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第57話 自分と向き合う
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僕が下がってどれほどの時間が経過しただろうか。
ガーベラは一人で百本あった触手を半分程度にまで減らしていた。
もちろん、初めの数本は僕も手伝ったが、体力がもたなかったので、彼女に丸投げした。
彼女は文句も言わずに黙々と触手を切り落としている。
「ガーベラ、体力が戻ってきたから少し手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、危険なので、そこで見ててください。それか、戦える人物を呼んできてくれると助かります」
どうやら、ガーベラの中では僕は戦える人ではないらしい。
やはり、モブ道を極めた僕は戦闘要員としてはカウントされない。
実際、レベル千の動きをした反動で全身が痛い。
体力は戻ってきたが、痛みでまともには動けない。
体力の回復中も色々考えてはみた。
それに『ピュア』を使って相手を無力化することも試してみた。
でも、周囲がうるさすぎて声が本体まで届かない。
どうやら、聞こえないとスキルは発動しないらしい。
触手が暴れ回るせいでテーブルやその上の食器が壊れまくっている。
触手の暴風の中で大声でスキルを発動しても空振りに終わる。
無情にも僕が無力であることは確定してしまっていた。
人脈もミジンコの僕は誰が戦える要員なのかすら知らない。
知っているとしたら、婚約者の残る二人だけだが、王城から屋敷までは少し距離がある。
近衛騎士団の団員すら把握していない。
白虎組の組長だけはわかるが、彼は今のところ避難誘導に尽力している。
他にも組長がいそうなものだが、誰も来る気配がない。
助けを求めることすらできない。
自分の無力さが情けなくなってきた。
生前の僕ならここで諦めたか、ズルをしただろう。
ズルでも切り抜けられない現状は逃げるくらいしかやる事がない。
でも、ガーベラに対して裏切るような行為はしたくなかった。
これが生前の僕との違いと言える。
以前なら大切にしたい対象が自分だけだった。
僕はガーベラを大切にしたい。
ガーベラを守りたい。
誰かを守るなんて今の無力な僕にはできないかもしれないが、こんな気持ちになったことでさえなかった。
ここにきて成長を実感した。
しかし、無力であることには変わりない。
体が痛くて動かない。
痛いなら、痛くなくなればいい。
『ピュア』「僕は痛みを感じなくなる」
効果は凄まじかった。
一気に痛みはなくなり、僕を縛り付けていた鎖は全てなくなった。
再度動けるようになった僕はガーベラの背中を追いかけて、彼女に追いつこうとした。
「ガーベラ、一緒に戦うよ。君の背中を守りたいんだ」
「ありがとうございます。無理はしないでくださいね」
「ああ」
返事すると同時に違和感を覚える。
僕はガーベラの背中を守りたかったのか?
違う。
ガーベラを守りたかったんだ。
触手の攻撃を避けながら進んでいく。
ガーベラの横に並び、彼女の横顔を見る。
「ガーベラ、僕が前衛をするよ。後ろを頼んだ」
「え、で、でも……」
「いいんだ」
ガーベラは僕の勢いに押される形で後衛へ回った。
僕も前衛にこだわったのは理由がある。
少しでも前へ出れば声が届くかもしれないからだ。
スキルの発動するだけの距離に一歩でも近づけば勝負は決まる。
引き続き、触手を切り付ける。
勝負は一瞬の出来事でどちらにも傾くものだ。
ほんの小さなきっかけで変わる。
呼吸の一つでも変わりえるほど、繊細な攻防戦だった。
まさに一瞬の出来事だった。
これまでに何度も背中を守ってくれていたガーベラの動きが一息ついた瞬間に触手を一本撃ち漏らしたのだ。
ガーベラにしてはめずらしいミスだが、本来であれば大きなミスにはならない。
いつもガーベラは戦っている時は基本的に一人だからだ。
しかし、今は僕というお荷物を抱えている。
その一本の触手を撃ち漏らしたがために、そのカバームーブが必要となった。
カバーのために遅れた一手は、次の攻撃にも後手に回り、これまで主導権を握っていた。ガーベラが後手に回るきっかけとなってしまった。
後手に回ったガーベラは触手の物量に押されるようになり、後衛から崩れる形で僕の背中に触手が迫ってきた。
ガーベラはとても悔しそうな顔をしているが、それは後で慰めよう。
今は、前後同時に触手に迫られている状況を打開しなければならない。
半分まで減っていた触手はさらに半分くらいまでには減ってきていたが、ガーベラはその間休みなしで戦っていた。
ミスの一つもするだろう。
僕は、背中側の触手を諦めた。
触手の攻撃方法は打ち付ける攻撃と締め付ける攻撃の二パターンであることはわかっていた。
あと20本というところなので、もう本体も近い。
一気に前方の触手を根本から切り落とし、あわよくば後方の触手の根元も切り落とす作戦にした。
場合によっては本体に『ピュア』を食らわせることもできる。
二本切り落とした。
後方の触手の根本ではなかったらしく、後ろからはまだ攻めてくる。
背中に打ち付ける攻撃を受けた。
僕は一気に前方へ押し出される。
うねうねと動く触手の根元に近づいた。
もう『ピュア』の射程圏内だろう。
『ピュア』「ぉ……ぁ……」
声が出ない。
どうやら、さっきの攻撃で肺にダメージを負ったらしい。
呼吸もままならない。
痛みは無いので大怪我だと気づけなかった。
どうやら肺が破裂しているのだろう。
呼吸ができなければいくら苦痛がなくても動く事ができない。
その場にうずくまる。
ガーベラは周囲の触手に手一杯だ。
詰んだ。
どぉぉぉおぉおおおん!!
その時、部屋の中で大爆発が起こった。
敵の攻撃か?
意識が薄くなりそうななか、必死で自分の身を守るように丸くなった。
煙の中から現れたのは、サルビアだった。
どうやら、近衛騎士が屋敷へ伝令に行ってくれていたようだ。
剣聖だけでダメなら賢者も呼ぼうという考えだったらしい。
確かに、近衛騎士が束になっても勝てないガーベラが苦戦するなら、並の味方では逆に足を引っ張る恐れがある。
賢者サルビアを呼ぶのは妥当な考えだ。
直後、回復魔法を使ってくれた。
肺のダメージが回復した。
呼吸を整え、僕は叫んだ。
『ピュア』「魔王もどきよ! 自滅しろ!」
魔王もどきは触手を自らに叩きつけ、みるみる弱っていった。
『ピュア』「テイム!」
「アーサーさん……。素敵です……」
ぼそりと小声が響いた。
ガーベラは一人で百本あった触手を半分程度にまで減らしていた。
もちろん、初めの数本は僕も手伝ったが、体力がもたなかったので、彼女に丸投げした。
彼女は文句も言わずに黙々と触手を切り落としている。
「ガーベラ、体力が戻ってきたから少し手伝うよ」
「ありがとうございます。でも、危険なので、そこで見ててください。それか、戦える人物を呼んできてくれると助かります」
どうやら、ガーベラの中では僕は戦える人ではないらしい。
やはり、モブ道を極めた僕は戦闘要員としてはカウントされない。
実際、レベル千の動きをした反動で全身が痛い。
体力は戻ってきたが、痛みでまともには動けない。
体力の回復中も色々考えてはみた。
それに『ピュア』を使って相手を無力化することも試してみた。
でも、周囲がうるさすぎて声が本体まで届かない。
どうやら、聞こえないとスキルは発動しないらしい。
触手が暴れ回るせいでテーブルやその上の食器が壊れまくっている。
触手の暴風の中で大声でスキルを発動しても空振りに終わる。
無情にも僕が無力であることは確定してしまっていた。
人脈もミジンコの僕は誰が戦える要員なのかすら知らない。
知っているとしたら、婚約者の残る二人だけだが、王城から屋敷までは少し距離がある。
近衛騎士団の団員すら把握していない。
白虎組の組長だけはわかるが、彼は今のところ避難誘導に尽力している。
他にも組長がいそうなものだが、誰も来る気配がない。
助けを求めることすらできない。
自分の無力さが情けなくなってきた。
生前の僕ならここで諦めたか、ズルをしただろう。
ズルでも切り抜けられない現状は逃げるくらいしかやる事がない。
でも、ガーベラに対して裏切るような行為はしたくなかった。
これが生前の僕との違いと言える。
以前なら大切にしたい対象が自分だけだった。
僕はガーベラを大切にしたい。
ガーベラを守りたい。
誰かを守るなんて今の無力な僕にはできないかもしれないが、こんな気持ちになったことでさえなかった。
ここにきて成長を実感した。
しかし、無力であることには変わりない。
体が痛くて動かない。
痛いなら、痛くなくなればいい。
『ピュア』「僕は痛みを感じなくなる」
効果は凄まじかった。
一気に痛みはなくなり、僕を縛り付けていた鎖は全てなくなった。
再度動けるようになった僕はガーベラの背中を追いかけて、彼女に追いつこうとした。
「ガーベラ、一緒に戦うよ。君の背中を守りたいんだ」
「ありがとうございます。無理はしないでくださいね」
「ああ」
返事すると同時に違和感を覚える。
僕はガーベラの背中を守りたかったのか?
違う。
ガーベラを守りたかったんだ。
触手の攻撃を避けながら進んでいく。
ガーベラの横に並び、彼女の横顔を見る。
「ガーベラ、僕が前衛をするよ。後ろを頼んだ」
「え、で、でも……」
「いいんだ」
ガーベラは僕の勢いに押される形で後衛へ回った。
僕も前衛にこだわったのは理由がある。
少しでも前へ出れば声が届くかもしれないからだ。
スキルの発動するだけの距離に一歩でも近づけば勝負は決まる。
引き続き、触手を切り付ける。
勝負は一瞬の出来事でどちらにも傾くものだ。
ほんの小さなきっかけで変わる。
呼吸の一つでも変わりえるほど、繊細な攻防戦だった。
まさに一瞬の出来事だった。
これまでに何度も背中を守ってくれていたガーベラの動きが一息ついた瞬間に触手を一本撃ち漏らしたのだ。
ガーベラにしてはめずらしいミスだが、本来であれば大きなミスにはならない。
いつもガーベラは戦っている時は基本的に一人だからだ。
しかし、今は僕というお荷物を抱えている。
その一本の触手を撃ち漏らしたがために、そのカバームーブが必要となった。
カバーのために遅れた一手は、次の攻撃にも後手に回り、これまで主導権を握っていた。ガーベラが後手に回るきっかけとなってしまった。
後手に回ったガーベラは触手の物量に押されるようになり、後衛から崩れる形で僕の背中に触手が迫ってきた。
ガーベラはとても悔しそうな顔をしているが、それは後で慰めよう。
今は、前後同時に触手に迫られている状況を打開しなければならない。
半分まで減っていた触手はさらに半分くらいまでには減ってきていたが、ガーベラはその間休みなしで戦っていた。
ミスの一つもするだろう。
僕は、背中側の触手を諦めた。
触手の攻撃方法は打ち付ける攻撃と締め付ける攻撃の二パターンであることはわかっていた。
あと20本というところなので、もう本体も近い。
一気に前方の触手を根本から切り落とし、あわよくば後方の触手の根元も切り落とす作戦にした。
場合によっては本体に『ピュア』を食らわせることもできる。
二本切り落とした。
後方の触手の根本ではなかったらしく、後ろからはまだ攻めてくる。
背中に打ち付ける攻撃を受けた。
僕は一気に前方へ押し出される。
うねうねと動く触手の根元に近づいた。
もう『ピュア』の射程圏内だろう。
『ピュア』「ぉ……ぁ……」
声が出ない。
どうやら、さっきの攻撃で肺にダメージを負ったらしい。
呼吸もままならない。
痛みは無いので大怪我だと気づけなかった。
どうやら肺が破裂しているのだろう。
呼吸ができなければいくら苦痛がなくても動く事ができない。
その場にうずくまる。
ガーベラは周囲の触手に手一杯だ。
詰んだ。
どぉぉぉおぉおおおん!!
その時、部屋の中で大爆発が起こった。
敵の攻撃か?
意識が薄くなりそうななか、必死で自分の身を守るように丸くなった。
煙の中から現れたのは、サルビアだった。
どうやら、近衛騎士が屋敷へ伝令に行ってくれていたようだ。
剣聖だけでダメなら賢者も呼ぼうという考えだったらしい。
確かに、近衛騎士が束になっても勝てないガーベラが苦戦するなら、並の味方では逆に足を引っ張る恐れがある。
賢者サルビアを呼ぶのは妥当な考えだ。
直後、回復魔法を使ってくれた。
肺のダメージが回復した。
呼吸を整え、僕は叫んだ。
『ピュア』「魔王もどきよ! 自滅しろ!」
魔王もどきは触手を自らに叩きつけ、みるみる弱っていった。
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