中身はクズモブなのに『ピュア』だけでゴリ押す第六王子のハーレムは完成する〜非戦闘スキルなのにバトルも無双〜

ahootaa

文字の大きさ
上 下
54 / 63

第54話 小さな変化

しおりを挟む
 パーティはいつも通り最低のものだった。
 僕はいつも通り会場のスミで小さくなっていた。
 ダンジョンでは暴れまわるガーベラも内気な性格だから小さくなっていた。
 いくら婚約者とはいえ、今の身分が町娘のセルビアとメイドのアイリスは入場することすら許してもらえない。
 僕の味方はいなかった。
 アステリアさんは人だかりの中。
 話題の中心。
 僕はモブだった。
 何もできなかった。

 きっかけとなったのは一つのことだった。
 いつもと違うことは一つだけだった。
 ほんの小さな変化だ。
 いつもどおり、壁とにらめっこしていたら気づかない程度のほんの小さい変化。
 僕は『ピュア』の副作用で少しずつ純粋に物事を見ることができるようになってきている。
 モブでクズな自分とは「おさらば」しようとし始めているのだ。
 意味もなくふと顔を上げた時に気づいたのだ。
 
「トリスタンお兄様、こんばんは」
 パーティで初めてしゃべって言葉だ。
 サリューム王国のパーティは立食形式をとることが多く、自分から話しかけに行かなければ、誰とも話すことなく終わってしまう。
 何もせずに終わるということは、何もする気がないと世間に言っているようなもの。
 その姿を見た社交界の面々はすぐに噂を広める。
 やれ「アーサー王子は王子としての自覚がない」だの、やれ「アーサー王子を産んだイザベラ王妃が不憫だの」と。
 これらの噂は一度広まると払拭することはできない。
 具体的な本名で広まる分、SNSで拡散されるよりタチが悪い。
 
「こんばんは、アーサー。話しかけてくるなんて、めずらしいね」
 やはり、ちがう。
 予感や直感に近い違和感は確信に変わりつつある。
「お兄様、徽章の位置が逆ですよ?」
 そう、軍人であるお兄様はパーティといえど、軍服で徽章をつけている。
 軍人にとって、軍服は一番の礼服と言える。
 規律に厳しいお兄様が徽章の位置を間違えるなんてありえないことだ。

「おっと、そうだったかな? 今日はこの気分だったんだ」
 おかしい。
 決定的だ。
 確実に違う。
 断言できる。
 お兄様なら間違えない上に、間違えを指摘された場合、すぐに訂正して謝罪がある。
 
「そうでしたか。それは無粋な指摘でしたね。失礼しました」
「いや、いいんだよ。それより、ガーベラさんをエスコートしてあげたらどうなんだい? レディを一人にするものではないよ?」
 うん。
 レディとかも言わないな。
 完全に別人だ。
 なんで周りは気づかないんだ?
 王位継承権を持っている第三王子が別人に入れ替わっているなんて大事件だろうに。
 
「アーサーさん、やっと見つけました。ずっと探していたのですよ?」
 そこへアステリアさんが割り込んできた。
 これはラッキーなのか?
 いや、危険な予感がするから、来賓にはご退場願おう。
「いえ、ちょっと、気分がすぐれないもので、会場のスミにいました。ちょっと、今も調子が悪いので、そっとしておいてもらえると助かります」
「そうでしたか。それは失礼いたしました。それでは、私の魔法で癒しますね。少々お待ちを」
「あ、と、いえ、そうではなく、私は人込みが苦手なだけで、魔法では治らないかと思います」
「そうでしたね。重ね重ね失礼いたしました」
 そうでしたね?
「あれ? このこと話しましたっけ?」
「いえ、そう思っただけです」
「ん?」
 アステリアさんはにこにこ微笑んでいる。
 なんなんだ?

 いや、それより、お兄様の異変の方が問題だ。
「アーサーさん、どうやら、このパーティは荒れますよ? 戦闘の準備が必要かもしれません」
 アステリアさんは、何やら嗅ぎつけたようだ。
 僕はお兄様から気づいたが、アステリアさんは別の理由から怪しいと断定したらしい。
 
「そうですね。僕もそう考えていました。ガーベラに伝えてきます」
「ええ、そうしてください。剣聖も剣が無ければ実力を発揮できないでしょう」
 そっと、その場を離れ、ガーベラの元へ急ぐ。
 と言っても近くの壁とにらめっこしているからすぐ近くだ。問題はない。

「ガーベラ、少しいい?」
「ええ、アーサー、またいつかのパーティみたいに私を助けに来てくれたのね。ありがとう」
「助けたい気持ちはあるけど、今は違う理由だ。どうやら、きな臭いんだ。お兄様の様子もおかしいし、アステリアさんは戦闘があると言っている」
「戦闘?」
 と尋ねてくる彼女の瞳に少しの火が灯った。
 さすがバトルジャンキー。

「うん、どうやら、何かが起こりそうなんだ。ガーベラは戦闘になっても大丈夫な準備をしてほしいんだ」
「それなら大丈夫よ」
 チラリとドレスの裾をまくり上げるとショートソードが見えた。
 さすがバトルジャンキー。

 王が出席するパーティと言えど、ドレスの中まで検査はしないのか。
 暗殺し放題だな。
 まあ、暗殺するような人は入れないんだろうけど。
 いや、暗殺事態はよくあるな。
 王族あるあるだ。

 さて、次はトリスタンお兄様がエスコートしている、女性を救出しなければ。
 彼女はトリスタンお兄様の婚約者である侯爵令嬢だ。
 最悪、彼女もお兄様の偽物の仲間という可能性がある。
 穏便に済ませたいな。
 昔は僕のことを嫌っていたアドルフお兄様に手伝ってもらおう。
 以前『ピュア』の重ね掛け実験をして以来ずっと気に入られている。
 その後の実験でわかったが、どうやらアドルフお兄様も僕と仲良くしたかったようだ。
 しかし、立場的にも年齢的にも周囲は競わせたかったようだ。
 それに乗っかってしまったお兄様は僕と敵対する立場を選んだ。
 それでも、僕のスキルをきっかけに僕に好意を抱くまでに心情の変化があった。

「アドルフお兄様、お久しぶりです」
「やあ、アーサー、会いたかったよ。君から挨拶に来るなんて珍しいね」
『ピュア』「いえ、そんなことより、トリスタンお兄様の婚約者であるサイレースさんのドレスにワインをかけてきて下さい」
「ああ、わかったよ」
 一直線にサイレースさんのところへ行き、ワインをぶちまけた。
 彼女はこれで退場だ。

 場は整った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...