上 下
36 / 104
EP1_3章

3章_5 英雄オリオン

しおりを挟む
 立ち上がりこそしたものの、
視界は痛みに歪み、カムランは、
こめかみのあたりから血が流れているのがわかった。


受け止めることすら許されない剛力の剣。
改めて痛感させられた迷い星の強大な力を前にしてもなお、
カムランは背を向けることなく今一度立ち向かっていった。

しかし、大剣の大振りによって生まれる隙をつき、
次々と切りかかるが、
オリオンの燃えるような闘志の前に圧倒されてしまう。

攻撃をかわすことに終始させられ、
苦戦するカムランの横を、
突如風のような紅が駆け抜けた。

エルザはカムランへ向いていた攻撃を縫うようにかわし、
ついにオリオンの懐深くまで迫った。


「いい加減に、観念しろ!」


燃え盛る魔剣でオリオンの腹部を深く切り付け、
突き刺した。

身体を貫いた魔剣からさらに炎が吹き上がり、

オリオンは炎に包まれていく。

グオオというオリオンの叫びが夜をむなしく駆け抜ける。
これで終わったと二人の目線が交差する。

二人の目の前に燃え盛る炎はさらに強まり、
まもなくオリオンの姿は炎の中に消えた。


炎の中のオリオンは、
身体中を焼かれながら、片手で剣を掲げる。

それが最期の力だったのか、
決して折れることの無い不屈の闘志の証明か。
その光景は、オリオンの神の如き力を、改めて二人に思い知らせた。


ようやく終わった。
それを確認するように二人が再び視線を合わせたその時だった。


炎から突き出たその大剣は、
旋風を巻き起こす程の力で振り下ろされる。

巻き起こった爆風によって、
オリオンを覆っていた炎はかき消えてしまった。

燻る黒煙の中、未だ戦意を失っていないその目は、
刺すように二人を睨み付け、
剣を地面に引きずりながら再び迫ってきた。


一方の二人は、度重なる戦闘で疲労困憊し、
身体も傷だらけ。
立っているのがやっとの状態だった。


一歩、また一歩距離を詰めてくるオリオンを前に、
二人はただただ立ち尽くし、絶望を噛み締めていた・・・。


「まだ、やろうっていうのか・・・。」
再び剣を構えたカムランは、
オリオンの頭上に流れ星を見た気がした。

流れ星はだんだんと大きくなり、
やがて二人の真上に舞う。

「あの光はなんだろう・・・鳥のように見える。」
頭をしこたまぶつけていたカムランよりも、
エルザのほうが流れ星の正体が良く見えていた。
しおりを挟む

処理中です...