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魔王国編 第4章 その国を守る者

奮戦

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 ハルベルトは、誰よりも早く現在彼らが置かれている状況を理解した。そしてその瞬間、もはや生きて帰る手段はないことも感じ取っていた。
 
 魔の谷。万を超える「魔」が生息する巨大な森が広がっている敵の本拠地。「魔」の中には一体で一軍隊を相手にできるものも少なくない。それをほんの数百の兵と魔術師でどうこうできるはずはなかった。
 実際彼らのほとんどは、少し時間をおいて理解が追いつくと、絶望し諦めの表情を浮かべた。

ただ、一つ、シュレイは失念していた。

ハルベルトの目的は、生き残ることなどではない。

「おのれぇぇぇえい」

ハルベルトは、自分を包囲する無数の「魔」たちには目もくれずシュレイに向かってたった一人で突撃した。
そのまま魔法を発動する。

「水属性究極魔法!水龍降誕!!」

 その言葉と同時にハルベルトの前方に水でつくられた巨大な龍が現れた。馬10等程度余裕で丸呑みできそうな大口を開ける、そのあまりの迫力に味方の魔術師さえ恐れおののいている。その龍は空中で一回転すると、「魔」を蹴散らしながらシュレイに向かう。

「ビグベアー」

 しかしシュレイの呼び声と共に、一体の熊の姿をした「魔」がその前に立ち塞がった。
そして自らの右腕を振り上げる。その途端、せいぜい本来の熊の2倍程度の大きさだった腕が5倍以上に膨れ上がった。水龍には及ばないものの、十分巨大と言って差し支えない。

しかしハルベルトは薄く笑う。その程度の「魔」で、自分の究極魔法を破れるはずがないと。
シュレイがあまり簡単に強力な魔法を使用するため、どうも忘れがちになるが、究極魔法は、王国でも数人しか使えない魔法の頂点である。そしてその中でも「水龍降誕」は最強の攻撃力を所有する。
普通の「魔」なら十数体同時に吹き飛ばすだろう。
だからハルベルトは笑みすら浮かべたのだ。

ただ一つ、ハルベルトは失念していた。

「魔」は、一体ではないことを。

ゼビロスと言われた熊の姿をした「魔」は、二体、三体と続々と現れだした。そしてその数は、三十を超えた。

三十数本の腕と、水龍がぶつかる。


 結果。爆音とも呼べる衝突音を残し、水龍が弾け飛んだ。

「・・・そんな」

 魔術師たちはハルベルトの魔法の威力を知るがために、その光景に言葉を失った。切り札とも呼べる攻撃が、いとも簡単に、シュレイに届きもせずに防がれたのだ。もはや、ハルベルトに勝ち目はないとみな悟った。

 だが、それでもハルベルトは止まらなかった。
 水龍との衝突によってやや陣形の崩れたビグベアーたちの間を駆け抜ける。もちろん巨大な腕がハルベルトを襲ったが風属性魔法で体の動きを調節し、うまく切り抜けた。

  ゴブリン、オーク、ドラゴン、トレント、そんな魔たちがひしめくなかをハルベルトは満身創痍になりながらも走る。魔呼人を殺すために、この国を守るために。

 そして、目前に宿敵が迫っていた。

「シュレェェェェイ!!!!!!貴様だけは!貴様だけは今ここで殺す!我が愛するエルギア王国のために!」

ハルベルトは、土属性魔法で階段のような足場を幾つか作り、駆け上がった。
そして、飛ぶ。シュレイはほぼ真下にいた。

「水、風複合属性上級魔法!氷剣創装!」

青と緑の輝きがハルベルトの腕を覆い、そこに氷の剣を生んだ。どこまでも鋭く、太い。

そのまま、シュレイに向かって突き出した。

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