55 / 63
第55話 臨戦態勢
しおりを挟む
もうパーティはつぶすと決めた。
いや、つぶれると決まっていた。
何者かはわからないが、お兄様に成り代わっている。
いつものトリスタンお兄様は実直な方だ。
自分の間違いに対して謝罪がないことなんてない。
徽章を付け間違えることもない。
この気づきは僕が純粋な心でパーティ会場と向き合って得た成果だ。
大事にしていきたい。
今まで生きてきた中で一番の成果と言っていも過言ではない。
前世から、僕は大事なところでいつも足元を見ていた。
僕が好きだった女の子と大山健一君が付き合い始めたところでも。
就活の面接でのグループディスカッションの場でも。
今は違う。
正面を見据えて、真実を見抜くことができる。
それに対応するためのスキルもある。
実際、アドルフお兄様を使って行動を起こした。
今は違うんだ。
でも、何からすればみんなが助かるのかはわからない。
お兄様が人質として取られている可能性が非常に高い。
ヘタな行動はとれない。
かと言って、相談する相手は少ない。
お父様か?
僕の勘違いだったときのリスクが大きすぎる。
お母様か?
お兄様がいなくなることで僕の王位継承権が上がる。
余計な策略を練りかねない。
ガーベラか?
彼女は本来、内向的な性格であるため、パーティ会場ではスミで小さくなっている。
とても、今の状況を打開する案を考えられるとは思えない。
アドルフお兄様か?
そもそも、アドルフお兄様はこの場にいない。
先ほど、ワインをかけてしまったからだ。
一緒についていっている。
今頃謝罪しているはずだ。
そこへトリスタンお兄様もついていっているはずなので、彼らが帰ってくる前に問題解決する必要がある。
僕の相談できそうな相手はこれくらいだ。
もちろん貴族の中に顔見知りはいるが、自分への利益をベースに考える傾向が強い彼らに相談すれば、僕が望む円満解決にはならないだろう。
一番信頼できるストライク家であっても同じことが言える。
それに、他の兄姉の顔はわかるが、あくまで他人という枠からは出ない程度の付き合いしかない。
嫌われていたアドルフお兄様が一番近しい兄弟となったことは皮肉なことだ。
つまり、この状況は誰にも相談せずに僕一人の力で解決する必要があることがわかった。
できる範囲の準備をしておくしかない。
トリスタンお兄様が帰ってくるまでの時間でできるかぎりの準備を行った。
そして、トリスタンお兄様たちは帰ってきた。
「アドルフお兄様、大丈夫でしたか?」
「ああ、俺としたことが大きな失敗をしてしまった。トリスタンお兄様には恥をかかせてしまったな」
「謝罪は受け入れてもらえたということですかね? よかったです。何かおかしな点はありませんでしたか?」
「おかしな点? 特には気づかなかったが、ああ、お兄様の軍服の徽章の位置が逆なことくらいかな?」
なるほど、アドルフお兄様も気づいてはいるわけだ。
もちろん確証には至っていないから、違和感を覚える程度だということだな。
僕も確証を得ていないから困っている。
しかし、僕にはそれをはっきりさせる手段を持っている。
『ピュア』「トリスタンお兄様、大丈夫でしたか? 徽章を付け間違えたり、間違いを訂正しないのは普段のお兄様らしくありませんね。正体を現してください」
「あっはっは、アーサーは冗談も言うようになったんだな。確かに徽章は付け間違えていたけど、これは、普段のメイドではないメイドに着付けを頼んだからだよ? 正体も何も、私は私だ」
あれ?
勘違いだった?
いや、宰相の時にやられた『ピュア』を無効化する方法がある。
その後、調べてわかったが、事前に「催眠術にはかからない」という自己暗示をしこんでおけば『催眠術』にかからないことがわかった。
宰相はこの手法を使って僕の『催眠術』を回避していたのだ。
今回もそのケースであると考えられる。
仮にそのケースが当てはまるのであれば、魔王級の災害が起こる可能性を示唆している。
非情に危険だ。慎重にことを進める必要がある。
『ピュア』「そんなこと言ったって事実は変わりませんよ。お兄様は『催眠術』が効くようになります」
僕は『催眠術』の上書きをした。
同じスキルが使われている場合、上位のスキルで上書きできることは時を止めた謎の人物が教えてくれた。
今の僕の催眠術は『ピュア』と『催眠術』を同時に使っている状態だ。
ある種、上位版と言えるのではないか? と、予想した。
「ああ、そうだな。お前の『催眠術』は効くようになったようだ」
『ピュア』「そうですか、それでは、改めてお願いしましょう。正体を現してください」
ボウッ
会場全体が強烈な風に包まれた。
トリスタンお兄様の胴体からは無数のぶっとい触手が生えている。
顔面は醜い姿に変わりはて、衣服は全て破れさり、黒紫色のタコに変身している。
その姿を見て、とっさに『鑑定』を使っていた。
『鑑定結果 魔王もどき(因子)年齢不詳 性別不詳 スキル【魔王因子 レベル512】(変装 レベル5)』
変装レベルが中途半端だから細かなミスがあったのか?
それにしても『魔王因子』ってなんだ?
『魔王因子…魔王に近づこうとするもののエネルギー。魔王の力の一部が使える』
なんだこれ? 魔王の力の一部ってことはこの前倒したヤツの力の一部ってことか?
そんなヤツがこの場で暴れたら国の重鎮が死にまくるぞ?
これはまずい。
ここまでとは想定していなかった。
しかし、準備もしていた。
魔王戦の時に知り合った、白虎組組長ロウリッヒに頼んで、近衛兵に警備を強化させた。
何かが起こったときは、王侯貴族を優先して助けるように指示しておいた。
近衛騎士に知り合いがいて助かった。
さて、あとはコイツをどうするかだな。
横を見ると、ドレスの裾を剣で切り、動きやすい服装になっているガーベラがいた。
もう、臨戦態勢だ。
さすがだな。
さっきまでのパーティ会場のスミで小さくなっていたガーベラではない。
僕は婚約者の前で少しくらいはカッコつけられるような動きをしてみようかな?
いや、つぶれると決まっていた。
何者かはわからないが、お兄様に成り代わっている。
いつものトリスタンお兄様は実直な方だ。
自分の間違いに対して謝罪がないことなんてない。
徽章を付け間違えることもない。
この気づきは僕が純粋な心でパーティ会場と向き合って得た成果だ。
大事にしていきたい。
今まで生きてきた中で一番の成果と言っていも過言ではない。
前世から、僕は大事なところでいつも足元を見ていた。
僕が好きだった女の子と大山健一君が付き合い始めたところでも。
就活の面接でのグループディスカッションの場でも。
今は違う。
正面を見据えて、真実を見抜くことができる。
それに対応するためのスキルもある。
実際、アドルフお兄様を使って行動を起こした。
今は違うんだ。
でも、何からすればみんなが助かるのかはわからない。
お兄様が人質として取られている可能性が非常に高い。
ヘタな行動はとれない。
かと言って、相談する相手は少ない。
お父様か?
僕の勘違いだったときのリスクが大きすぎる。
お母様か?
お兄様がいなくなることで僕の王位継承権が上がる。
余計な策略を練りかねない。
ガーベラか?
彼女は本来、内向的な性格であるため、パーティ会場ではスミで小さくなっている。
とても、今の状況を打開する案を考えられるとは思えない。
アドルフお兄様か?
そもそも、アドルフお兄様はこの場にいない。
先ほど、ワインをかけてしまったからだ。
一緒についていっている。
今頃謝罪しているはずだ。
そこへトリスタンお兄様もついていっているはずなので、彼らが帰ってくる前に問題解決する必要がある。
僕の相談できそうな相手はこれくらいだ。
もちろん貴族の中に顔見知りはいるが、自分への利益をベースに考える傾向が強い彼らに相談すれば、僕が望む円満解決にはならないだろう。
一番信頼できるストライク家であっても同じことが言える。
それに、他の兄姉の顔はわかるが、あくまで他人という枠からは出ない程度の付き合いしかない。
嫌われていたアドルフお兄様が一番近しい兄弟となったことは皮肉なことだ。
つまり、この状況は誰にも相談せずに僕一人の力で解決する必要があることがわかった。
できる範囲の準備をしておくしかない。
トリスタンお兄様が帰ってくるまでの時間でできるかぎりの準備を行った。
そして、トリスタンお兄様たちは帰ってきた。
「アドルフお兄様、大丈夫でしたか?」
「ああ、俺としたことが大きな失敗をしてしまった。トリスタンお兄様には恥をかかせてしまったな」
「謝罪は受け入れてもらえたということですかね? よかったです。何かおかしな点はありませんでしたか?」
「おかしな点? 特には気づかなかったが、ああ、お兄様の軍服の徽章の位置が逆なことくらいかな?」
なるほど、アドルフお兄様も気づいてはいるわけだ。
もちろん確証には至っていないから、違和感を覚える程度だということだな。
僕も確証を得ていないから困っている。
しかし、僕にはそれをはっきりさせる手段を持っている。
『ピュア』「トリスタンお兄様、大丈夫でしたか? 徽章を付け間違えたり、間違いを訂正しないのは普段のお兄様らしくありませんね。正体を現してください」
「あっはっは、アーサーは冗談も言うようになったんだな。確かに徽章は付け間違えていたけど、これは、普段のメイドではないメイドに着付けを頼んだからだよ? 正体も何も、私は私だ」
あれ?
勘違いだった?
いや、宰相の時にやられた『ピュア』を無効化する方法がある。
その後、調べてわかったが、事前に「催眠術にはかからない」という自己暗示をしこんでおけば『催眠術』にかからないことがわかった。
宰相はこの手法を使って僕の『催眠術』を回避していたのだ。
今回もそのケースであると考えられる。
仮にそのケースが当てはまるのであれば、魔王級の災害が起こる可能性を示唆している。
非情に危険だ。慎重にことを進める必要がある。
『ピュア』「そんなこと言ったって事実は変わりませんよ。お兄様は『催眠術』が効くようになります」
僕は『催眠術』の上書きをした。
同じスキルが使われている場合、上位のスキルで上書きできることは時を止めた謎の人物が教えてくれた。
今の僕の催眠術は『ピュア』と『催眠術』を同時に使っている状態だ。
ある種、上位版と言えるのではないか? と、予想した。
「ああ、そうだな。お前の『催眠術』は効くようになったようだ」
『ピュア』「そうですか、それでは、改めてお願いしましょう。正体を現してください」
ボウッ
会場全体が強烈な風に包まれた。
トリスタンお兄様の胴体からは無数のぶっとい触手が生えている。
顔面は醜い姿に変わりはて、衣服は全て破れさり、黒紫色のタコに変身している。
その姿を見て、とっさに『鑑定』を使っていた。
『鑑定結果 魔王もどき(因子)年齢不詳 性別不詳 スキル【魔王因子 レベル512】(変装 レベル5)』
変装レベルが中途半端だから細かなミスがあったのか?
それにしても『魔王因子』ってなんだ?
『魔王因子…魔王に近づこうとするもののエネルギー。魔王の力の一部が使える』
なんだこれ? 魔王の力の一部ってことはこの前倒したヤツの力の一部ってことか?
そんなヤツがこの場で暴れたら国の重鎮が死にまくるぞ?
これはまずい。
ここまでとは想定していなかった。
しかし、準備もしていた。
魔王戦の時に知り合った、白虎組組長ロウリッヒに頼んで、近衛兵に警備を強化させた。
何かが起こったときは、王侯貴族を優先して助けるように指示しておいた。
近衛騎士に知り合いがいて助かった。
さて、あとはコイツをどうするかだな。
横を見ると、ドレスの裾を剣で切り、動きやすい服装になっているガーベラがいた。
もう、臨戦態勢だ。
さすがだな。
さっきまでのパーティ会場のスミで小さくなっていたガーベラではない。
僕は婚約者の前で少しくらいはカッコつけられるような動きをしてみようかな?
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる