上 下
100 / 104
EP1_7章

7章_1 後始末

しおりを挟む
 その頃、未だ戦火の爪痕に沈むブラナスでは、
ロクサリオをはじめとした将校が復興の手順を詰めるべく、
朝から軍議が行われていた。


「では、南門の現状復帰にまず人員を集中させましょう。
人が余り始めたら、各所に随時回していくやり方で、
最短の復帰を目指していく。よろしいですな?」


ポズナン将軍の言葉に、周囲は賛成の意を示した。

「では、このブラナスの復興はこのように。
メルヴィア軍の虜囚についても、
レフコーシャに護送する人員も割けない今、
しばらくはブラナスで管理しましょう。
こちらが捕虜に取られた者たちの交渉も始めなければ。」


メルヴィア公国と国交が断たれた状態で、
誰が人質交渉の任に当たるのか、一同は頭を悩ませた。


「・・・それならば、私が行こう。」

皆が振り返る先には、
宰相ロクサリオが静かに立ち上がる姿が映る。


「宰相殿が直々に?公王亡き今、
貴公まで不在となれば、ますます危険ではないか?」


ポズナン将軍の懸念は皆が思っていることだ。

しかし、ロクサリオは一同を手で制し、言葉を続ける。

「心配は無用だ。それに、敵情を確かめるいい機会である。
そう長く時間をかけるつもりもなければ、
不利を押し付けられるつもりもない。
交渉はこの老いぼれに一つ任せて頂こう。」

どこか安心感のある低い声に、反意を示す者はいなかった。


「では、早速とりかかる。
大公の御身体をレフコーシャへお連れせねばならん故、
私は一度公都へ戻る。
諸将校、このブラナスは任せましたぞ。」


ロクサリオの合図で将校達は部屋を出て行き、
それぞれの任に就いた。

最後に残ったポズナン将軍は、
ロクサリオの背中に向け、独り言のように呟く。


「大公が死に、姫様は過酷な旅の中。
貴公にまで何かあれば、ついには民が絶望してしまう。
限られた選択肢のなかでどうにかするしかないのはわかっているが・・・。

ブラナスは私の忠義に懸けて守り抜く故、
貴公にはこの国の最善を、頼みましたぞ。」


悔しさの滲むポズナン将軍の声は、
ロクサリオの耳に長く残った。


「この国の最善、か。私はずっと、そうしてきたさ・・・。」


少し疲れたような一言を残し、
ロクサリオは大公エオメルの柩を乗せた一隊と共に、
レフコーシャへの帰路についた。
しおりを挟む

処理中です...