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第22話 狂瀾怒濤《キョウランドトウ》

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 僕は恥ずかしかった。
 偉そうに指揮をとっている姿を思い出して。
 自信満々に先頭を歩く姿を思い出して。
 魔物について知ったような口ぶりをしているのを思い出して。

 僕はただ、この場から去りたかった。
 自分が王子であることを忘れて。
 自分が隊長であることを忘れて。
 自分が転生者であることを忘れて。

 ただ走った。
 ただ逃げた。
 ただ……。

 逃げた先には屋敷があった。
 大きな屋敷だった。
 僕はこの世界の常識すら学ばずに14歳になってしまったので、どこに誰の屋敷があるかまで把握していない。
 本来なら、ダンジョンの中のことや、魔法のこと、スキルのこと、学ぶことはたくさんあったんだが、それらを全て無視してきた。
 はっきり言って、常識がない。
 全てお母様が準備してくれて、全てお父様が尻ぬぐいをしてくれていた。
 ダメ王子を絵にかいたような存在だ。

 時間がたてば、おなかは減る。
 すると、一人の少女がパンを差し出してくれた。
 おそらく、王子であるとは気づいていない。

「食べる?」
「ありがとう。もらうよ。いくらだい?」
「あげる。おなか減ったんでしょ?」
「ありがとう。もらうよ。それに、お金は持ってないんだ」
「そうなんだ。寝るとこはある?」
「無いんだ」
「そう、おいでよ」
「ありがとう」

 彼女に手を取られ、屋敷の裏口についた。
 使用人用の入り口だ。
 メイドや執事のように、元貴族でない、雇われ人を住まわせる用の小屋に案内された。

「バレるまでなら住んでていいよ」
「ありがとう。バレたら怒られるんじゃないの?」
「大丈夫だよ。ご主人様はやさしいし。それに、私、今さみしいんだ。誰かが一緒にいてほしいの」
「そうなんだ。僕でよければ時間はいくらでもあるよ」
「いいの?ありがとう。ごはん取ってくるね」
「まだいいの?ありがとう」

 少女は小屋を出て行った。
 僕は周囲を見回してみるが、どうやら、彼女は奴隷身分のようだ。
 小屋の中はお世辞にもきれいとは言えない状況だった。
 どんな身分とは言え、彼女の優しさには救われた。
 クズな僕は甘えることは得意だ。
 いただけるものは何でももらう。
 しゃぶりつくすと言っても過言ではない。
 実際、14年間王子という立場を利用して、ぐーたらしていた。

 さて、少女と言ったものの、前世の自分よりは年下というだけで、今の体から比べると年上のお姉さんだ。
 そして、甘えさせてくれる。
 そして、彼女も温かさが欲しかった。
 自然とキスする。
 初キスだ。
 出会って一時間の良く知らないお姉さんとしてしまった。
 麻でできた彼女の簡素な服の上から胸の膨らみを感じる。
 18歳くらいだろうか?
 たっぷりと膨らみを堪能した後、手は彼女に誘導されるがまま、下半身へ。
 キスがより、ねっとりとしたものに変わる。
 どうやら彼女は泣いているようだ。
 何の涙なのかは聞かない。
 聞いてしまうと、この後のことができなくなるからだ。
 下半身の準備を確認すると、お互いの服を脱がせ合った。
 クズな僕はこうして名前も知らないお姉さんに抱かれた。
 そう、抱かれたのだ。
 僕は抵抗しなかっただけ。
 気持ちよかったが、スッキリした気持ちにはならなかったのが、僕の卒業だった。
 全てが成り行き任せの、人任せ。
 最中も全てお姉さん任せ。
 僕は卒業した。
 何度も卒業のための儀式を行った。
 朝が来るまで、何度も、何度も。
 翌朝、お姉さんは朝ごはんを持ってきてくれた。
 
 そして、昼ごはんの時間には、お姉さんは売られて行った。
 どうやら、このお屋敷の貴族は取り潰しになり、お姉さんの家族は昨日売られていったらしい。
 結局、僕の初めての人の名前はわからないままだった。
 どこへ売られていったのかもわからない。
 お姉さんと交わした言葉も数えるほど。
 おそらく、体を触れ合った回数の方がしゃべった回数より多い。
 
 その後、家財道具を買い取りに来た業者から知らされるのであった。
 この屋敷の持ち主がセージ家であることを。
 そう、僕の従者となる予定であった、『賢者』サルビア・セージの生家であることを。
 いわく、セージ家はストライク家とトラブルになり、負けた。
 いわく、セージ家は最後の賭けに出て失敗し、王家を敵に回した。
 いわく、セージ家はお家取り潰しになった。

 サルビアは平民に落とされ、どこかで暮らしていると。
 路銀が無いため、城下町のどこかにいるということも。
 
 全て僕のせいだった。
 僕がサルビアを簡単に口説いてしまったから。
 僕がサルビアに『ピュア』を使ってしまったから。
 僕のせいでセージ家が取り潰しになった。
 だから、探しに行くことはできなかった。

 その日の食事はなかった。
 その日の夜はお姉さんと寝た小屋で過ごした。
 お姉さんのぬくもりを思い出しながら。
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