ヲタクで腐女子な私にリアル乙女ゲームは攻略不可

7話 終わんない愛を抱いてたくないので、乙ゲーは諦めました。

店を出て携帯を起動させると恐ろしい数の通知が来ていた。誰から来てるかはだいたい予想つくけど･･･。
恐る恐るLimeを開き、大量の通知を確認すると、その犯人は先程の乙ゲーを勧めてくれた戦友だった。親友ではない。推しやカップリングが同じで、よく同じライブやイベントに行くので彼女は戦友だ、間違いなく。っと、どれどれー？通知の内容は･･･
『どーよ！？』
『あのVR乙ゲーすごない！？』
そんなワクワク感満載で言われても･･･。
「いやぁ･･･あれはハズレだよ･･･。」
「ふーん･･･何がハズレなの？」
「いや、乙ゲー･･･。いやなんでここにいんだよお前。」
思わず口から思っていたことがこぼれ落ちていたらしい。それを幼なじみの金沢に聞かれてしまった。
あ、私は実際に金沢という幼なじみと仲良く(？)している。乙ゲーの中では、嫉妬深く、俺様な金沢くんだったが、リアルの金沢なんてそんな設定ぶち壊しである。くせっ毛の黒髪、常に眠そうな(死んだ魚にそっくりな)目、猫背で気だるそうな姿勢･･･。乙ゲーのモブに向いてるなこいつ。
戦友よ。名前が同じってだけで乙ゲーを勧めるな。これからの教訓にして頂きたい。
ていうか、金沢はあんな甘々設定じゃない。本物見てみろ。
「乙ゲーとかきもっ。」
ほら見ろ。こっちは辛口設定だよ。あっちの甘々な金沢くんはさぞモテモテであろう。こんな無愛想で口の悪い男は学校でボッチ満喫中だよ。
「ボッチくんは休日も遊ぶ友達いないのかよ。」
「あー･･･なんでいるかって聞いてたな、そういえば。山崎電気に行って新作のゲームの体験してたんだよ。そしたら、横のフロアでVR体験やってたから興味本位で覗いて見たら、お前がいたって訳。」
「説明乙。そしてボッチネタに対しての華麗なスルースキル。さすがです。」
今、金沢が話してくれたおかげで私はこの乙ゲーの様なシチュ(幼なじみと偶然ばったり！？ドキドキな帰り道)を説明しなくて済んだ。いやぁー感謝感激雨あられ。
山崎電気ってウチから徒歩で20分で着くから割と便利ですね。友達(リア充)とも会わなくて済むし。友達(リア充)とも会わなくて済むし！
「んで、そのVR乙ゲーは買ったの？」
「展開が早い。教師キャラがド変態。挙句に金沢くんって言う幼なじみキャラが出てきて吐き気がしたので購入しませんでした。」
「最後。俺を傷つけるためだけに言っただろ。」
「そんなことないよー(棒)気のせい気のせい(棒)」
「すげぇ棒読みだな。いっそ清々しいわ。」
こんなくだらない会話をなんの緊張感もなく話せるのは、多分こいつくらいだろう。こいつとは恋愛に発展しなさそうで楽だわ。ヲタクで腐女子な私にはピッタリの幼なじみだ。神よ。人選ナイス。
タラタラと歩いていると家に着いた。私は金沢に別れを告げた。
「じゃあね。」
「おう。」
家の目の前で。
だってお隣なんだもん。
普通、少女漫画や乙女ゲームはこういう関係から恋愛に発展するんだろーなー。
それに比べて私は･･･恋愛のれの字もない。マジで草。もはや草をもう1つくらい生やしておきたい。草²。いや、かけ算してどうするよ。
まぁ、リアルなんてそんなもんでしょ。期待するだけ無駄無駄。

私は携帯片手に家に入ると、タイミングよくLimeの通知が来た。
『感想教えろぉ！さもなくば、お主の同人誌を学校で晒してやるわァ！ぐへへへへ！』
この口調は戦友だな･･･。もはや女子とは思いたくない通知でビックリするわ。スルーしてたのは申し訳ないけど、感想に迷ってたんだよ、ごめんて。
「えーっと･･･。進展が早すぎてよくわからなかったから買うのはやめにした･･･っと。これでいいでしょ。」
当たり障りがない。この返信でいいだろ。多分、きっと。
さって、小腹も空いたしご飯でも作るか。安くて美味いチャーハンにでもするかね。
今日は乙ゲーのせいで異様に疲れたわ･･･。
ピコピコ♪
Limeの通知が鳴ったが、料理中の私はメッセージを見ることが出来なかった。
一段落つけてトーク画面を開くと、見知らぬ人から連絡が来ていたが、メッセージは取り消されていたので、何が送られてきたか分からなかった。
「誤送か？」
私は深く考えずに携帯をスリープにした。
そのメッセージを見ていれば、私の未来は変わらなかったかもしれない。
そんな後悔が押し寄せる事も知らず、私はチャーハンを作り続けた。