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EP1_2章

2章_1 旅の仲間、マルス・トライゼン

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 風を切るように滑らかに走る二頭は、
白馬のマイラを先頭に、
目的地イントレドへと進路を取った。

日が高くなり、体に当たる風が心地よい。
しばらく黙っていた二人だったが、
思い出したかのようにマルスが振り返って口を開いた。

「おい旅商人、名前はなんという?」

昨日の挨拶など無かったかのような口ぶりだ。

「私はカムラン・リードと申します。
トライゼン卿、よろしくどうぞ。」

カムランは気持ちを押さえて返答した。

「そうか、ではカムラン、
私のことはマルスと呼んでくれていい。
不本意だが、今日からしばらく旅同中だ。よろしく。」

前を向いたままのマルスだったが、
公女の命とあれば仕方ないと納めることにしたのだろうか、
昨日ほどの荒れた感じは無い。


ずっとあの調子だったらどうしようか、
と考えあぐねていたカムランは心底ほっとしたのだった。

しかし、元々そこまで口数の多いタイプではないのか、
話といえばそれっきり。
二人の間には馬の駆ける音と風の音だけが流れていった。

前を走るマルスの背中には、
立派な円盾があり、
腰には大ぶりの片手剣が備えられていた。

馬上でこそ槍を握っているが、
本来扱いに慣れているのはこの剣と盾なのだろう。

よく手入れされた武具からもそれが伝わってきた。


どれくらいの間、馬を駆っていただろうか。
水場もない荒涼とした台地が見渡す限り広がっている。

一旦馬を休め、
小樽に積んできた水を飲ませ、頭にも少しかけてやった。


「マルス、街で買った地図によると、
ここよりだいぶ北のほうにメリス川という川があるそうですが、
この辺りにはそのような水場はないんでしょうか。」

カムランは馬を撫でているマルスに問いかけた。

「ここらには無いな。そもそも、
メリス川も治水事業の人工河川。
たいして深くもない川だ。

まあ、河川が無い事など大した問題じゃない。
夕方頃になれば、三日に一度は必ず雨になる土地だ。
皆々が水がめを家に備えているし、動物も雨で喉を潤す。
この星鏡台地はそういう風に回っているんだ。」

馬の鞍に足を掛け、マルスは続けた。

「まあ、その雨のせいで夜は恐ろしいことになるんだけどな。
あんたは大蠍にやられたんだったか?
俺はデカい虫なんか見たくもないね。さて、そろそろ行くぞ。」

小休止をとった甲斐もあり、
二頭の馬は再び出発当初のような滑らかな走りで二人を運んでくれた。
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