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09.風の矢~防具職人
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「風魔法の適性を調べる時、手に接している空気を前に送り出しましたね。矢に込めた魔力であれと同じことをするんです。そうすると矢が空気を後ろに押して、自分で前に進むようになります。ただし発動するのは矢が離れてからです。矢が風を切って前進するのを思い浮かべてください」
「は、はいっ」
矢が魔力で前進する……全く想像したこともなかった。師匠はこれを自分で編み出したんだろうか。きっとそうなんだろう。あたしだって自分の弓の弱さをなんとかしようと色々調べたけど、こんな情報どこにもなかった。それを教えてもらえるなんて、すごすぎる。
試射してみると、明らかに矢の勢いが違う。弓がもう一ランク上がったようだ。五番の鏃では、頭が軽くて矢が浮き上がる感じだ。
続いて六番。今度はちょうどいい軌道だ。明らかに威力も上がっている。
「やはり六番がちょうどいいようですね」
このために鏃を二つ買ったんだ。本当に何もかも師匠の思惑通りっていう感じだ。師匠のすごいところは、単純に強いだけじゃなくて、豊富な経験に裏打ちされてるってことだ。こんなに幼いのに、まるで大ベテランだ。
次に来たのは弓工房だ。師匠は中に入って挨拶すると、親方じゃなくて若い職人に声をかけた。
「メイプルの矢をまた作って欲しいんです。丸棒は材木屋さんに頼んであります」
「分かった。印がある方が鏃だったな」
「はい。それと今回は鏃も付けてください。これと同じ重さで」
「分かった。じゃあ材木屋から少し前渡ししてもらって取り掛かるとしよう」
矢の代金を前払いして工房を出た。弓は道具屋で買ったけど、鏃は工房のを使うようだ。さっき道具屋で買った鏃は重さを確認するだけの目的だったっていうことだろう。
「メイプルの別名は楓といって、風の魔力を通す性質を持っているんです。多分、他の材では無理だと思います。矢を補充する時はメイプル材を使ってください。それと、魔力が流れるのは根から葉の方向だけなので、必ず根に近い方に鏃が付くようにしてください」
再びギルドに戻って食堂でお昼を食べた。ここも地元とあまり変わらない。
「武器の更新はこれで大丈夫ですね。優先順位としては、次に買いたいのはアイテム袋です。大きい獲物を持ち帰れないと、お金を稼げないですから」
そうか、武器にお金をかけなかったのはアイテム袋に回すためだったんだ。
「それから、お金が貯まったら欲しいのは魔導二輪車ですね。遠征の日程が大幅に短縮できるので」
「あの、防具はどうしたらいいですか」
「えっと、防具は……」
なぜか師匠の目が泳いだ気がする。
「きゃああ、天使ちゃん」
食堂から出たところで、いきなり女の人が師匠に抱き付いてきた。この人、師匠のこと天使ちゃんて呼んでるんだ。やっぱり神話に例えたくなるよね。あたしも精霊だと思った。
「遠征お疲れさま。会えなくて寂しかったわよう……あら、こちらは?」
「あの、遠征先で知り合った弓師さんです」
「天使ちゃんとはどんな関係なの? もしかして、新しい恋人?」
「ち、ちがいます。今ちょっと成長のための助言をしていたところで……」
「ふうん、そうなんだ。あ、私は防具職人よ。天使ちゃんの防具姿見た? 私が作ったの」
この人が、あの魔導防具の製作者なんだ。あれだけ影響力があるんだから、てっきり国府にいるのかと思ってた。
「は、初めまして。北東領から来ました、Cランクの弓師です」
「あら、Cランクなの?」
「いえ、すぐに試験を受けてBランクに上がります。この先Aランクにも上がれると思います」
いきなり師匠があたしの昇格を口にした。Bランクっていったら、CランクPTが相手にする魔物を単独で倒せる強さだ。しかもすぐに上がるなんて、師匠は本気で思ってるんだろうか。
「有望なのね。今いくつなの?」
「あ、十四です」
「ピチピチの成人前じゃない。伸びしろあるわねえ。それじゃあ私もツバ付けとかなくっちゃ」
なんだか師匠がアタマ痛そうな顔をしている。やはりこうなってしまったか、みたいな。もしかしてあたし、とんでもない人と出会ってしまったんだろうか。
それからなぜか三人で道具屋に移動した。
「さっそくサイズ測りましょ。店長、倉庫借りるわね~」
「はいよ」
「あっあの、彼女、武器を新調したところで、次はアイテム袋を買わなきゃいけないんです。防具の方は、予算が……」
「そこは私に相談してくれなくっちゃ。武器を替えて上位の狩場に移るなら、当然防具も必要でしょ? さ、入って」
道具屋の倉庫に連れ込まれてしまった。
「さ、二人とも脱いで」
「えっ、私もですか」
「そうよ。彼女だけ裸じゃ恥ずかしいでしょ? それに天使ちゃんも成長してそうだしね」
結局二人とも裸にされてしまった。でも師匠のあの防具、局部しか覆ってないし、サイズ関係ないような気がする。あたしのせいで巻き込まれちゃったんだ。申し訳ない……。
「きゃああ、すんごいキレイなお尻してるじゃない。これは絶対お尻出さなくっちゃ。体の線を隠すような服着てたら、体がたるんじゃうわよぉ」
メチャクチャなこと言ってるのに、なんだかすごい説得力があって押し切られそうだ。師匠はキレイだから自信持ってあんな防具着てるのかと思ってたけど、もしかしたらこの人に押し切られた?
「は、はいっ」
矢が魔力で前進する……全く想像したこともなかった。師匠はこれを自分で編み出したんだろうか。きっとそうなんだろう。あたしだって自分の弓の弱さをなんとかしようと色々調べたけど、こんな情報どこにもなかった。それを教えてもらえるなんて、すごすぎる。
試射してみると、明らかに矢の勢いが違う。弓がもう一ランク上がったようだ。五番の鏃では、頭が軽くて矢が浮き上がる感じだ。
続いて六番。今度はちょうどいい軌道だ。明らかに威力も上がっている。
「やはり六番がちょうどいいようですね」
このために鏃を二つ買ったんだ。本当に何もかも師匠の思惑通りっていう感じだ。師匠のすごいところは、単純に強いだけじゃなくて、豊富な経験に裏打ちされてるってことだ。こんなに幼いのに、まるで大ベテランだ。
次に来たのは弓工房だ。師匠は中に入って挨拶すると、親方じゃなくて若い職人に声をかけた。
「メイプルの矢をまた作って欲しいんです。丸棒は材木屋さんに頼んであります」
「分かった。印がある方が鏃だったな」
「はい。それと今回は鏃も付けてください。これと同じ重さで」
「分かった。じゃあ材木屋から少し前渡ししてもらって取り掛かるとしよう」
矢の代金を前払いして工房を出た。弓は道具屋で買ったけど、鏃は工房のを使うようだ。さっき道具屋で買った鏃は重さを確認するだけの目的だったっていうことだろう。
「メイプルの別名は楓といって、風の魔力を通す性質を持っているんです。多分、他の材では無理だと思います。矢を補充する時はメイプル材を使ってください。それと、魔力が流れるのは根から葉の方向だけなので、必ず根に近い方に鏃が付くようにしてください」
再びギルドに戻って食堂でお昼を食べた。ここも地元とあまり変わらない。
「武器の更新はこれで大丈夫ですね。優先順位としては、次に買いたいのはアイテム袋です。大きい獲物を持ち帰れないと、お金を稼げないですから」
そうか、武器にお金をかけなかったのはアイテム袋に回すためだったんだ。
「それから、お金が貯まったら欲しいのは魔導二輪車ですね。遠征の日程が大幅に短縮できるので」
「あの、防具はどうしたらいいですか」
「えっと、防具は……」
なぜか師匠の目が泳いだ気がする。
「きゃああ、天使ちゃん」
食堂から出たところで、いきなり女の人が師匠に抱き付いてきた。この人、師匠のこと天使ちゃんて呼んでるんだ。やっぱり神話に例えたくなるよね。あたしも精霊だと思った。
「遠征お疲れさま。会えなくて寂しかったわよう……あら、こちらは?」
「あの、遠征先で知り合った弓師さんです」
「天使ちゃんとはどんな関係なの? もしかして、新しい恋人?」
「ち、ちがいます。今ちょっと成長のための助言をしていたところで……」
「ふうん、そうなんだ。あ、私は防具職人よ。天使ちゃんの防具姿見た? 私が作ったの」
この人が、あの魔導防具の製作者なんだ。あれだけ影響力があるんだから、てっきり国府にいるのかと思ってた。
「は、初めまして。北東領から来ました、Cランクの弓師です」
「あら、Cランクなの?」
「いえ、すぐに試験を受けてBランクに上がります。この先Aランクにも上がれると思います」
いきなり師匠があたしの昇格を口にした。Bランクっていったら、CランクPTが相手にする魔物を単独で倒せる強さだ。しかもすぐに上がるなんて、師匠は本気で思ってるんだろうか。
「有望なのね。今いくつなの?」
「あ、十四です」
「ピチピチの成人前じゃない。伸びしろあるわねえ。それじゃあ私もツバ付けとかなくっちゃ」
なんだか師匠がアタマ痛そうな顔をしている。やはりこうなってしまったか、みたいな。もしかしてあたし、とんでもない人と出会ってしまったんだろうか。
それからなぜか三人で道具屋に移動した。
「さっそくサイズ測りましょ。店長、倉庫借りるわね~」
「はいよ」
「あっあの、彼女、武器を新調したところで、次はアイテム袋を買わなきゃいけないんです。防具の方は、予算が……」
「そこは私に相談してくれなくっちゃ。武器を替えて上位の狩場に移るなら、当然防具も必要でしょ? さ、入って」
道具屋の倉庫に連れ込まれてしまった。
「さ、二人とも脱いで」
「えっ、私もですか」
「そうよ。彼女だけ裸じゃ恥ずかしいでしょ? それに天使ちゃんも成長してそうだしね」
結局二人とも裸にされてしまった。でも師匠のあの防具、局部しか覆ってないし、サイズ関係ないような気がする。あたしのせいで巻き込まれちゃったんだ。申し訳ない……。
「きゃああ、すんごいキレイなお尻してるじゃない。これは絶対お尻出さなくっちゃ。体の線を隠すような服着てたら、体がたるんじゃうわよぉ」
メチャクチャなこと言ってるのに、なんだかすごい説得力があって押し切られそうだ。師匠はキレイだから自信持ってあんな防具着てるのかと思ってたけど、もしかしたらこの人に押し切られた?
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