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EP1_4章

4章_12 奮起の王

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 城壁の見張りから合図を受けた大公エオメルの命で、
物見塔にいた兵たちは城門に積まれた大樽に次々と火矢を射かける。


門の外で慌てふためいた様子の敵兵の声は、
目の前が痺れるような大きな爆発の音にかき消された。

門扉は木っ端微塵に吹き飛び、城壁にも亀裂が入った。
ブラナスの軍が控える門内に爆風が吹き荒れる。


「いざ、我に続け!このブラナスに来たことを後悔させてやれ!」


病をおして声を張り上げる大公に続き、
爆発で破られた門の外に向かってブラナスの兵が次々と出陣していく。


爆炎の煙が晴れた先には、
不意の暴発に体勢を崩した敵軍が現れた。

大公が率いる軍は次々と敵軍を打ち破っていく。
そして、ポズナンの率いる精鋭部隊は混乱と爆煙を上手く隠れ蓑にして、
静かに東門へと走り去っていくのだった。


「なんてことだ、
吹っ飛ばすつもりが自爆させられちまうとはな!
我ながらいいザマだよ!
おい、いつまでも押し負けているんじゃねえ!陣形を戻せ!」

混乱を極める軍の中、
メルヴィア軍のシエン隊長は声を張り続けた。

自らもブラナス兵に切りかかるが、
煙の中から続々と現れる相手に、苦戦を強いられていた。


次々と襲い来るブラナス軍の中から、
突然ひときわ大きな身体の男がシエン隊長の前に現れた。
装身具からして一般兵ではない。


「貴様が指揮官のようだな、その首に相違ないな?」
豪奢な装身具に身を包む男が、シエン隊長ににじり寄る。


「だったらどうした。手前こそ将軍かなんかだな?
自ら門をふっ飛ばして、良い気になってんじゃねえ!」

いきり立って飛びかかるシエンを、男は軽くいなした。


「名前すら名乗らんとは、浅い男よ。
我はエオメル・エンタール。
国を焼かれた怒り、その身に刻んでやろう。」


静かな怒りを乗せた剣撃がシエン隊長に降りかかる。
シエン隊長は必死で応戦するが、
二、三合と刃を交えるうちに、

剣を持った右腕は肘から切り落とされてしまった。
痛みに悶えるシエンの姿を、大公は睨むように見下ろした。


「軍人としての命は終いだな。
戦などに身を投じた事を悔いよ。
農夫の手の美しい事、貴様は見習うがよい。」

痛みを抑えて抗おうとするシエンの足を軽く切りつけ、
動けなくなったのを見届けて大公は煙の中に姿を消した。
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