上 下
15 / 32
第一章

12 水晶の街『クォーツリク』

しおりを挟む
 
今、俺の目の前には大きな......フランスの凱旋門といえば想像できるだろうか。そんな中世を想起させる門がある。......この世界の文明レベルはどれほどなのだろうか?
 門の傍では二人の門番が応対をしていた。見れば、許可待ちであろう人がちらほら見える。
 俺たちがそこへ近づいていくと、門番の片方がこちらに気づき、声を掛けてくる。

「うん? アリアじゃないか。しばらく見なかったが、なにしてたんだ?」
「アインさん、お久しぶりです。他の街への遠征と弟子の育成ですかねー?」
「弟子ねぇ......弟子!? パーティすら組まない君がか?」
「まぁ、成り行きですし、軽く初歩を教えただけですよ」
「それでも驚きだよ」

 どうやら、アリアと門番の......アインさんだっけ? は知り合いのようだ。アリアは冒険者だし、当たり前か。
 
「で、こっちの彼がアリアの弟子かい?」
「そう、これから冒険者になるし、紹介しますよ。田舎から、冒険者になるために出てきたソウジ・アカツキ君です」
「あ、ああ、いえ、はい! ソウジ・アカツキです。よろしくお願いします」

 急に俺に話題を振られて驚いてしまった。思わず、変な挨拶をしてしまった。

「これは、丁寧な挨拶、痛み入る。私は、この街の騎士団に所属しているアイン・クロースウェルだ。そんなに緊張しなくていいよ。私はただの門番だからね」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 彼――アイン・クロースウェルは、20代後半くらいの金髪碧眼のイケメンだ。しかも、優しそう。
俺の! 嫉妬の炎が燃え上がる! ......地球でも一回くらいはモテたかったなぁ。

「よく言いますね、どこがただの門番ですか。騎士団団長のくせに......」
「あはは......。もう30代後半の老害さ、気にしないでくれたまえ」
「え!? き、騎士団長ですか!? ていうか、30代後半......」

 どうやら彼はイケメンでエリート、しかも年齢にそぐわない見た目。俺の魂が警鐘を鳴らす......やはり彼奴は俺の敵だ!

「団長ー!」
「おっと仕事の途中だった。見ての通り、混み合っててね。すまないが、通行には少し時間がかかる」
「大丈夫ですよ。それくらい待ちますから」
「うん、じゃあまた後でね」

 そう、本当に申し訳なさそうに言って去っていく。前言撤回だ、彼はいいイケメンだ。

「アリア、騎士団長って門番なんてしてていいのか?」
「彼は変わり者でね、平民から実力のみで騎士になって成り上がって行ったんだけど、上に上がってもずっと下の仕事を手伝っているんだ。もちろん、民衆からの支持もいいんだよ」
「へぇ......凄い人なんだな」

 視線の先には、商人と話して通行の許可を出しているアインさんの姿がある。

「そんな話をしている間に、そろそろ私たちの番だよ」
「案外、早いな」
「そりゃ荷物の確認と犯罪を犯してないかの確認だけだし」
「犯罪の確認......? そんなのどうやって」
「まぁすぐわかるよ」

 そして、俺たちの番が来た。俺たちの担当は、アインさんのようだ。

「やぁ、大丈夫だと思うけど、確認させてもらうよ」
「はい。ほら、ソウジ君も」
「お、おう」

 俺たちは手持ちの荷物を取り出し、アインさんに渡した。
 彼は、中のもの取り出して検分を始めた。
 俺は、疑問に思ったことをアリアに小声で尋ねた。

「ディメンションバッグの中身は、いいのか?」
「うん。まず基本的に、時空属性持ちの冒険者は少ないしそんなものまで見ていたらきりがないしね」
「......そんなものなのか」
 
 元日本に居た俺からすれば、少し釈然としないが、郷に入っては郷に従えというし、これが普通なのだろう。そう思って割り切ることにした。
 検分が終わったのか、アインさんが荷物をこちらに持ってくる。

「終わったよ、特に問題はないね、気になるものは何点かあったけど......」

 そういって、彼はこちらをちらりと見る。おそらく、日本語で書かれた本や写真、それに貴金属の類だろう。しかし、それに彼は言及できないそうだ。
 これは事前にアリアが言っていたのだが、危険性がないと確認できたものに関しては、如何におかしなものであろうとも検査側は言及してはいけないそうだ。魔道具などは用途を説明しないといけないそうだが。

「ありがとうございます。じゃあ、次ですね」

 アリアは彼の無言の訴えをスルーして、荷物を背負う。俺は彼の視線が痛く、目線を逸らすことしかできなかった。

「......はぁ、アリアが大丈夫だと思うならいいか。じゃあ行こうか。」

 どうやらアリアは思った以上に信頼されているようだ。一人で納得した様子のアインさんに連れられて向かった先には、一つの綺麗な水晶玉があった。

「じゃあここに手をかざしてくれ」
「私から行くよ」

 アリアがその水晶玉に手をかざせば、ぼんやりと青く光る。どういう原理かは知らないが、これで犯罪者の選別を行っているということだろう。

「次はアカツキ君だね。頼むよ」
「あ、はい」

 緊張しながら、手をかざす。若干、魔力が吸われたようだ。ほんとに微量だが。
 固唾を呑んで、見守っていると水晶玉がぼんやりと光を放ち......

「青だね。これで二人とも大丈夫だ」
「じゃあ、はい。これ、私のギルドカードとソウジ君の分の通行料」
「確かに。じゃあ、ようこそ! 『クォーツリク』へ!」

 異世界に来て、約二週間やっと文明へとたどり着いた。
 わくわくが抑えられず、にやけた顔のまま、俺は門を潜った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...