38 / 63
第38話 緊張感
しおりを挟む
王城の中も広い。
城は3階建てで、一階は主に近衛兵や従者の執務室がメイン。
あ、兵士用の食堂なんかもある。
二階は宰相や大臣などの上級従者や王の居室となっている。
王の居室は城の中心にあり、渦巻き状に伸びている通路の終点となっている。
これも安全面への配慮だ。
三階は謁見の間がメインで、隣に王の執務室がある。
お父様は日中、おもに三階で過ごされる。
上級従者というのは、日本でいう内閣と似ている。
自分のお気に入りを大臣として任命し、自分のすぐ近くに住まわせる。
宰相はその長である。
王政である以上、王の言葉は絶対だ。
ここ、サリューム王国は新興国家であるため、それほど歴史はない。
だから、政治の進め方も手探りの場合が多いそうだ。
と、フランソワが今、教えてくれた。
僕はぼーっと聞いていただけだ。
今は、王城に入り、一階の雑多な通路を抜け、二階に上がろうかというところ。
二階への階段へたどり着いたら、三階へはすぐに行ける。
あくまで、王の居室が狙われないように、渦巻き状の通路としているのだろう。
三階には近衛兵の詰め所もあるから三階に賊が出た場合はすぐに対処できる。
「それで、アーサー、あなたはどうするのですか?」
「どうとは?」
「派閥の話は聞いたのでしょ? あなたが剣聖と結婚すると言い出したときに一番恐れていたことが今から起こります。あなたは妻である剣聖を守るのか? もう一人の妻である賢者を守るのか? 父であるシャルム様を守るのか? それとも、育ててもらったフランソワを守るのか?」
うわー。
フランソワが育てたことになってる。
母としての自覚は無いのか……。
王族としてはこれが当たり前なのかな?
悲しいけど、仕方ないね。
それにしても、この選択しはどれも選べないな。
強いていうなら「お父様以外は全員助けたい」が本音かな。
でも、それを言ったら怒られるだろうな。
「全員です」
ドヤって顔で言ってやった。
「それは無謀ですね」
切って捨てられた。
じゃあ、正解は何よ?
「それではどうすればいいのですか?」
「わかりません。しかし、今も見たでしょう? 城内には動けない兵がたくさんいます。この場が戦場になれば大混戦になることは間違いないでしょう」
だよね?
だから来たくなかったんだよ。
でも、来るって言ったのはフランソワとお母様だよ?
「正直な話をすると、まずは、フランソワを守りたいです。一番身近な人間なので、お父様には近衛兵がいるから大丈夫だと信じています。あと、ガーベラとサルビアも強いので自力で生き残ってくれると信じています」
あとは、ガーベラVSサルビアだけは避けたいな。
宰相は知らん。
ほかの勢力も知らん。
勝手に死んどけ。
「三階につきましたね」
案内の兵士が声をかけてきた。
「そうですね。お父様はどちらに?」
「今は執務室です。そちらへご案内いたします」
「誰がいるかはご存じですか?」
「宰相閣下はいらっしゃいました。ほかはわかりませんね」
「そうですか」
兵士はいつも通りノックして大声で呼びかける。
すると、はいれ、と中から声がした。
いつもより覇気のない声だ。
もう、状況は把握してるのかな?
「失礼します。お父様、お忙しいところすいません」
「いや、待っていたんだ。フランソワも狙われているのか?」
「はい。確かなスジからの情報です」
後々もめそうだからラムダン子爵の名前は出さないでおこう。
向こうからこっちの名前が出ないようにはしたしな。
「そうか、お前も情報網を持つようになったか。成長したな」
いや、そんないいものではないけどね。
あ、でも、これから、ラムダン子爵は情報屋として利用できるな。
あいつ、詳しかったもんな。
毎回『催眠術』で吐かせて僕のことは黙らせよう。
いいアイデアだ。
「いえ、それほどでもないです。しかし、待っていたというのは?」
「まずは、フランソワを保護したかったのが第一だ。第二に、戦力としてだ。お前は冒険者としても活躍し『勇者』のスキルも発現させている。それに、サイト殿もおられるなら、百人力よ」
「がんばりますけど、期待はしないでくださいね。まだスキルは発現したばかりでレベル1です。サイト様もそれほど時間がなかったので、そこまでレベルは上げられていません」
「そうか、やはり厳しいか。剣聖はなんとか国家戦力として捕まえることができたのだが、賢者がいないんだよ」
やはり、サルビアは敵勢力へ吸収されたかな?
「そうですね。僕も一度家には帰ったのですが、出かけていたようです。ひょっとしたら、アウグスト公爵の手の者に連れていかれた可能性はあると思います。ただし、彼女自体がかなり強いので、無理やりは不可能かと」
「そうだな。私もそう考えている。なんらかの交換条件などで連れていかれた可能性が高いだろうな。今なら『貴族に戻れる』と言われれば飛びつくんじゃないか?」
「そうですね。彼女も婚約にあたって自分の身分は気にしているでしょうし。しかし、ご両親はそこまで貴族にはこだわっていない様子でしたよ?」
なんだったら男爵より子爵の執事の方が儲かるって言ってたし。
セージ家の人間はそこまで頭も回っていない気がする。
そんなときに扉にノックの音がした。
「失礼します。アーサー様に会いたいとガーベラ様がおいでです。よろしいでしょうか」
「通せ」
「はっ」
「アーサー、城へ来たのですね。これからここは戦場になりますよ? 大丈夫ですか?」
「ガーベラが暴走せずに僕を守ってくれれば大丈夫です」
ガーベラの顔が真っ赤に染まる。
「もう! こんな緊急事態に冗談はやめてください!」
しゃべりながらも真っ赤だった。
「ガーベラはダンジョンでは暴走しますからね。この前みたいに放っていかないでくださいよ?」
さらにからかってやった。
この場は僕の身内ばかりなので、冗談の一つでも言える。
内弁慶の極みだ。
ガーベラを案内してきた近衛兵にお父様は指示をだした。
「さあ、関係者を呼んで来い。今後について打合せをする。この場にいる皆も出席してほしい」
城は3階建てで、一階は主に近衛兵や従者の執務室がメイン。
あ、兵士用の食堂なんかもある。
二階は宰相や大臣などの上級従者や王の居室となっている。
王の居室は城の中心にあり、渦巻き状に伸びている通路の終点となっている。
これも安全面への配慮だ。
三階は謁見の間がメインで、隣に王の執務室がある。
お父様は日中、おもに三階で過ごされる。
上級従者というのは、日本でいう内閣と似ている。
自分のお気に入りを大臣として任命し、自分のすぐ近くに住まわせる。
宰相はその長である。
王政である以上、王の言葉は絶対だ。
ここ、サリューム王国は新興国家であるため、それほど歴史はない。
だから、政治の進め方も手探りの場合が多いそうだ。
と、フランソワが今、教えてくれた。
僕はぼーっと聞いていただけだ。
今は、王城に入り、一階の雑多な通路を抜け、二階に上がろうかというところ。
二階への階段へたどり着いたら、三階へはすぐに行ける。
あくまで、王の居室が狙われないように、渦巻き状の通路としているのだろう。
三階には近衛兵の詰め所もあるから三階に賊が出た場合はすぐに対処できる。
「それで、アーサー、あなたはどうするのですか?」
「どうとは?」
「派閥の話は聞いたのでしょ? あなたが剣聖と結婚すると言い出したときに一番恐れていたことが今から起こります。あなたは妻である剣聖を守るのか? もう一人の妻である賢者を守るのか? 父であるシャルム様を守るのか? それとも、育ててもらったフランソワを守るのか?」
うわー。
フランソワが育てたことになってる。
母としての自覚は無いのか……。
王族としてはこれが当たり前なのかな?
悲しいけど、仕方ないね。
それにしても、この選択しはどれも選べないな。
強いていうなら「お父様以外は全員助けたい」が本音かな。
でも、それを言ったら怒られるだろうな。
「全員です」
ドヤって顔で言ってやった。
「それは無謀ですね」
切って捨てられた。
じゃあ、正解は何よ?
「それではどうすればいいのですか?」
「わかりません。しかし、今も見たでしょう? 城内には動けない兵がたくさんいます。この場が戦場になれば大混戦になることは間違いないでしょう」
だよね?
だから来たくなかったんだよ。
でも、来るって言ったのはフランソワとお母様だよ?
「正直な話をすると、まずは、フランソワを守りたいです。一番身近な人間なので、お父様には近衛兵がいるから大丈夫だと信じています。あと、ガーベラとサルビアも強いので自力で生き残ってくれると信じています」
あとは、ガーベラVSサルビアだけは避けたいな。
宰相は知らん。
ほかの勢力も知らん。
勝手に死んどけ。
「三階につきましたね」
案内の兵士が声をかけてきた。
「そうですね。お父様はどちらに?」
「今は執務室です。そちらへご案内いたします」
「誰がいるかはご存じですか?」
「宰相閣下はいらっしゃいました。ほかはわかりませんね」
「そうですか」
兵士はいつも通りノックして大声で呼びかける。
すると、はいれ、と中から声がした。
いつもより覇気のない声だ。
もう、状況は把握してるのかな?
「失礼します。お父様、お忙しいところすいません」
「いや、待っていたんだ。フランソワも狙われているのか?」
「はい。確かなスジからの情報です」
後々もめそうだからラムダン子爵の名前は出さないでおこう。
向こうからこっちの名前が出ないようにはしたしな。
「そうか、お前も情報網を持つようになったか。成長したな」
いや、そんないいものではないけどね。
あ、でも、これから、ラムダン子爵は情報屋として利用できるな。
あいつ、詳しかったもんな。
毎回『催眠術』で吐かせて僕のことは黙らせよう。
いいアイデアだ。
「いえ、それほどでもないです。しかし、待っていたというのは?」
「まずは、フランソワを保護したかったのが第一だ。第二に、戦力としてだ。お前は冒険者としても活躍し『勇者』のスキルも発現させている。それに、サイト殿もおられるなら、百人力よ」
「がんばりますけど、期待はしないでくださいね。まだスキルは発現したばかりでレベル1です。サイト様もそれほど時間がなかったので、そこまでレベルは上げられていません」
「そうか、やはり厳しいか。剣聖はなんとか国家戦力として捕まえることができたのだが、賢者がいないんだよ」
やはり、サルビアは敵勢力へ吸収されたかな?
「そうですね。僕も一度家には帰ったのですが、出かけていたようです。ひょっとしたら、アウグスト公爵の手の者に連れていかれた可能性はあると思います。ただし、彼女自体がかなり強いので、無理やりは不可能かと」
「そうだな。私もそう考えている。なんらかの交換条件などで連れていかれた可能性が高いだろうな。今なら『貴族に戻れる』と言われれば飛びつくんじゃないか?」
「そうですね。彼女も婚約にあたって自分の身分は気にしているでしょうし。しかし、ご両親はそこまで貴族にはこだわっていない様子でしたよ?」
なんだったら男爵より子爵の執事の方が儲かるって言ってたし。
セージ家の人間はそこまで頭も回っていない気がする。
そんなときに扉にノックの音がした。
「失礼します。アーサー様に会いたいとガーベラ様がおいでです。よろしいでしょうか」
「通せ」
「はっ」
「アーサー、城へ来たのですね。これからここは戦場になりますよ? 大丈夫ですか?」
「ガーベラが暴走せずに僕を守ってくれれば大丈夫です」
ガーベラの顔が真っ赤に染まる。
「もう! こんな緊急事態に冗談はやめてください!」
しゃべりながらも真っ赤だった。
「ガーベラはダンジョンでは暴走しますからね。この前みたいに放っていかないでくださいよ?」
さらにからかってやった。
この場は僕の身内ばかりなので、冗談の一つでも言える。
内弁慶の極みだ。
ガーベラを案内してきた近衛兵にお父様は指示をだした。
「さあ、関係者を呼んで来い。今後について打合せをする。この場にいる皆も出席してほしい」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる