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第一章

29 特訓

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 調査に赴くナザースたちを見送った後、俺たちは何かあった時に備え行動することにした。

「とりあえず......」
「依頼はやめとこうか......」
「そうだな」

 とはいえ何ができるというわけでもないのだが。
 依頼を受けるという感じでもない為、どうしようかと首をひねるアリア。

「んー......」

 その様子におれは兼ねてより、頼みたかったことを頼むことにした。
 この状況においてもプラスになるであろうことをだ。

「なぁ、アリア......」
「ん?」
「実は――――」

 ある意味、無茶なお願いとも言えるのだが......。
 アリアは少し考えた後、疑問に思う素振りも見せず頷くのだった。
 自分で言うのもなんだがそんなにあっさり決めてもいいのだろうか。

「いいのか?」
「うん。やったほうがいいと思っていたことだし、ちょうどいいかなって」

 改めて確認するが問題はないようだ。
 こうなれば俺も気にせず、励むべきだろう。

「よし、じゃあ早速取り掛かろうか」

 こうして俺たちはこの状況に持せず、変化を求めて動き始めるのだった。

 ◇

 数時間後......俺たちの姿は街の郊外にあった。
 なぜかというと、俺の“お願い”は街中では行うわけにはいかないからだ。
 危ないし、どうなるか未知数......というわけで、連絡を取れるように街から離れ過ぎず、周囲に何もない所へ来たのだ。

「じゃあまず、すべての属性には各々を司る精霊がいるという話は以前したよね?」
「ああ。確か......火がサラマンダー、水がウンディーネ、風がシルフで、土がノーム。それで、上位属性になると、炎のイフリート、氷のアイシクル、嵐のテンペスト、最後に岩の......ガイアルムだったか?」

 この時点でもうわかるだろう。
 そう、俺は“魔法”について教えて貰おうとしているのだ。
 ......まぁ、すでに時空魔法を取得していることを思えば今更という話かもしれないが。
 とにかく、今は自らの戦闘能力を引き上げておいて損はない。いつかは頼まなければいけないことだったしな。

「そうだね。後は、特殊属性の光がソレイユ、闇がシャドウ、そして私とソウジ君の共通属性である時空がクロノスだね」
「そうそう、それだ」
「そして魔法というのは、魔力を用いて精霊と共に森羅万象を引き起こすものなの」
「精霊と共に......?」

 感情が目に見えるのならば、今俺の頭の上には大量の疑問符が浮かんでいることだろう。
 俺は今まで強化魔法ぐらいとはいえ、魔法と銘するものを使ったことがある。
 しかし、その中で精霊というものの存在を感じることはなかったのだ。

「もちろん、例外もあるよ。いわゆる“無属性魔法”というやつだね。属性を持たない純真な魔力を用いて、自らの身体や武器を強化するものがほとんどだけど......中には独自の発展を見せる人もいるらしいよ」
「ああ......道理で」

 自分がそれを感じることがなかったことに対して腑に落ちる。
 だが、同時に何か引っ掛かりを覚える。
 まるでボタンを掛け違えているようなそんな感覚だ。

「あ」
「どうしたの?」
 
 ふと、その違和感の正体に辿り着く。
 
「いや......時空魔法を使った時も特に精霊とかは感じなかったけど」
「本当に?」
「え?」
「本当に感じなかった?」

 悪戯っ娘のような表情で問うアリア。

(こういうところだけ、年相応なんだよなぁ)

 思わず見蕩れてしまいそうになるものの、鋼の自制心で抑え込む。
 そのせいで少し憮然とした表情になってしまったかもしれない。

「ああ」
「ん......そっか。なら先に教えた方が良いかな。さっき、精霊と共にって言ったけど、まず私たちが属性魔法を使う時、魔力を変質させる必要があるの」

 そう言えば、初めて時空魔法を使った時もそうだった。あの時はアリアに魔力の質を伝えてもらったからスムーズに出来たけど、一からとなると......ダメだ、できる気がしない。

「そしてこの“変質”が精霊と関わってくるんだけど、各属性の精霊は自分たちに近い魔力の質を好む習性があるの。それも人間の魔力が特に彼らにとっては良いみたい。つまり......」

 ああ......なるほど。ここまでくれば俺にもわかる。

「つまり、その魔力を対価に魔法を行使してくれるというわけか」

 アリアの言葉をついで、俺が答えると彼女は大きくうなずいた。

「その通り。ここでさっきの話に戻るんだけど、ソウジ君は強化魔法を使用したとき体内で魔力を循環させているよね」
「ああ、そうすることで強化してるわけだからな」
「その時、魔力は少しづつだけど消費する感覚はあるでしょ?」
「そりゃあ......」

 そうだろう、と答えようとして口ごもる。
 思い返せば時空魔法を使ったとき、“消費する”というよりは“引き出される”という感じだったのを思い出したからだ。

「まさか」
「その、まさかだよ。気づいたみたいだね。その時に彼らは魔力を受け取っているの」

 その言葉に納得するが、正直落胆したような気持ちだ。
 もっと精霊といえば、こう......なんていうのか。

「自我とか持っていて、感覚共有したりそんなものだと思ったんだが......」
「うん、それは間違っていないよ」
「お、おう」

 自分が口に出しているとは思わなかった為、予想外に返答をもらって驚いてしまう。

「いわゆる大精霊と呼ばれる存在だね。上位・特殊属性にのみ存在するんだけど、それらのなかでも特に力の大きな者が自我を持つの」
「まぁ、下位属性はそのまま下位だもんな」
「それでね、大精霊は小精霊と違って一人からしか魔力を受け取らないの。一般に契約と呼ばれてるけど」

 それはまた......ラノベを彷彿とさせる話だな。
 以前も思ったが、ラノベ作家にはこういう世界へ来たことある人がいたんじゃなかろうか。

「それはなんでなんだ?」
「それが理由は分かってないの。色々と学者たちが説を出したりしてるんだけど、どれも的を得たものはないみたい」
「そんなものなのか」

 意外と魔力の質が好みだからとか、有象無象の魔力の質だと魔法が行使できないとかありきたりな理由だと思うのだがな。大精霊というからには横柄な性格だったりして......!?
 俺なりに考察をしていたら、いきなり威圧感というか寒気を感じる。

「なんだ?」
「ん?」
「いや、なんか強烈な寒気を感じた気がするんだが」
「んー......気のせいじゃない?」

 唐突に寒気を感じたことをアリアに話すも、彼女は感じなかったようだ。
 気のせい、なのか? いや、悪意とかある感じではなかったが、今のは無視しちゃいけない類の寒気だったと思う。
 
「講義はこれぐらいでいいかな。そろそろ実践に移ろうか」
「おう......」

 しきりに辺りを見回す俺を呆れた目で見ていたアリアだが、放っておくことにしたようで実践に入ろうと促してくる。
 俺は未だにあの寒気が気になって仕方ないのだが、とりあえず返事を返す。

「そうだね、まずは――――」

 どんどんと進めようとするアリアに、少し師匠時代を思い出して笑ってしまう。

「あ、今笑ったね、なんで?」
「いや、何でもない。さぁ始めようか」

 気が付けば寒気のことは気にならなくなっていた。俺が笑ったことを追及しようとするアリアを宥め、始めようと促す。
 こうして俺の魔法特訓は始まったのだった。
 
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