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プロローグ:脳筋王女の縁談事情

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 ここはメーティルス王国の玉座の間。

「ごめんなさい、お父様。いただいた縁談ですがお断りいたします」

 メーティルス国王に話しているのはその末娘であるステラ王女だ。華奢で小柄な彼女はステラ<星>の名前の通り輝くように美しいと評判である。上の兄姉とは年の離れた娘とあって、国王はとてもかわいがっていた。しかし、そんなステラも今年18歳になる。そろそろ縁談をまとめ上げたいところだが、今までの縁談はすべてステラに断られている。

「一応理由を聞いてもよいか。前回は隣の国の第4王子、今回は公爵家の次男でみんな若く才能あふれる存在だと専らの評判だぞ。何が不満だ?」

「みんなそれは家柄も申し分ないわ。でもね、彼らには圧倒的に足りないものがあるのよ。それはね、力と筋肉よ! 彼らを実際に見たことがあるのだけれど、二の腕やお腹がプルプルしていたのよ。きっと私一人も持ち上げられないわ。私決めているの。結婚するなら、絶対に私よりも強い人じゃないとって」

 ステラは拳を握りしめながら熱弁する。

「お兄様お姉さまがたくさんいるから政略結婚をしなくてもいいといったのはお父様よ。私は理想の相手と結婚したいの。絶対に探せば見つけられるはずよ」

 ステラには兄が2人、姉が4人いる。上の兄姉たちは政略結婚をさせられたりもしたが、だんだんと相手もいなくなり、下の姉たちは恋愛結婚をしている。

「それならば騎士団のメルヴィンはどうだ? 武闘大会では優勝したこともある実力者だぞ」

「メルヴィン様は前にもお断りしているはずです。だって、メルヴィン様は私よりも強くないのよ。前にこっそりと戦いを挑んだことがあるけれども、全然。すぐに勝負がついてしまってつまらなかったわ」

「お前、いつの間にそんなことを! 一応王女なのだぞ。そんなことばかりしているから縁談が決まらないのだ」

「でも、実際に見たり戦わないと強さはわからないわ。自分の結婚相手は自分で見極めたいの。ということで、失礼いたします」

 ステラはそう言うと、あろうことか下までの高さは軽く30メートルほどはある窓から飛び降りてしまった。しかし誰も驚いてはいない。これは日常の光景だからだ。

 ステラは特殊なスキルを持っている。

 スキル「パワーアップ」
 自身のあらゆる筋肉に働きかけることで、攻撃力、防御力、スピードを強化することができる。

 そのためステラにとっては窓から飛び降りるくらい造作もないことなのだ。

 ちなみに、スキルは全員が持っているわけではない。持っていたとしてもほとんどが火水木土属性のいずれかであり、それに次いで回復スキルがある。残りはごく少数のスキルであり、どのような種類があるのかは未だ解明されてはいない。ステラのスキルも初めて発見されたものである。

「まったく、政略結婚はしなくてもいいといったが、このままでは本当に結婚自体ができなくなるぞ。こうなれば仕方ない、使いたくなかった手を使うしかあるまいな」

 王は隣にいる宰相にしか聞こえない声でつぶやいた。

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