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EP1_4章

4章_7 メルヴィアの将軍

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 東門を襲う敵軍を大きく回り込み、
三人は北門の時と同じように敵軍の後方に身を潜めた。


東門の攻勢は今までの各門のそれとは大違いで、
既に城門には破城槌が取り付けが進んでおり、
その間も火矢と投石車での攻撃が雨のように続いている。


「ここは一刻を争う事態だな・・・。
こちらの仕事はさっさと済ませて、
西門に戻って開放しないと。

トラリス、さっきのをもう一発お見舞いしてやってくれ。」


トラリスは返事の代わりに弓を引き絞って構える。

敵軍の後方を狙って、
乱れ撃つように放たれた矢は、

敵兵を次々と射抜いていく。


そしてまたしても、
最後に放った矢は指揮官らしき甲冑の騎士の
後頭部を貫くべく突き進む。


見事命中と思われた瞬間、
青銀に煌めく甲冑の騎士がおもむろに背中から抜いた剣に当たり、
矢は弾かれた。

まぐれなのか気付いたのか、
三人には分らなかったが、
指揮官に異変を悟られてしまったことには変わりなかった。

「まずい、あの甲冑の指揮官には多分感づかれた。
剣で弾いたから、
どこから弓が飛んできたのかもきっと分かったはずだ。
残念ですが、この東門は一度諦めましょう。
これでも時間は稼げるはずです。」


敵が動き始める前に、
三人は静かに南門の方角へと姿を消した。


「ロキシェル将軍、お怪我はありませんか!」
突然大将を襲った不意打ちに、護衛は慌てていた。

雪のような銀色の長髪が、
流れる風に乗って背中から抜きかかった剣の刃にそっとかかる。

淡いエメラルド色の目が、
矢が飛んできた方向を見透かすかのように見据える。




「今の矢は、後ろからだったな。
北門の指揮官がやられたというのもおそらくは同じ手だろう。
いきなり王手を打とうとは、横着者の奇策か何かだ。

やられる側としては癪だ。
後方部隊、私に続け!」

抜きかけた剣を振りかざし、
兵も揃わぬままに馬を駆りだす。

風にたなびく銀髪に誘い込まれるように、
兵たちがそれに続いた。


トラリスの攻撃を受けてから数分と立たない即断、
即決の指揮。ロキシェルと呼ばれたメルヴィアの将軍は、
約二千の精鋭を率いてメリッサたちの向かう南門へ出撃した。
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