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第21話 テング

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 今日からは6階層の攻略を進める。
 正直、何も知らない。
 しかし、アーサー部隊は元ガーベラ部隊である。
 かなりの深さまで潜っているらしい。
 僕は知らなくても周囲は知っている。
 だから、頼ればいい。

「なぁ、これより先へは行ったことないんだけど、どんな魔物がいるんだ?」
「10階層までザコは同じですよ。兄さんでしたら余裕なはずです。それに、俺たちには、ラフレシアとオーガがいますしね」
「そうなんだ。一晩寝たからまたテイムはできるけど、階層主はテイムした方がいいかな?」
「そうですね。できるならした方がいいですけど、多分無理です」
「どうしてだい?」
「すぐに自爆攻撃をするんですよ」
「なるほど。捕まえると、爆弾として使えるわけか」
「へい」

 どんなやつか知らんけど、捕まえてみるか。
 自爆攻撃は食らいたくないけど。
 まぁ、日程的には6階層クリアの段階で帰還だな。
 無理をする必要もないか。
 それにしても、さすが、ガーベラが鍛えてただけあって優秀な部隊だな。
 よくダンジョンのことを知ってる。
 これなら安心だ。

「兄さん、ザコは適当に処分しておきますぜ」
「ああ、頼んだ」
「了解でっす」
 気もつくし、優秀だ。
 褒めておくか。

「なぁ、ガラハッド、お前たちってホント優秀だよな。ガーベラに鍛えられたんだな」
「分かりますか?あっしらの苦労。ガーベラ隊長は先々いっちまうし、残された俺たちは俺たちだけで生き延びるしかなかったんです」
「ああ、僕もガーベラとダンジョンへ潜ったことがあるからよくわかるよ」
「そうでしたか。同志でしたか。俺ら凡人が剣聖無しで生き残るのがどれほど過酷かわかってもらえますよね?」
「そうだな。僕も怖い思いをしたよ。気づいたら独りぼっちだったからな」
 うんうん、と返事している。

 どうやら、ガーベラは隊長時代もやらかしていたようだな。
 彼女は戦いとなると、周りが見えなくなるのは悪いクセだ。
 しかし、かわいいところでもある。
 いつも真面目なガーベラがダンジョンに入った途端に性格が変わるんだ。
 普段とのギャップがかわいい。
 あとは、もう少し僕に甘えてくれてもいいと思うんだが、どうやら、恥ずかしいらしい。
 そういう関係になりにくいのは、僕も恥ずかしいからだし、仕方ないか。
 婚約パーティの時に手の甲にキスをさせられただけで頭が爆発しそうだった。
 そういえば、あれ以来彼女には触れていないな。

 本当に婚約者なんだよな?
 もうちょっと、エッチな展開があってもいいのではないだろうか?
 いや、僕が経験ないしな。
 きっとガーベラも剣一筋で生きてきたからそういう経験なさそうだしな。
 なんて考えていると、

「兄さん、ヤツです。来ました」
 少し遠くにトゲトゲの浮遊物が見えた。
 たんぽぽの綿毛のように見えるが、棘の一本一本には毒が塗られているそうだ。
 刺さると、激痛を伴い、一晩かけて死に至るそうだ。
 その名も、デスニードル。
 デスニードルは、空気の流れを読んで敵が近づくことを察知し、自爆攻撃をしてくるらしい。
 基本的に移動はできないそうだ。
 攻略法は、適当な魔物を捕まえてきて、デスニードルの前へ投げると自爆するらしい。

 移動ができないなら、テイムしても連れてあるけないな。
 それに、棘に毒があるなら触るのもイヤだし。
 それじゃ、実験だけして帰るか。
 まず、オーガをデスニードルに突っ込ませる。
 すると、自爆攻撃を食らう。
 その後、ラフレシアで解毒する。
 その解毒がうまくできるなら、万が一毒に侵されてもなんとかなる。
 さあ、実験だ。

「オーガ、間合いを見たいからゆっくり近づけ」
「ウォ」
 オーガはゆっくり歩いていく。
「ラフレシア、オーガの後をついていき、毒をくらったら解毒しろ」
 ふわんと花が揺れる。
 多分理解しているだろう。
 オーガが、止まった。
 おそらく、あれ以上いくと危険だと判断したんだろう。
「オーガ、すぐに解毒してやるから行ってこい」
「ウォ―」
 のっそり歩き出した。
 そーっとラフレシアもついていく。

 すると、やはり、一歩目からデスニードルは自爆した。
 爆発すると同時に無数の棘が飛んでくる。
 僕たちのところまでは飛んでこなかったが、近くにいたら絶対に当たっているはずだ。
 逃げる場所なんてなさそうだ。
 実際、オーガは針だらけになっていて、その後ろのラフレシアも針に貫かれている。
 思ったより攻撃は激しかったようだ。
 ラフレシアはオーガに解毒しようとするが、もう動けないようだ。
 オーガは大きな体の全面すべてに針を受けており、ピクリとも動かない。
 よく見ると、針が頭や体を貫通している。
 貫通しているから、後ろのラフレシアまで貫かれたのだ。
 
 どうやら実験は失敗らしい。
 周囲も気をつかってくれている。
 なんか、申し訳ない。
 ちょっと、調子に乗っていた。
 僕ごときが大山健一君のようにふるまえると勘違いをしていたのだ。
 僕はやはり、人前にでる器ではないのだろう。
 それを目の前の実験結果が物語っていた。

 タッタラー
 タッタラー

 どうやら、失敗も経験値にカウントされるらしい。
 今の僕には悲しい音にしか聞こえないし、馬鹿にされているようにも感じた。
 僕は落ち込み、帰りの指揮はほぼ、ガラハッドに丸投げだった。
 ガラハッドはがんばって働いていた。
 彼の妹についての約束は守るつもりだが、この先も僕は百人長を続ける自信が無い。
 彼を副長に任命して、一時的に騎士団からは去ろう。
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