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EP1_5章

5章_7 ミラーナ

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 「ミラーナは、私たちの娘はどこなんだ。」

娘だけでも、密やかに連れ出し、
公王の目の届かないところで健やかに育てたい。

ロクサリオは一縷の望みを、
残された一人娘に繋いだ。


泣き暮らすシンシアの頬に、
最後のキスをする。

去って行こうとする間際、
シンシアが袖をつかんで止める。

《どうかこれを、ミラーナに。
あの子が愛と優しさに守られるように、星の祈りを込めました。》


シンシアは、そう書いた羊皮紙とともに、
手のひらに収まるほどの大きさの化粧箱をロクサリオに手渡した。

それは、かつてロクサリオが贈った、
小さな花をかたどった美しい指輪だ。


たった一夜のうちに、
どうしてこんな思いをしなければならないのか。

下を向けば、涙がこぼれてしまいそうだった。

しかし、ロクサリオは黙ってそれを受け取ると、
シンシアの生家へ急いだ。

シンシアに娘がいたことなど、
今更知られるべきではないのだ。


シンシアの家に着き、ドアを開けると、
玄関にはミラーナがへたり込んでいた。


「お父さま!お帰りなさい!」

来客の顔を見るなり、
ミラーナは花のように可憐に微笑む。

ロクサリオは娘が愛おしくて、
母譲りの綺麗な銀髪を撫で、

突然に手放さなければならなくなったシンシアへの想いを紡ぐように、
暖かく抱き寄せた。

「ああ、ミラーナ。久しぶりに顔を見た。
またきれいになったじゃないか。
今日はプレゼントがあるんだ。
さあ、手を出してごらん。」

目を輝かせて手を差し出すミラーナの左の薬指に、
シンシアに手渡された指輪をはめてみる。

しかし、
一回り大きいその指輪は薬指にはうまくはまらず、
ロクサリオは左の親指にはめてやった。

きれいに収まったその指輪をみて、
ミラーナはしおらしく頬を染めて、
喜びを表現した。

「やっぱり良く似合う。この指輪は、
私たち家族のしるしだから、大事につけておきなさい。
ところで、どうして玄関に居たんだい?」
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