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EP1_3章

3章_11 花

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 部屋に戻るつもりもないカムランは、
そのまま城門前の広場へ行き、
並んで眠る柩に花を手向けた。

まだみずみずしい赤い花弁をたたえたポピーの花は、
献花の中にも一際の存在感が感じられる。


「カムランさん、もう怪我はよろしいのですか?」

カムランが後ろを振り返ると、
やわらかな眼差しのメリッサが、
両手いっぱいに白い花を抱えていた。

花はやはり、女性によく映える。

メリッサは、息をのむほどに美しく、
儚げにカムランの瞳に映る。


「メリッサ様、まだこの街に残っていらしたのですね。
幸い、私は大した怪我はありませんでした。
メリッサ様に助けて頂いたおかげです。」

カムランがそう言って一礼をすると、
メリッサは力なく笑った。

「いいの。私は私の使命を果たしただけ。」

もしも、もう少し早く到着出来ていたのなら。

口にこそ出さなかったが、
メリッサの悲しげな微笑がそれを物語っていた。


両手に抱えた白い花を柩に手向ける間。
カムランはメリッサの背中を見守っていた。

その小さな背中で、
一体どれほどの想いを背負ってきたのだろう。

カムランは無意識のうちに、
今の自身の立ち位置と、メリッサの置かれた境遇を比べていた。


柩に手向けられた花に、
一粒、また一粒と雫が落ちる。


曇天の空が、
泣き出すかのように静かに雨を降らせ始めた。

「まるで、人々の心を映したような雨ですね。
カムランさん、少し話しませんか。」


柔和な表情で微笑むメリッサの頬に、
雨か涙か、一雫の水滴がつたう。


「もちろん。お供いたします。
冷たい雨がお身体に障りますから、
ひとまずは城へ戻りましょう。」

徐々に雨の粒が大きくなる中、
二人は少し早足で城内へと向かった。
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