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EP1_序章

序章_3 メルヴィア戦史

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 「-このように、近現代のメルヴィア国の隆盛は、
   まさに先の戦役によるものだった。」

指導教官は言う。

「この戦役を深堀りする前に、
我々の住まうこの地について整理しなければならない。
まず、我々の暮らすトルタシア大陸には、六つの国が存在する。



大陸中心部にある大国、トルトゥーザ帝国。
大陸南部と、周辺の島嶼部を有するラグーサ共和国。
そして大陸東部の半島国家、ミスラ王国。この三つの国は、
トルトゥーザを頭に据えた友邦というべきだろう。

次に、トルトゥーザから山脈を隔てて北西に位置する国がエンタール公国であり、
トルトゥーザの北部にある大陸第二位の大国が、メルヴィアだ。
この二つの国は、祖先を等しくしており、
同盟を結んでいる訳ではないものの、互いに友好的な関係を築いている。

そして、残る国はアークレイ公国。
トルトゥーザの南西にある小国で、
実体としてはトルトゥーザの属邦扱いを受けている。」

以上が我々を取り巻く各国の様相である。なおも教官は続ける。

「諸君らも知っての通り、我々都市国家アンバルは、
ミスラ半島の付け根に位置し、トルトゥーザ、メルヴィア両国に
挟まれる形で国境を接している。
この位置だからこそ他国に属さぬ独立した都市として存在することができている一方で、
我々の施政はいつも悩ましいものになっている。」

だからこそ、と、教官は語気を強める。

「我々は教育と鍛錬を怠ってはならないのだ。
無能の民ではアンバルの独立は維持できない。
常に近隣の情勢に注意を払い、時に兵力として周囲の均衡を維持する、
アンバルの民に産まれた者の使命である。」

この戦役はつい数年前の出来事だ。
教官の弁舌にも熱が入る。

大国に挟まれながらも大陸で唯一の独立国家の地位を有するここ都市国家アンバルは、
国防、外交、経済、どのバランスを欠いても大国に隙を突かれかねない。

故に公家の世襲は実力最優先だ。長子、男子の世襲ではなく、
後継候補の中で最も有能な者が統治者となる。
その決定は議場で定められ、不穏分子は実子であろうとも処分される。

公となりうる各貴族家の当代も、
独立性を活かした【審判官】として大陸全体で職務があるために、
同じように厳しい実力主義にさらされている。

「-何度も言うが、このアンバル公国の強さの根源こそが実力主義。
諸君は【審判官】たる各貴族に仕える【執行官】の候補生だ。
だからして当然に君たちにも優れた実力、見識が期待されている。」

しかし執行官の席もそれほど多くはない。

最優の者たちは執行官として、
そうでなかったものはアンバル兵団に貢献すべく、
様々な兵科において徴兵に応じる事になる。教官の言葉は重かった。
それほど緊張した国家関係の中にアンバル公国はあった。
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