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第1話 最低モブはピュアモブに転職する
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僕の人生において輝かしい瞬間というものは、小学生のかけっこで一等賞になった瞬間だけだ。
それも、他の4人が休みで走る人数は2人だけ。
それなのに、そいつの足を引っ掛けてからのスタートダッシュだったため、学校中から嫌われた思い出だ。
そう、僕はクズなモブキャラ。
最高高志なんて真逆の名前をつけた親を恨む。
そんな僕は、弱小出版企業である「ココヨム」で入社1年目だ。
先輩には相手もされずに、残念モブキャラを爆進中。
同期はみんな、先輩に気に入られ、仕事を教えてもらったり、新しい仕事をもらったりしている。
社会人になってもクズモブのままだった。
職場に僕の居場所はなく、今日もいつも通り便所メシだ。
「はーあ。僕の人生ってなんなんだろうな」
ふと、半生を振り返っていたが、救いようがなかった。
僕の人生に足りなかったモノとは何か?
それがわかれば、これからやり直せる気がする。
「うーん。足りなかったものねー。ずっと汚いことばっかり考えてたからな」
――― 体が光始める ―――
しかし、目を閉じて考えこんでいる僕は気づけない。
「おぎゃー、おぎゃー」(『ピュア』かな?)
目を開けると髭をたくわえたおじさんの顔が目の前にあった。
「王よ、男の子にございます。おめでとうございます。まことに利発そうなお顔をされておいでです」
「おお! そうか、でかした! しかし、第6王子では王位継承権はないな。すまぬ」
「いいえ。シャルム様、わたくしはシャルム様の御子を生めただけで幸せでございます」
医師? 王? シャルム? 王妃とみられる人物?
ここはどこだ?
さっきまで便所で弁当食ってたよな?
夢?
いや、これはもう決まりだろう!
転生ってやつだ。
しかも王族にだ!
きっと最強チートを持っててヒャッハーできるはずだ。
ついに、ついに僕のターンが来たか。
「あいわかった。それでは、人物鑑定士を呼べ。わが子の鑑定を行う。せめて有益なスキルが付いていればいいのだがな」
「はっ」
室外で待っていた人物が入ってくる。
ちょっと、怪しげなローブを着ている。
顔は見えないが女らしい。
「さっそく鑑定してくれ」
「はい」
女は俺の額に手を当て「鑑定」とつぶやいていた。
どうやら俺のスキルを鑑定してくれているらしい。
さすが、王族だ。
すぐに鑑定してスキルが判明する。
VIP待遇だな。
「わかりました。王子様のスキルは『ドラゴンソウル』『ピュア』となっております。どちらもレベルは1です」
おお、『ドラゴンソウル』とかかっこいい名前だし、これがチートかな?
「それだけか? 少ないな。『ドラゴンソウル』は王族であればだれでも発現するしな。『ピュア』とはなんだ? 聞いたことのないスキルだな」
王も知らないのか。
王は40代後半のイケオジだ。
長めの髭がかっこいい。
ん?
そういえば、さっきの一人人生反省会でも『ピュア』って言ったような。
それでもらったスキルか?
テキトーすぎだろ。
その時、僕は赤ちゃんながらに『ぴゅあ』と口に出していた。
「はい。王子様は歴代の王家の中でも特に才覚に恵まれた方です。『ピュア』というスキルはアクティブスキルでして、発動すると対象の心を奪います。ピュアな心で話しかけられればどなたでも心が動くように、このスキルも相手の心を動かします」
「ほう、1人しか心が動かぬではないか。それでは王は務まらぬ」
「はい。しかし、現在はレベルが1です。レベルがあがれば、必ずや王としての才覚を発現されます。大切にお育てください」
それにしてもショッパすぎるスキルだな。
全くチートではない。
そりゃ、数人は操れるかもしれないけど、だからどうした? って話だ。
僕がTueeeできるスキルを期待していたのに。
まぁ、Tueeeできたとしても、性格的にしないだろうけどね。
それにしてもやたらと、僕のことをヨイショしてくるのは、さっき、『ピュア』と言ったからかもしれない。
まぁ、才能のない第6王子なんて、扱いが悪いだろうからここで持ち上げてくれるのは助かるね。
しかし、彼女は完全に目がハートになっている。
ピュアの効果はかなり強いようだ。
それにしても、僕はこんな風に自分の味方を作って生きていくしかないってことか。
僕らしく、第二のモブ人生を歩もう。
「それで、王よ、御子の御名は決められていますか?」
医師が聞く。
王と親しい間柄なのかもしれない。
どこか気安い話し方だ。
「おお、そうだな。考えている。この子は『アーサー・ド・サリューム』と名乗らせる」
「すてきな御名ですわ。ありがとうございます」
「よろしゅうございますね」
アーサーか、円卓の騎士の物語だな。
そんな存在には僕はなれないだろうから申し訳ないけどね。
まあ、モブなりには頑張ります。
そう考えると第6王子のポジションも悪くないな。
王になんてなりたくないし。
なんて考えていると眠ってしまった。
赤ちゃんは寝るのが仕事だもんな。
すると、夢の中に女神が現れた。
「あなたの前世はあまりに荒んでいたようですね。これからは『ピュア』のスキルを使って生きていきなさい。よき、第二の人生を……」
完全に後告知で、反論を許さない夢だった。
もうちょっと、ヒントとかくれてもいいんじゃないかな?
それに、転生の目的とかさ。
説明が雑だよ。
ホントに……。
★★★★★
それから14年の月日がたち、僕はあと1年で成人というところまで成長した。
僕の国、サリュ―ムでは、15歳で成人を迎え、独り立ちしなくてはならない。
僕は『ドラゴンソウル』スキルは使うことなく、無難にモブとして14歳を迎えた。
前世で23年間磨き上げたモブムーブは、生まれ変わったくらいでは変わらなかったのだ。
あと1年で独立すると考えると自分が何もやってこなかったことを大きく後悔する。
僕がピュアのスキルと出会うきっかけとなったのは、前世の大山健一を思い出して気づいたことだ。
彼は、ピュアだった。
何事にも純粋に楽しみ、純粋に人と関り、純粋に仕事に取り組んだ。
その結果、友人に恵まれ、楽しいイベントに恵まれ、やりがいにも恵まれていた。
僕は、彼に嫉妬していたのだ。
あんな人物になりたいと。
ひょっとしたら、この『ピュア』を使えば彼のようになれるかもしれない。
明日からは色々試してみよう。
そう誓ったのであった。
アーサー・ド・サリューム
それも、他の4人が休みで走る人数は2人だけ。
それなのに、そいつの足を引っ掛けてからのスタートダッシュだったため、学校中から嫌われた思い出だ。
そう、僕はクズなモブキャラ。
最高高志なんて真逆の名前をつけた親を恨む。
そんな僕は、弱小出版企業である「ココヨム」で入社1年目だ。
先輩には相手もされずに、残念モブキャラを爆進中。
同期はみんな、先輩に気に入られ、仕事を教えてもらったり、新しい仕事をもらったりしている。
社会人になってもクズモブのままだった。
職場に僕の居場所はなく、今日もいつも通り便所メシだ。
「はーあ。僕の人生ってなんなんだろうな」
ふと、半生を振り返っていたが、救いようがなかった。
僕の人生に足りなかったモノとは何か?
それがわかれば、これからやり直せる気がする。
「うーん。足りなかったものねー。ずっと汚いことばっかり考えてたからな」
――― 体が光始める ―――
しかし、目を閉じて考えこんでいる僕は気づけない。
「おぎゃー、おぎゃー」(『ピュア』かな?)
目を開けると髭をたくわえたおじさんの顔が目の前にあった。
「王よ、男の子にございます。おめでとうございます。まことに利発そうなお顔をされておいでです」
「おお! そうか、でかした! しかし、第6王子では王位継承権はないな。すまぬ」
「いいえ。シャルム様、わたくしはシャルム様の御子を生めただけで幸せでございます」
医師? 王? シャルム? 王妃とみられる人物?
ここはどこだ?
さっきまで便所で弁当食ってたよな?
夢?
いや、これはもう決まりだろう!
転生ってやつだ。
しかも王族にだ!
きっと最強チートを持っててヒャッハーできるはずだ。
ついに、ついに僕のターンが来たか。
「あいわかった。それでは、人物鑑定士を呼べ。わが子の鑑定を行う。せめて有益なスキルが付いていればいいのだがな」
「はっ」
室外で待っていた人物が入ってくる。
ちょっと、怪しげなローブを着ている。
顔は見えないが女らしい。
「さっそく鑑定してくれ」
「はい」
女は俺の額に手を当て「鑑定」とつぶやいていた。
どうやら俺のスキルを鑑定してくれているらしい。
さすが、王族だ。
すぐに鑑定してスキルが判明する。
VIP待遇だな。
「わかりました。王子様のスキルは『ドラゴンソウル』『ピュア』となっております。どちらもレベルは1です」
おお、『ドラゴンソウル』とかかっこいい名前だし、これがチートかな?
「それだけか? 少ないな。『ドラゴンソウル』は王族であればだれでも発現するしな。『ピュア』とはなんだ? 聞いたことのないスキルだな」
王も知らないのか。
王は40代後半のイケオジだ。
長めの髭がかっこいい。
ん?
そういえば、さっきの一人人生反省会でも『ピュア』って言ったような。
それでもらったスキルか?
テキトーすぎだろ。
その時、僕は赤ちゃんながらに『ぴゅあ』と口に出していた。
「はい。王子様は歴代の王家の中でも特に才覚に恵まれた方です。『ピュア』というスキルはアクティブスキルでして、発動すると対象の心を奪います。ピュアな心で話しかけられればどなたでも心が動くように、このスキルも相手の心を動かします」
「ほう、1人しか心が動かぬではないか。それでは王は務まらぬ」
「はい。しかし、現在はレベルが1です。レベルがあがれば、必ずや王としての才覚を発現されます。大切にお育てください」
それにしてもショッパすぎるスキルだな。
全くチートではない。
そりゃ、数人は操れるかもしれないけど、だからどうした? って話だ。
僕がTueeeできるスキルを期待していたのに。
まぁ、Tueeeできたとしても、性格的にしないだろうけどね。
それにしてもやたらと、僕のことをヨイショしてくるのは、さっき、『ピュア』と言ったからかもしれない。
まぁ、才能のない第6王子なんて、扱いが悪いだろうからここで持ち上げてくれるのは助かるね。
しかし、彼女は完全に目がハートになっている。
ピュアの効果はかなり強いようだ。
それにしても、僕はこんな風に自分の味方を作って生きていくしかないってことか。
僕らしく、第二のモブ人生を歩もう。
「それで、王よ、御子の御名は決められていますか?」
医師が聞く。
王と親しい間柄なのかもしれない。
どこか気安い話し方だ。
「おお、そうだな。考えている。この子は『アーサー・ド・サリューム』と名乗らせる」
「すてきな御名ですわ。ありがとうございます」
「よろしゅうございますね」
アーサーか、円卓の騎士の物語だな。
そんな存在には僕はなれないだろうから申し訳ないけどね。
まあ、モブなりには頑張ります。
そう考えると第6王子のポジションも悪くないな。
王になんてなりたくないし。
なんて考えていると眠ってしまった。
赤ちゃんは寝るのが仕事だもんな。
すると、夢の中に女神が現れた。
「あなたの前世はあまりに荒んでいたようですね。これからは『ピュア』のスキルを使って生きていきなさい。よき、第二の人生を……」
完全に後告知で、反論を許さない夢だった。
もうちょっと、ヒントとかくれてもいいんじゃないかな?
それに、転生の目的とかさ。
説明が雑だよ。
ホントに……。
★★★★★
それから14年の月日がたち、僕はあと1年で成人というところまで成長した。
僕の国、サリュ―ムでは、15歳で成人を迎え、独り立ちしなくてはならない。
僕は『ドラゴンソウル』スキルは使うことなく、無難にモブとして14歳を迎えた。
前世で23年間磨き上げたモブムーブは、生まれ変わったくらいでは変わらなかったのだ。
あと1年で独立すると考えると自分が何もやってこなかったことを大きく後悔する。
僕がピュアのスキルと出会うきっかけとなったのは、前世の大山健一を思い出して気づいたことだ。
彼は、ピュアだった。
何事にも純粋に楽しみ、純粋に人と関り、純粋に仕事に取り組んだ。
その結果、友人に恵まれ、楽しいイベントに恵まれ、やりがいにも恵まれていた。
僕は、彼に嫉妬していたのだ。
あんな人物になりたいと。
ひょっとしたら、この『ピュア』を使えば彼のようになれるかもしれない。
明日からは色々試してみよう。
そう誓ったのであった。
アーサー・ド・サリューム
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