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EP1_5章

5章_4 運命のアムリタ

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 「・・・すまない、水を、たのむ。」


人の往来の少ないアムリタの村はずれに、
ボロボロの恰好をした騎士が訪れた。

その男は、村の女に一言呟くと、
力尽きたようにその場に崩れ落ちた。


村の女は慌ててその男をゆすり起こすが、
男の意識は戻らない。女は男の口に水を注ぐが、
水は虚しく口から流れ出るばかりだ。


女は意を決して水を口に含み、
そのまま男に水を移した。
少し、また少しと水を移していく。

やがて男は激しく咳き込み、
意識を取り戻した。男は女から水の入った瓢箪を受け取ると、
瞬く間にそれを飲み干した。


「ああ、ありがとう。もう死んでしまうかと思った。
君は命の恩人だ。君の名前は?
そして、ここは一体どこだろうか?」

男はよろめきながら立ち上がり、辺りを見回す。


男の言葉に、返答をしない村の女。
男が首を傾げると、女は静かに微笑み、
落ちていた枝を拾って地面に文字を書いた。


《私は、シンシア・***。ここは、サルヘナ**の村、アム*タ。》


このサルヘナ湖畔は、
もともと星鏡台地の他の地域とは異なる文化圏であった。
それ故に、言葉も異なっている。


その騎士は、不完全ながらもシンシアが記した文を読み、
その趣旨を概ね理解した。

騎士の瞳には、珠のような涙が溜まっていく。

「サルヘナ湖。ここはアムリタなのか。
そうか。私は・・・私は、戻って来たのだな!」


男はふらつく足で湖に走る。
剣を、鎧を放り出すと、そのまま湖に飛び込んだ。


「ああ、そうだ!この湖の清さ、
そしてこの気を吐くような冷たさ、ここはサルヘナ湖だ!」

男は浴びるように泳ぎ、顔も体もずぶ濡れになった。
男が身体を震わせて湖から上がるのを、
シンシアは優しい笑顔でタオルを手渡した。
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