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EP1_2章

2章_13 終わらない夜

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 犯人達も連行され、
場が落ち着いてきたちょうどその頃、
守備軍にひとしきり指示を出し、
早めの撤収を命じ終えたエルザがカムランの元にやってきた。

エルザは大穴での出来事をカムランに話し、
大穴付近に現れた迷い星のことと、
マルスの容体を伝えた。

そしてもう一つ、エルザには重大な懸念があった。


「今夜、トレド星石鉱に堕ちてきたのは一等星のアルデバラン。
自ら強く輝く一等星が夜空を迷って迷い星になってしまうことなんて、
滅多にないことなの。

そしておそらく、
今日堕ちた一等星はアルデバランだけじゃない。」

そう言ってエルザは真剣な眼差しで夜空の星々を見つめた。
エルザが指さす向こうに輝く明るい星々は、
繋ぎ合わせれば本来は六角形のダイヤモンドのような形らしい。

たしかに、
先ほど夜空に舞い戻ったというアルデバランを数えても、

六角形と言うには一つ、星が足りなかった。


「とにかく外はもう危険。
鉱夫たちも全員街に避難させたから、あなたも城に来て。」

有無を言わせないエルザの剣幕に圧倒され、
言われるがままにエルザの馬の後ろに騎乗した。

エルザは撤収する守備軍の最後尾に馬をつけ、
自らが殿となって一行はイントレドの街へと進んでいく。

幸いなことに、星石鉱の牡牛襲撃に軍の大部分が参加していたため、
この農区郊外にあるエンリケ・ロックの邸宅へと出動してきたのは三十名ほど。

その上、エンリケ・ロックの相手をしていたのはカムラン一人であった。
アルデバランが暴れた星石鉱は怪我人続出で損害も多かったが、
こちらの邸宅事件は被害が出ることもなく、
無事に解決することができたのだった。

「犯人確保に一等星アルデバランの迷い星討伐。結局頼りきりだね。
私なんて、あなたの相棒にピンチを救われちゃったし。
最初の非礼はお詫びするよ。」

自分のことが不甲斐ない、
後ろに跨るカムランに笑いかけたエルザの表情には、
そんな思いが隠れているような気がした。


「いえ、貴女もそれだけお若いのに鉱山守備軍の隊長職など、
正直に言えばなかなか務まるものでは無いように思います。
これで少しでも頭を悩ませていることが少なくなると良いですね。」

カムランの屈託のない笑顔を見て、
エルザは少しきまりが悪いような気持ちになった。

守備軍隊長に昇るまでの間、
常に男たちを武芸で打ち負かし、
その腕前を恐れられていた彼女には、
男に励まされたことなど今まで無かったことだ。

しかも相手は自分よりも少し年下に見える男。
返事に窮した彼女は、そのまま黙って手綱をとり、
イントレドの街へと馬を進めていく。


馬上になびくエルザの金髪が星明かりに照らされ、
カムランの視界をやわらかな波のように彩っていた。


二人の犯人を乗せた護送用の馬車を中心にした一行が、
イントレドの街までもうまもなくという距離まで迫る。

今日の仕事も終わりだと喜びを隠さない兵士たちの前方に突如、
雷のような閃光と共に轟音がとどろいた。
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