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EP1_4章

4章_19 ポズナンの反撃

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 「お父様、どうして・・・」
父エオメルを抱いてすすり泣くメリッサを、
皆が力なく見守っていた。

これが大公エオメルの最期になる。
皆が心中で察していることであった。


「・・・愛娘よ、私は、子宝に、配下に、
国民に恵まれ、よい人生であった。・・・
武勇の王エオメルとして、病の床より戦地で逝く方が心地良い。」

静かに息が弱まっていく父に、
メリッサは涙を止めることができない。


「なりません!お父様、どうかお気を確かに。お願い・・・。」

涙の海に沈むメリッサの頭を、
父は優しく撫でる。


「すまなかったな・・・。あの甲冑の女騎士は、
この後もメリッサの敵となろう。しかし、
決してあの女を恨んではならん。あの女は・・・・・・。」


その言葉に、続きは無かった。
メリッサの頭に置いた手の力は抜け落ち、
胸の鼓動も再び音をたてることはない。


この星鏡台地の主が今、
静かにその生涯を終えたのだった。


辺りには、南門の焼け落ちる音と、
遠くに聞こえるメルヴィア軍の退却の合図、
そして静かにすすり泣くメリッサの声だけが、
ブラナスの大地に響くのだった。


東門では、ポズナン将軍の猛攻に
メルヴィア軍は思わぬ痛手を受けていた。

三千に満たない寡兵ながら、
分厚い敵陣の深くまで食い込み、
多勢に慢心していたいくつもの陣を貫いていた。


「今宵は卑怯を認めよう!我らの敗退は許されんのだ!」

ポズナン将軍率いる精鋭の騎兵部隊は、
敵陣を穿つ度に、後方の支援部隊を狙い撃ちにした。

ポズナンに襲われ、
夜の帳の中次々と炎を上げるメルヴィア軍の陣地の数々に、
メルヴィア兵は混乱に陥っていた。

しかし、その戦神の如き快進撃も、
敵軍の数の前に刃が鈍り始める。

精兵と言えども人間だ。
部隊には疲労の色が見て取れた。


「そろそろ潮時か。一度城に入るが、
戦える者は私に従い、主君の救援に向かうぞ。」

大公エオメルの死をまだ知らないポズナン将軍の部隊は、
撤退ついでにもう一つ、敵陣を潰すと、
疾風のようにブラナス城塞の方角へと消えて行った。
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