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番外編(ネタ)

三種族的な求婚方法でサイアン様に迫るコーラルさんと巻き込まれた三種族の話(ポロリもあるよ)中編

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 しかしロカ(恋愛経験ゼロだが心優しきぼっち)&ヒルシュ(童貞なのか非童貞なのかよく分からない武闘派)では有益な作戦が立てられそうにない。

 キリは作中で最も恋愛経験が豊富という設定だが、それも特に本編で生かされていない死に設定であり、困った。

 何よりもコーラルの願望が『サイアン様とラブラブになりた~い☆』よりも『サイアン様をブチ犯してメスにしてぇ……♂』であり、主人公サイドが犯罪幇助の発想を積極的にするのも如何いかがなものかと考えると、さっそく躓いてしまう。

 考え込むキリとロカ。
(ヒルシュは考えるのが苦手な樹族の血が騒いだのか、安らかにスヤァ……し始めている)
 とりあえずキリはコーラルに現実を告げた。

「普通にサイアンに好かれたいとかなら、ゼッテー無理だから諦めろよとか言えるけど、ブチ犯すならギリ出来ねー事は無ぇから悩むよな……」

 真理を告げるとコーラルに掴みかかられた。(もみあげを両手で)

「おい諦めろとか言うなよクソガキ! アタイはサイアン様との純愛ルートも諦めてねーから! 選択肢によってはハピエンも視野に入れてるサイアン様ガチ勢の夢女だから、そこんとこヨロシクな!!!!」
「無理だよ諦めろよ! つうか、いねぇよオマエみたいに根性汚い夢女は! ブチおかの提案が出てる時点で純愛路線とか息してねーんだよ諦めろ!」

 語尾が『諦めろ』になりつつあるキリの的確なツッコミの後、ロカ(一人だけ真面目に考えていた)が提案する。

「ふむ……。なら、ヒルシュ殿の筋力で捕獲してもらえば良いのでは?」

 ロカの提案にヒルシュがパチッと目を開けて反応した。

「えっ……? 間違って殴ってしまったら不味くて嫌なのでやりたくないのですが……」

 サイアン捕獲の口直しにローゼンを801発殴っても殺してもいいならヤルと言いだした。

 異世界お兄さん一人の命と引き換えにラスボスを殺すBLではハッピーエンドの向こう側に行けそうにないので却下したが、隙あらば周囲の人間を殴りたがるヒルシュからここまで嫌がられるサイアンのクソマズさが地味に気になってくる。
 
 そんなこんなで煮詰まっていると、ローゼンが雪夜を木陰で寝かしつけてたらしく、戻ってきた。
 ローゼンは長い髪をかきあげて冷淡に告げる。

「ならば、あの変態に毒でも盛れば善いではないか」

 毒と策謀を得意とする華族ならではの発想だった。

 が、コーラルは舌打ちをした。
 オッサンみたいな舌打ちを。
(その態度にローゼンはイラッとしていた)
 そしてコーラルはローゼンに、ここぞとばかりの暴言を放つ。

「バカヤロオ! 催淫剤を盛るとか日常的にヤリまくってんだよ! 今更なネタを世紀の名案みてぇに言うんじゃねぇよロンゲ!」
「おい貴様! それは誇れる事では無いではないか! しかも私はそこまでハッキリ薬剤の名は言っていない!」

 ローゼンがドン引きしながらツッコミを入れていたが、本編でサイアンがコーラルに酒をすすめられても無言で拒否っていた(しかも直ぐに話題を振って空気を変えつつ)のは常日頃、エロゲによく出てくる系のポイズンを盛られまくって身の危険を感じていたからだったのかとキリは気づいた。

 だが、普通の夢女夢見る乙女なら推しに塩対応されればハートが砕け散るような繊細さを持っていると思うのだが、コーラルの心の臓はオリハルコン製なのか、彼女は㍉もヘコんでいない。
 それ所かコーラルは酔っ払いのオッサンが酒場で若者に絡むが如く、ローゼンにウザ絡み説教し始めていたのだ。

「テメーマジでわかってねぇな! 一服いっぷく盛りまくっても通じねーからお前らに聞いてんだろうが女装ロンゲ! マジ役に立たねぇロンゲだな! ナルシスト華族のロンゲの発想はこれだからよぉ!」
「妙な名称で私を呼ぶな! そもそも、サイアンとて長髪ではないか!」

 やたらロンゲキャラが多い話なのでロンゲという単語が悪口に使われてしまうと大半のキャラも被弾すると訴えるローゼンにコーラルは同じ長髪でも推しと推し以外では違うとキレだす。

「うるせぇロンゲ! サイアン様のロンゲだから尊いしエロいんだよ! 腹立つテメェの毛と同列に語るんじゃねぇよ! ていうかサイアン様という神とロンゲでお揃い感覚とかマジ解釈違いなんでテメェだけ明日から坊主にしてこいよコラ!」
「……」

 ローゼンは怒りが極限に達したらしく、顔から表情が消えている。


 最早、喜怒哀楽を超越した聖者のような悟りの顔にすら見えた。

 だが、ローゼンがガチギレしている証拠として、彼が無言で薔薇の鞭を取り出したので(&花蝶が爆発的に放出されて視界が赤くなるレベル)キリは制止に走った。
 キリはロカと共にローゼンの背中と胸板にしがみついて止める。

「ちょ、ローゼン様! 落ち着いてェエエエ! ローゼン様は雪夜を守護る異世界お兄さんポジとかいう主人公サイドっすから! コイツをフルパワーで処したら昨今のコンプラ的にも色々とヤバイくなるから、ハッスル自重してください!」

「か、閣下! どうか冷静になってください! 貴方は華族の国でも誉れ高き名士のはずです! そしてコーラルは自分の知己でもありますので何卒!!」←理性的な説得の見本

 しかし暴言をふんだんに投げられて怒り心頭のローゼンは薔薇の鞭を叩きつけて地面を引き裂く。

「黙れ小童こわっぱども! こんぷらなるものも、商人の知己とかもどうでも善い! 私が斃したいから斃すのだ!」
 仮にも美と愛を尊ぶ華族の筆頭とは思えぬ程に拳で語る系の公爵と化していた。
(しかもロカさんはローゼンよりも200歳は年上)

 とりあえずキリは『ローゼン様が公爵から狂戦士バーサーカーに転職すると雪夜の教育に悪いので』と雪夜を引き合いに出すとローゼンはスン……と大人しくなった。

 健やかな幼児教育の為にも暴力ハッスル禁止の空気の中、暴力の化身であるヒルシュが提案してくる。

「樹族は発情期になると意中の相手に想いを伝える為に、様々な手管を使います。それを参考にしてみますか?」

 ヒルシュが意外にも正攻法(マトモな意見)を言いだした。
 しかしローゼンは悪辣な嘲笑で返す。

「フン。脳筋な蛮族どもの求愛方法なぞ、どうせ筋肉頼みな方法であろうが」
 さっきまで脳が筋力化していたのはローゼンの方だと思うキリだったが、ヒルシュは笑顔で頷いている。

「ロゼ殿、よくご存知で! そうです! 筋肉は全てを解決いたします! 脳みそさんまで筋肉だなんて、樹族にとって最大級の賛辞です~! ウフフ、ロゼ殿も他者を褒める事をようやく覚えられたのですね~!」
「褒めてなどおらぬわ!!!! そもそも薄汚いケダモノの貴様に褒める要素なぞ何処にもありはしないというか今まで私が誰も褒めた事が無い寂しい存在のような言い回しは止めろ!!!!」

 またいつものケンカになりそうなのでキリは二人の間に割って入って雑に仲裁したが、ヒルシュが言うには樹族の雄は好きな雌の前で『とある求愛行動』をとるらしい。

 樹族社会に興味が無いローゼンとキリは知らなかったので、実践してみろと促すも、ヒルシュは急に顔を曇らせた。

「え……? キリ君やロゼ殿やロカ君の前で、ですか……?」

 心底、嫌そ~な顔だった。

 しかも横眼でチラ……と見られたが、やはりイヤだと言わんばかりに目蓋を閉じて静かに首を振っている。

 告る前に『生理的に無理』と言われた男子の気持ちを疑似体験してしまった。

 そしてローゼンがまたキレた。


「何だその偉そうな不満顔は! 私とて貴様の気色悪い求愛行動なぞ見たいわけではない!」

 遂に取っ組み合いをしだした。

 キリも心から見たいわけではなかったが、確かにただの興味本位で種族固有の求愛行動をしろと言うのは失礼だった気もする。(ヒルシュだから別に良いかと思ったのだが)

 だが、そんな茶番にロカが名案を出す。

「それなら、ヒルシュ殿の意中の相手に向けると想定して、今は求愛行動の練習としてみてはいかがでしょう?」

 想い人(仮)への求婚の予習なら良いかもしれない……!
 が、ローゼンはヒルシュに嫌味を言わないと死ぬ病にでもかかっているのか、更なる暴言を口にしている。

「この蛮族に想い人だと? 全ての生物は殴って喰らう餌としか思っていない害獣風情に、我ら華族のような恋や愛を理解できる知能や感性があるとは思えんな」

 キリは思った。

『ローゼン様、アンタだって独身じゃないですか。何でヒルシュ様より恋愛経験値がカンストしてますけど~? みたいな態度とってんすか』と。
(アイアンクローで顔面を雑巾のように絞られる自分の未来予想図が見えたので黙ったが)

 しかしヒルシュはローゼンをスルーして(多分、ローゼンの嫌味が長すぎて途中から聞いていなかった)恋する乙女(※漢)の顔で告げた。

「わかりました……! それでは雪夜クンに求婚するつもりでやってみます!」

 張り切るヒルシュを左右からローゼンとキリが即座に止める。

「ちょっと待て! 雪夜は5歳児だぞ! それ以前に、あの子は男だ!」
「流石に5歳児に450歳児が求婚するのは絵面がヤバいでしょ!」

 華族の国ではショタコンは死刑という掟がある上に同性間の恋愛も白い目で見られているのだ。(突然ぶちこまれる重要な世界観設定)
 が、ヒルシュは両手を握り締めたガッツポーズという謎に女子力が高い振る舞いで言い切る。

「だいじょぶです! 雪夜クン(20)を想定して毎日練習しておりますので!」

 ローゼンが更に憤り始めたが話が進まないので『とりあえずやってみてほしい』と頼んでみた。
 ヒルシュは嬉しそうに跳びはねながら(身長2m近い筋肉大男がやっているので、地響きがエゲツない轟音となっている)ヤル気まんまんで上着の胸元をはだける。

「わかりました! それでは、やってみますね~……フンッッ!」

 途端、ヒルシュは皆の眼前で筋肉によって上着を破いた。

 弾け飛ぶ衣服、舞い散る繊維……そして


「「「「え」」」」


硬直する一同。

 その前でヒルシュは割れた腹筋&鍛え上げられた胸板を晒したまま得意げな顔をしていた。

 意味がわからない。

 急に脱ぎ出したヒルシュを前にどうすればいいのかと迷っていると、コーラルが彼につっかかった。

「テメェエエエ! イミわかんねぇだろうが! 何で脱いだ!? 言語で説明しろやぁ!」

 誰よりも鋭利なツッコミを入れている。
 しかし樹族は肉体言語は最優秀賞でも通常言語は最底辺な為、動揺していた。

「え……? おわかりになりませんか……?」
「アタイより可憐な表情やめろ心にクる! つうか今の強制脱衣のドコに理解要素あんだよコルァ!(巻き舌)」

 巻き舌と喉のどこから出したのかわからない低音でツッコむコーラルに絡まれたヒルシュいわく『発情期になると雄は交尾したい雌相手に自身の筋肉を見せつける』のだという。

「それで雌の方が相手の筋肉を気に入れば交尾できますが、そうでない場合は求婚失敗です。ちなみに、雌の方に既にお相手が居て妊婦さんだった場合、求婚した雄は倒されて妊娠期間中の栄養にされます~」

 さらっと無情な生態を語られた。
 樹族の雄の存在意義って……と誰もが絶句する。
 ヒルシュの爽やかな笑顔に、キリは本当に筋肉と暴力が社会を回しているのだと思うとゾッとした。

 そこでロカが膝を撃つ。

「なるほど! 華族の国では確実に猥褻関連の条項に引っかかる行動も樹族の国では作法に則った求婚手段として成立しているのですね! これは興味深い!」

 ロカの注釈によると、樹族の国は猛獣が闊歩する過酷な熱帯雨林である為、生命力が強く、戦闘能力を備えた雄を雌が本能的に選べるように、健康体である証明として筋肉を求婚に使うのではないかという分析だった。

 そう考えれば理に適っているように思えなくもない。住みたいとは微塵も思わないが。

 しかし近い将来、大人になった雪夜がヒルシュに目の前で上着を弾かれ、彼に胸筋と腹筋を晒されても求婚とは気づかない気もする。
 それはさておき、コーラルは神妙な顔で頷いていた。

「マジかよ……。まぁ、確かにブチ犯してぇ相手から胸板を見せられたら興奮するよな……」

 何故その樹族理論を納得できてしまうのかとキリが思っていると、コーラルが首をバキバキ鳴らしだした。
 だから何でいちいち動きがバトル漫画の強敵キャラの登場シーンみたいになっているんだとキリがツッコむ前にコーラルは手の平に拳を打ちつけて気合いを入れながら叫ぶ。

「よっしゃあ! じゃあ、試しにサイアン様にやってくるとするかね!」

 試しにやろうって思えるような行動じゃないだろ!! と止めるも、コーラルはヤル気まんまんだ。

「ちょうど通りすがりの野良サイアン様が居たしよぉ~!」

 コーラルが指差した先には、大きな木の下で雪夜がお昼寝しており、その傍に屈みこんで寝顔を見ている野良サイアン(至福の笑み)が居た。


 どう見てもショタの寝顔に興奮している変質者です本当に……という状態だったのでローゼンとヒルシュが武器と丸太を構えた。(素手で殴りたくないヒルシュは丸太を武器に使う事を覚えた模様)
 だが、それより先にコーラルが腕と足を鋭角に動かしながら素晴らしい陸上フォームでサイアンの元に駆け寄ってゆく。

 思わずキリとロカとローゼンはツッコミを入れていた。

「は、早ぇ! 何だアイツ! 瞬間移動したみてぇに早ぇ!」
「鉱族は運動が苦手な陰の者ばかりだというのに、樹族並の身体能力だ! 興味深い!」
「くそっ! この私が雪夜の守護に遅れを取るとは!」

 ローゼンだけ違う部分に着目しているが、それはさておきサイアンはコーラルがピンピンしてる事に素で驚いていた。


「は? コーラル? 何で?」


 驚きのあまり口調が素の状態になっている。(普段はデスマスカタコト口調なのに)
 そんなキャラ作りすら忘れる程に驚いているサイアンの目の前に砂埃と共に走りこんだコーラルは両手をクロスした状態で自身の上着を掴むと……(バトル漫画的ポージング)


「ッうおぉらぁぁああッ!!」


雄叫びと共に上着を引き裂いた。

 それを見たキリは叫ばずにはいられなかった。

「ヤベェ! 脱ぎ方が誰よりも漢前すぎてヤベェっていうかヤバすぎて語彙が死ぬ! っていうかオマエ、そんな捨て身の自分プロデュースでいいのかよ!?」

 キリの言葉に、前方を走っていたヒルシュが丸太を放り捨てて唸る。

「うぅ……! 筋肉を愛する樹族として負けられません! わたくしも脱ぎます! えいっ!」

 脱ごうとするヒルシュの腕をローゼンが素早く掴んで止める。そして怒鳴る。

「止めろ! 何故、貴様まで無駄に脱ぐ!? 雪夜の健全な成長に影響が出たらどうする! というか、先ほど筋肉で破壊した上着が普通に元に戻っているのだ!? おかしいではないか!」

 言われて初めて気づいたが、ヒルシュの服が元に戻っていた。
 明らかに超常現象だが、ヒルシュは戸惑っている。

「え? 当たり前ですけど……。樹族の上着は筋肉で裂いても次のシーンで元に戻っているのです」
「……????」

 世紀末樹族世界の常識を出されてローゼンは混乱していたし、ロカは最後尾を走っていた運動音痴の癖にヒルシュの衣服の繊維の謎を調べるべく、目を光らせて猛ダッシュで一瞬で追いついてきている。

 それはともかくコーラルらの所ではまた別の修羅場が発生している。

 いきなり眼前でダイナミック脱衣されたサイアンは驚き過ぎて理性がフリーズしたらしく、固まっていた。

「……」

 そして彼は一瞬、何が起きたのか分からないといったポカン顔の後、悲鳴を上げる。


「キャァアアアアアアアァアアアア!!!!」


 まさかの絹を裂くような悲鳴(※いつもは低音)の後、サイアンは身の危険を感じたのか、自身の体を両手で覆うようにして後ずさりながらコーラルから距離をとっていた。
 変質者と遭遇した乙女の反応そのものだった。

「コ、コ、コーラル!? アナタ、何してるんデスカ!? っていうか、何でナンか居るンデスカ!?」
「サイアン様! アタイに惚れましたか?(ドヤ顔)」
「ハァ!? そんなイロモノ行為で惚れるとかワタシ的に有り得ないっていうか、キミ、本当に何考えてそういう行動したわけ!?」←また素に戻ってる
「アタイ、サイアン様ガチ勢の夢女っスから! 一発でイイんでヤらせてくださいよ! 優しくするんで!」

 コーラルは会話のドッジボールを繰りだしまくっている。
 流石カラダ目当ての会話術だ。(※褒めてない)

 サイアンは会話がループしまくる事と、露出しながら迫る女(元・部下)に恐れをなしたのか涙目で地平線の彼方に逃げて行った。

 後に残されたのは、半裸で立ち尽くすコーラルと、事態を静観する攻ズと、鼻からフーセンを出して爆睡している雪夜だけだった。

 どう見てもプロポーズ作戦()は大失敗に終わっていたのだが、ここで失敗とかダメとか言うとコーラルが理性を完全に捨て去って暴れ狂うと察したキリは主のローゼンを肘でつついて目くばせする。

(ローゼン様、ここでコイツ煽ったら余計にややこしくなるので、適当に話を合わせて切り上げましょう! そういう空気読んで行動するのは華族のオレらが得意ですし!)

(確かにそうだな! 雪夜が目を覚ました時に、こんな惨状を見せるわけにはいかぬ!)

 ローゼンは察しが良いので直ぐに頷き、同意してくれた。


 が、


「失 敗してしまわれましたか……。やはり筋肉量が足りないと求婚は上手くいかずにダ メになってしまいますね……。でも、ダ メ ダ メさんな失 敗であったとしても、筋肉が続く限り努力するのが樹族の矜持です! この失 敗を糧にダ メな所を乗り越えてゆかねばですね!」

 空気は読むものではなく、己の力で捻じ伏せて他者に吸わせて制する理論の樹族がやらかした。

『失敗』と『ダメ』を使って罵倒を考えなさいという例文の答えのような台詞をヒルシュがコーラルに面と向かって言い放っていたのだ。(本人に悪意も悪気もゼロ)

 あっ……とキリとローゼンが顔を見合わせる。

 そしてローゼンが雪夜を抱えて避難すると同時にコーラルが怒声と共にヒルシュの胸倉を掴んで揺すっていた。

「おいコラ! 鹿ァァアアアアァアアア! テメェの方法で明確に失敗した上にケンカ売ってんのか鹿コラァアアアア!!!!」
「ちょ、ゆ、揺らさないでください……ッ、胸の奥から熱いものが……」

 ヒルシュが青い顔で口元を押さえているが、何故コーラルはこのフルパワーを本編で発揮しなかったのだろうか。
 ボウガンで舐めプとかせずに肉弾戦で挑んでいたらワンチャン勝利展開もあったかもしれないとか、変えられない過去本編は置いといてキリは不思議で仕方なかった。


「……いや、普通、女の胸とかって、一部、食えない海苔(※)が入るモノだと思ってたんですけど、普通に本編のオレらの入浴シーン並に、丸出しっすね……」

※胸に海苔現象→ 漫画等で女性キャラの裸が描かれる場合、特定の一部のみ、不可食の海苔が貼られる。(謎の光やモザイクが海苔の代わりになる場合もある)

 キリの言葉にローゼンは困惑しながら問うてくる。

「海苔……? そのようなものを何故に胸板の一部に貼るのだ?」

 お育ちが良いお方はコレだからよぉ~……ペッ!(唾棄)とキリはヤサグレかけたが、ローゼンは訝し気な表情で続ける。


「……いや、そもそも一部分だけ隠す方が妙ではないのか……?」


 キ リ は 微 笑 ん だ。

 この人も、しっかり華族フェチの血統だった~! と。

 ローゼンの部屋を掃除してもベッドの下にエロ本の一つも無いので割とガチ目に心配していたが、キリはそんなローゼンの反応に安堵せずにはいられなかったのだ。
 すかさずローゼンの傍に瞬間移動する。

「わかりますよ、ローゼン様! 乳首を隠す方がエロいって言いたいんですよね!」
「は? いや、そうではな」
「いやいや! 華族は涼しいカオしつつも性癖エゲツねぇヤツが多いって知ってますから!」
「何の話をして」
「華族は性癖が捻じ曲がってるヤツ揃いですけど、乳首は隠さない方がエロくねぇし、隠すと余計にヒワイって見解、まぁ華族の国ではマシな方の性癖ですよね!」
「だから違」
「隠した方が妄想がフル活動するのわかりますわかります! オレも全裸より一部見えない方が興奮しますからローゼン様も同じ性癖とは……」

 その瞬間、キリの視界が暗黒に落ちる。

 親の顔より見た必殺技だとキリが察する前に、ローゼンの怒声(イケボ)が鼓膜をつんざいた。

「だから! 話を! 聞かぬか莫迦者が! 私にまで妙な性癖をつけようとするな!!」

 そのまま地面に後頭部から叩きつけられた上に、片手で持ち上げられた。
(※この必殺技は樹族ではなく華族がやっています)

 結局、アイアンクローを番外編でまでやられたのだった。

 現場では美青年が従者の顔面を掴んで宙づりにしていたり、オカッパの半裸女が美青年の胸倉を掴んで揺すりまくっていたりと地獄のような光景だったが、それを全て記録していたロカがコーラルに話しかけた。


「しかしコーラル、そもそも樹族は種族的にあまり恋愛を重視しないのが特徴だが、どうしてその樹族の案を採用したんだ? 樹族同士ならともかく、鉱族のお前と、何かよくわからん生物のサイアンに樹族的な求婚手段が効果的とは自分には思えないのだが……」


 あっ……。


 その場の誰もが失念していた。


『BL(ベスト ラヴ)』の要素が全く無い告り方だった事を。


 むしろフラレにいったとしか思えない無謀さにコーラルがヒルシュを放り出し、地面を拳で叩いて嘆きだした。(だから何故そんなにも誰よりも雄々しいのか)

「クソが! そうだった! 樹族とかいう情緒ゼロのアホの極みどもの中でも飛び抜けてアホの鹿野郎の案で成功するわきゃあなかったよ!」

 参考にしておいてこの態度……と誰もが思う中、ロカだけが真面目に相談にのってあげていた。

「コーラル、落ち着け! お前は鉱族オタクだろう! 鉱族オタク的には研究さぎょうで行き詰った時は初心に戻るのが定石だ! そして他者を羨むのではなく他者から学び、成長していくのが我々、鉱族オタクじゃないか! そう、つまり愛と恋の百戦錬磨といえば、やはり華族陽キャだ! 華族カースト上位の彼等を研究……あ、いや、彼等から学ぼう!」
「ハッ……!」

 ロカとコーラルの視線がキリとローゼンに注がれる。

 悪気ゼロで、とんでもトラブルを押しつけてくるロカにキリはイラッとしたが、期待の眼差しを向けられるも、華族の恋愛作法書には、そもそも『嫌がる相手を手籠めにする』等という犯罪項目はない。

 しかも仮に華族の伝統的な愛情表現を教えたとしてもコーラルが失敗したら

脳内イマジナリーコーラル『何が愛と恋を重んじる華族だコラァ! テメーらの恋愛偏差値は童貞以下じゃねーか! この机上の空論童貞どもがァ!』

とかバキバキに誹謗中傷されるに決まっている。


 自分達に火の粉を飛ばさず、それでいて華族が恋愛童貞とかいう舐めた評価をされない為にどうすればいいかをキリはローゼンと視線で会話した。

(ローゼン様! 伝統的な作法とか鉱族オタク共に教えてもモノに出来ねーと思うんスよね!)

(全くもって同感だ。我ら華族の作法を小賢しい鉱族や愚劣極まりない樹族に理解できるはずもない)

(脳内に直接、他種族disとばしてこないでください! つーワケで、華族の国の若いヤツらに一時的に流行ってた恋愛ネタでもぶっこんでおきますわ!)

(なるほど……! 流石だ、キリ!)

 今時の流行りならば伝統を侮辱される事もなく、更に上手くいかなければ『花の盛りの華族の国の流行りは、土くれに囲まれた育ちのアンタ等には時代が早すぎたようどすなぁ~?』と華麗に返り討ちに出来る。


 そんなわけで、キリは華族の国のナウいヤングにバカウケな告り方を伝授する事にしたのだった。



→後編に続く



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【後書きのようなもの】

なんで中編が9000文字になってるんだ、文字数おかしいじゃないかという感じですが、途中で区切ろうとしても常にコーラルがキレキレに罵倒していたりサイアンが可哀想な目に遭っていたりヒルシュが脱ごうとしていたりでカットインの隙がありませんでした。申し訳ありません。

そして長い話を読んでくださってありがとうございます!(涙)後編に続きます~!

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