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EP1_4章

4章_6 東門へ

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 「それにしても、
話せるのならそう言ってくれれば良かったのに。」

前を走るカムランの言葉に、
トラリスは沈黙で返した。


「トラリスはとっても無口なの。
私だって、そう何度も声を聞いたことはないし。」

一向に口を開く様子の無いトラリスに代わって、
メリッサが答えた。


東門が近づくにつれ、戦士たちの声や、
金属のぶつかり合う音、そして燻る炎のにおいが辺りに立ち込めてくる。

やがて東門を視界に捉えた二人は、
そこにあった敵軍の数に圧倒された。
東門に布陣した敵軍はおよそ一万五千を超えるらしい、

この兵力だけでブラナス城塞の全軍を凌駕する数だ。
その光景は、
彼らの鈍い鉛色の鎧が大地を覆い尽くすようなおぞましいものだった。


「ロクサリオが敵の大部隊を引き受けてくれているとは言え、
それでもまだ、この数を相手にしなければならないなんて・・・」

非情な現実を目の前に、メリッサは狼狽してしまう。

「お父様は病の療養のためにブラナスに滞在していたの。
今も万全には程遠い状態のはず。
それなのに、どうしてこんなことに・・・」


ごく一部の人間しか知らないというこの情報が、
どこからか漏れてしまったのではないか。
内に秘めていた小さな疑念を、メリッサは初めて口にした。


「内情はよくわかりました。
しかし、まずは目の前の目的です。
無事にブラナスを開放し、大公様を救い出さなければ。」


前を走るカムランは、
後ろから「ありがとう。」という小さな声が聞こえた気がした。
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