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第1章 魔界編

鎧武者スケルトン

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 龍は、その魔物、鎧武者スケルトンの姿を認識したと同時に、残り二体のゴブリンから薬草を奪った。
 そして、死に物狂いで逃げ出した。

「もうやめろよまじでぇぇぇぇぇえ!!」

 龍は薬草の力で体は回復していたが、精神の方はズタボロなのである。
 ゴブリンに殺されかけた時の恐怖は、消えない。
 そんな龍にもう一度戦うという選択肢はない。
 だから、逃げる道を選んだ。そもそも魔界であるこの世界に、安全な場所などないのだが、現段階ではこれは最善策だといえるだろう。
鎧武者スケルトンは、ゴブリンの二段階上の強さであるスケルトンのさらに一段階上の魔物だ。
精神的にまいっている状態でなくとも勝てる相手ではない。

 逃げる龍を追いかけるように、がじゃがしゃと音を立てながら走る鎧武者スケルトン。走る速さは今のところ龍が優っている。
 しかし、龍はあくまでなんの力もない一般人である。体力も、すぐに切れる。さらには現在龍はゴブリンから奪った錆びれた剣を持っている。
 と、龍の体力が限界に差し掛かってきたところで先の方に森が見えてきた。いつのまにか荒野の端まで来ていたのだ。

 「よし!森の中に入れば隠れられるかもしれない!!」

 かすかな希望を胸に走る龍は、しかし大切なことに気づいていない。
 森、そこが魔物の巣窟だということに。

 そのまま森の中に入り、少し行ったところで木の陰に体を隠す。鎧武者スケルトンがうろうろと龍を探し回っているのが分かる。

「クソがっ。このままじゃすぐに見つかっちまう。やるしかねえのか?また」

 命綱である剣をぎゅっと握りしめる龍。

 そしてそこに、鎧武者スケルトンがゆっくりと近づいてくる。
 龍は自分の心臓がドクんと震えるのがわかった。

 そして。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 十分近づいてきた鎧武者スケルトンに向かって龍は飛び出し、斬りかかった。
 上段から振り落とした渾身の一撃は、しかし瞬時に反応した鎧武者スケルトンの抜いた刀に阻まれてしまう。
 そしてただの高校生が持つ剣など怖くはないとばかりに龍の剣を押し返す。
 弾かれた剣の重みに、重心を後ろに持って行かれる龍。
 一発目の剣が弾かれたことで、奇襲という、唯一龍が無傷で勝つ手段を失った。

 しかし龍は、そこで挫けなかった。

 後方へ傾く重心を立て直そうとはせず、そのまま頭の上まで弾かれていた剣を強く握りしめる。そして自分の後ろにあった木に、それを突き刺した。
 そのまま体の全筋力を使い飛び上がる。木に刺した剣を重心にして地面と垂直の状態まで飛び上がった龍は、鎧武者スケルトンの横薙ぎの刀をすんでのところでかわし、鎧武者スケルトンの頭を両足で蹴り飛ばした。鎧武者スケルトンの兜が吹き飛ぶ。
 そして、着地した龍は、木から剣をぬ・・・けなかった。どうやら強く刺しすぎたようだった。

「クソが!なんでこんな時に!」

 龍が剣と格闘していると、体勢を立て直した鎧武者スケルトンが刀を振った。首を狙ったそれは、龍が体を反らしたことで急所はそれたが、肩から胸にかけて線を残す。ゴブリンの剣とは違い切れ味の良いその刀が作った傷から、鮮血が飛び散る。

「ぐわぁぁ!!ってえぇ!」

あまりの痛みに意識が飛びかける龍。しかしここで意識を失っては確実に殺されてしまう。

 龍は、最後の力を振り絞り、木に刺さっていた剣を引っ張る。傷口から溢れ出す血液が、地面に血だまりを作る。その血だまりを踏みつけ、龍は絶叫する。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

そして勢いよく抜けた剣は、兜を失った鎧武者スケルトンの脳天をぶち抜いた。
 
鎧武者スケルトンは、からからと崩れ落ちていった。



 
 
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みんなの感想(2件)

カザーク
2020.03.11 カザーク

はじめまして。設定から好きです。続きはもう書かれないんでしょうか?

解除
成幸 航
2016.08.23 成幸 航

流石が濱ち、ゆぽりんたさんです。
発想が独創的ですね!
転生ものでチートじゃないなんて珍しいです。
その脳下さい!

ゆぽりんた
2016.08.23 ゆぽりんた

そんなに褒められると、図に乗ってしまいそうです。でも、ありがとうございます。今他の話も投稿しており、更新は遅くなるかもしれませんが、頑張って続けたいと思います。

解除

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