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EP1_6章

6章_6 琥珀の夜鷹

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 「エンタールの高官様方、ご提案です。

我々アンバルは、
ご承知の通り各国に審判官を置き、
その組織にはこのリード君のような実働部隊の執行官をはじめ、
諜報組織を整えています。

もし彼を使うというのなら、
我々も親愛なる部下を失うのは惜しいですから、
組織としての援助を惜しまないつもりです。

この叙任の旅においては、
こちらで知り得た情報の全てを共有することを約束しましょう。

あなた方が我々を琥珀の夜鷹と蔑称するそのご認識の通り、
小さな都市国家アンバルは国家間のバランス、
安定がなにより重要です。

今回の一件でメルヴィアが不必要に増長することは
我々にとっても好ましくない。そういうわけです。」


思わぬ援助の申し出に、議場が凪いだ。

それぞれが思考を巡らせる中、メリッサが再び口を開いた。

「アンバルの審判官殿が正式に味方につくと仰るのであれば、
それは大陸で一番の情報協力を得られるということです。
私たちには時間がないでしょう。
それに、結局私が行かなければ何も進まないんです。」


メリッサは目の前のロクサリオをまっすぐに見つめる。
皆の注目が宰相に集まる中、ロクサリオは、
メリッサの意志の強さを感じ取ったのか静かに瞳を閉じ、
ゆっくりと頷いた。


「姫殿下、貴女は自らの恐怖心や不安を理解しつつも、
なお負けぬ、とてもお強い人です。その気概が、
今これからの我々にもきっと求められるものなのでしょう。

しかし、今回ばかりは余りに無茶であることは
姫殿下ご自身でもお判りのことでしょうな。」

ロクサリオは目を瞑ったまま、深くため息をつく。


「それでも、父君亡き今は、齢二十歳の成人を待たずして、
貴女がエンタール公国の主であります故、
この判断が正しいとおっしゃるのならば、
そうなさると良い。」


その場にいた誰もが、ロクサリオの言葉に耳を疑った。
ロクサリオならばどうにか説得してくれるだろうと、
皆が信じて疑わなかったのだ。


「ロクサリオ、感謝します。
メルヴィアに脅かされ、公国存亡の危機にある今、
この国を守るべき者として道を切り開いて見せます。

みなさん、留守の間、この台地のことはどうかお願いしますね。」
はっきりとそう言ってみせたメリッサのその唇は、
勇気と不安のはざまで震えていたのだった。
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