上 下
44 / 104
EP1_3章

3章_13 昔話、お伽話

しおりを挟む
 「英雄オリオンは、
神話の世界でも蠍によって引導を渡されたと言われているのです。

我に狩れぬもの無し、
と思い上がりの甚だしかったオリオンに神々は怒り、
暗殺者として蠍を仕向けた。

そして見事に仕事を成し遂げた蠍は、
その褒美として神の手によって星座になったといいます。

ですから、
蠍はオリオンの唯一にして最大の弱点だったという訳です。」


メリッサは御伽話を詠むかのように、
カムランに話して聞かせた。

蠍が現れたあの時、
深く傷を負いながらも優勢だったオリオンが
突如として逃げ出すような行動をとったのは
そういうことだったらしい。

案外、星座の物語というのも面白いものだと
カムランは素直に思った。


メリッサは紅茶を少し飲むと、
ソファを立って出窓の桟に手をつき、外を眺めた。


「カムランさん、
そういえば貴方は執行官と言っていましたが、
出身もアンバル公国なのですか?」

窓の外を向いたまま、
メリッサはふいに質問を投げかける。


「はい、私は、産まれからアンバル出身です。
平民の出ですが、
幸いなことにアンバル公国では出自の優劣はあまり問題になりません。
代わりに競争は激しいですが。。

士官学校でお眼鏡に叶い、
それから先は、お話しした通り。
アンバル公国を出て、
トルトゥーザの王都でアンクァルナキア公付きの
執行官として働いておりました。」

視線を上げ、
ゆっくりと思い出すようにカムランは言葉を紡ぐ。


「そうだったのですか。
私の知らない世界を、ずっと生きてきたんですね。
この台地しか知らない私とは大違い。」

メリッサの労いの言葉の中に、
もしも自分が王族や政治に縛られることのない自由の身であったなら、
そんな思いも感じられる。


カムランが口を開こうとしたその時、
焦るように叩くノックの音が部屋に響いた。

「姫様、失礼いたします。」


血相を変えて飛び込んできたのは、
コーエン将軍だった。

一瞬、なぜここにいるのかという疑問の表情で
カムランに視線をやったが、
将軍は迷うことなく話を切り出した。
しおりを挟む

処理中です...