しかし、ある日突然おばあちゃんが倒れてしまって……  マスターであるおじいちゃんは意気消沈。このままでは「待つノ木」は閉店してしまうかもしれない。そう思っていたそよ葉は、お見舞いに行った病室で「待つノ木」の存続を約束してほしいと頼みこまれる。  しかしそれを懇願してきたのは、昏睡状態のおばあちゃんではなく、編みぐるみのウサギだった!!  人見知りなそよ葉が、大切な場所「待つノ木」の存続をかけて、ゆっくりと人との繋がりを築いていく、優しくて笑顔になれる物語。

薬膳茶寮・花橘のあやかし

秋澤えで
キャラ文芸
 「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」  記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。  薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。  記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。 ************************* 既に完結しているため順次投稿していきます。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...