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第1章 魔界編

与えられた者と与えられなかった者

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 ある日、とある高校の教室から、30人の生徒が1人残らず消えた。
 彼らが目を覚ました場所は、異世界の王城の中だった。
  そう、彼らは異世界に召喚されたのだった。
 そして、王から説明を受ける。
 異世界から召喚した人間は強力な魔法と武器を与えられている。そのため、現在魔界より侵攻してくる魔王を退ける、勇者になってもらいたいと。
 自分に与えられた魔法と武器に夢中になる生徒たちは、快く勇者になることを承諾する

 一方魔界に、人知れず召喚された少年がいた。王の召喚の誤作動により、魔法も武器も、情報すらも与えられずに敵の本拠地に召喚されてしまった彼は、果てしない荒野で、恐怖に打ちひしがれていた。

「な、なんだよ!ここは!空は赤いし、荒野だし!さっきまで教室にいたっていうのに、どうなってんだよ!」

彼の名前は黒髪 龍。運動も、学力も、いたって平凡な少年だ。そして、その少年にさらなる危機が訪れようとしている。

「な、なんだよあれぇ!」

龍は、三匹のゴブリンに出くわしてしまった。ゴブリンは人間の倍の体格を持つ残忍な魔物だ。勇者として召喚された他のクラスメイトであれば、大した敵ではない魔物だが、普通の人間のまま召喚された彼にとって、それは熊と戦うようなものだった。

「ひっひぃぃぃ!やめろ!よるな!嫌だ!」

 そしてゴブリンたちは、錆びれた剣を手にゆっくりと近づいてくる。どうやって殺してやろうかニヤニヤ考えながら。
龍は、恐怖のあまり体が震えて座り込んでしまう。
 そこに、ゴブリンの足が飛ぶ。数メートルも蹴り飛ばされた龍は、嘔吐する。

「ぐはっ!はあはあ。なんなんだよ、いったい」

痛みで失神しそうになるが、なんとか持ちこたえる龍。ゴブリンの中の一体が、彼を片手で持ち上げて、サンドバックのように残りの二体が殴る。身体中から血が飛び出し、骨に幾つかのヒビが入る。そして、地面に叩きつけられ、意識は飛びかけた。そして、そこに、剣が振り降ろされる。
 朦朧とする意識の中で、龍はただひとつのことを考えていた。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

 そしてどこからか、女の声が聞こえた。

『ならば、戦え』

 そうだ。死にたくないのなら、このわけの分からない世界で、生きるためには。
どんなに恐ろしくとも、どんなに苦しくとも、その体が動かなくなるまで、

戦うしか、ない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

龍は雄叫びを上げ、振り降ろされた剣を二本の手で、掴む。かなり錆びれていたため、切れ味のない剣だった事が幸いした。

「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

そして、倒れた状態のまま、剣を持つゴブリンの手を思い切り蹴り飛ばす。その反動で、5メートルほど後ろに飛び、三匹のゴブリンから距離をとる。

「へへ!奪ってやったぜ。お前の武器!」

そしてその手には、ゴブリンの持っていた剣があった。
龍は、ぎこちなく剣を構える。一度も剣など握った事のない龍にとって、その剣はかなり重いものだったが、少しだけ恐怖を緩和させた。
 龍は、ゴブリンに向かって走り出した。そして、剣を持たないゴブリンに切り掛かる。首を狙った一撃は、筋力がなかったために狙いがそれ、肩に当たる。傷は付けられなかったが、よろけせる事に成功した。龍はそこに体当たりする。するとゴブリンはバランスを崩し、倒れる。龍はその顔面に剣を突き立て、貫くというより、潰すように顔面にぶち込む。そして一体のゴブリンを倒す事ができた。
 しかしそこに、二体目のゴブリンの剣が飛ぶ。鈍い音を立てて龍の横腹は叩かれた。そのまま跳ねながら数メートル飛ばされ、倒れる。

「ぐぁっ!クソが!」

口から血が溢れる。もう体は限界だった。一ミリも動く気がしない。このまま殺されてしまった方が、もしかしたら楽なのかもしれない。

しかし

それでも

「まだ、死ぬわけにはいかないんだぁぁぁぁ!」

その叫びとともに、傷口から大量の血を噴きださせながら立ち上がった龍。近づいてきていたゴブリンの足を全力で叩く。少しだけ足にめり込んだ剣は、そのままゴブリンを転ばせる。そして、その横にいたゴブリンもろとも倒れる。そこに剣をつき出そうとした龍を、ゴブリンの足が蹴り上げる。そうして龍は数メートル上空に浮いた状態になる。龍は、どうにか上下感覚をつかむと、重力のままに落ち、その力を利用して立ち上がりかけのゴブリンの頭を砕いた。そのまま横に一閃し、完全に立ち上がったゴブリンに斬りかかる。しかしその攻撃はゴブリンの持つ剣に阻まれる。
重い剣を振り続け、はちきれそうになる腕にもう一度力を入れる。そしてーー。

 「・・・はあはあ、やったぞ、やってやったぞ!・・・あのキモいの、倒してやったぞ!はっはっ!見たかよ俺の勝ちだあ!」

龍は朦朧とする意識の中で、勝利の喜びに酔いしれていた。

しかし、彼は気づいていない。ここは、魔物の巣窟である、魔界だという事を。そして、さらなる絶望が、すぐそこまで迫っているという事を。


 
 
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