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03.弟子入り
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「リーダーっ」
回復師が剣士に駆け寄った。そして指が切断された剣士の右手に両手を添えようとしたが、師匠に突き飛ばされた。
「きゃあっ……な、何するんですか」
「その低級回復魔法では血止めくらいしか出来ませんよ。切断された指は二度と元に戻らなくなります。まあ、元々役立たずなので、それでいいのならいいですが」
回復師は何も言い返せず、言葉に詰まった。師匠は弓を肩にかけると、地面に落ちていた剣士の指の断片を片手で二つともつまみ上げた。剣士の右手首を無造作に掴んで指の断片を元の位置に当てると、何事もなかったように指はくっついた。剣士も回復師も呆気に取られている。
「己の無力さを思い知ったなら、さっさと出ていきなさい」
今のは、教会の言い方だと聖女に相当する回復魔法じゃないだろうか。まったく師匠はとんでもない人だ。弓だけじゃなく攻撃魔法も回復魔法も一流だ。多分、剣でも槍でも元PTの男たちなんか問題にならないくらい強いだろう。
「さて。お前はどうするんですか」
師匠は槍士の方を向いた。槍士は口数の少ない男だけど、あたしが蔑まれるのを見てニヤニヤするいやらしい奴だ。でも今はかなり焦った顔をしてる。
「お……俺は何も。ただ訓練に来ただけで……」
「私たちが訓練している射場に勝手に入り込んでおいてですか。お前の得物は何ですか」
「や、槍だ」
「お前がここへ訓練をしに来たと言い張るのなら、ちゃんと槍の訓練をしてもらいましょう。私が相手になります」
二人は訓練用の木の棒を持って向き合った。師匠が選んだ棒の方が短いし、体も小さい。でも、予想通り槍士はコテンパンにやられた。一瞬で間合いを侵略されて、対応することもできずに棒でメッタ突きにされた。あれが本物の槍なら即死だ。槍士は降参の言葉を発することもできないまま気絶して倒れた。
「さて、ここにいても仕方ないので、お昼でも食べに行きましょうか。いいお店があれば案内してください。荷物は預かりますよ」
師匠のアイテム袋に荷物を入れてもらい、PT脱退記念ということで評判のいい高級店に入った。
「あの……師匠と呼ばせてくださいっ」
「いいんですか? ちょっと特殊で、厳しい特訓をすることになりますが」
倒れた槍士が思い浮かんだ。でも、どんなにボコボコにされてもやるしかない。悔しいけど剣士に言われたことは本当だ。PTに入ってたからCランクに上がれたけど、今のあたしが単独でCランクの依頼をこなすのは無理だ。
「やりますっ」
料理は評判通り美味しかった。
「ところで師匠、この街にはバジリスク討伐に来たんですか?」
師匠は料理を頬張ったまま頷いた。こうして見ても本当に恐ろしいほどの美少女だ。この店は客層が上品だから騒ぎにはなってないけど、なんとなく他の客もそわそわしている。
「でもどうやって……」
「先に目を潰すんです。弓で」
あたしの戦い方と同じだ。ただ問題はバジリスクの目を見たら硬直させられてしまうという点だ。目を見ずに、目を射抜く。まるで心眼とかそういう話だ。多分、師匠にしかできないんだろう。
「あの……師匠があたしを拾ってくれたのは、どうしてですか」
「それは……体の中に魔力が封印されているのが分かったからです」
「えっ、魔力が封印……? そんな話、初めて聞きました」
「そうですね。私も初めて見ました」
見たって……そうか、師匠には魔力が見えるんだ。バジリスクの目を見ずに目を射抜けるのも、その力があるからなのか。超一流の魔法職だけが使える魔力感知っていう能力があることは知ってるけど、弓の狙いを定められるほど鮮明に見えるなんて思わなかった。
「でもそうするとあたしって、封印された魔力以外は空っぽなんですか」
「違います。特訓にも関わるので説明しておくと、魔力の集まる場所が脳天から会陰まで体の芯に沿って七つ並んでいます。そのうち下から二番目が魔力中枢です。そこから全身に魔力が巡っているんですが、そこが二重構造のようになっているのが見えたんです。強い魔力が殻のようなものに閉じ込められていて、その魔力は巡りに関与していないんです。殻の外側には弱い魔力があって、そっちが体を巡っています」
どうやら師匠は訓練場であたしの魔力の巡りを観察してたらしい。
「その殻を破るのが、特訓の目標です」
冒険者の強さは、魔力の強さに比例する。もちろん魔物だってそうだ。すべての生き物は魔力を持ってるけど、その中で特に魔力が強いのは魔物と、一部の人間だ。魔物は体内に魔石を宿してるけど、一部の人間は師匠の話にあった魔力中枢が他の獣なんかよりも発達するらしい。中級以上の冒険者になれるような人がそれにあたる。
「特訓はこの街でも出来ないことはありませんが、私の地元に来てもらった方がいいです。何か予定はありますか」
「いえ、なんにもないです。PTは抜けたし、個人で受けてる依頼もないので」
「分かりました。一旦家に帰って準備しますか」
「いえ、PTで借りてる部屋は出ることになって、私物もさっき受け取ったので、このまま行きます」
回復師が剣士に駆け寄った。そして指が切断された剣士の右手に両手を添えようとしたが、師匠に突き飛ばされた。
「きゃあっ……な、何するんですか」
「その低級回復魔法では血止めくらいしか出来ませんよ。切断された指は二度と元に戻らなくなります。まあ、元々役立たずなので、それでいいのならいいですが」
回復師は何も言い返せず、言葉に詰まった。師匠は弓を肩にかけると、地面に落ちていた剣士の指の断片を片手で二つともつまみ上げた。剣士の右手首を無造作に掴んで指の断片を元の位置に当てると、何事もなかったように指はくっついた。剣士も回復師も呆気に取られている。
「己の無力さを思い知ったなら、さっさと出ていきなさい」
今のは、教会の言い方だと聖女に相当する回復魔法じゃないだろうか。まったく師匠はとんでもない人だ。弓だけじゃなく攻撃魔法も回復魔法も一流だ。多分、剣でも槍でも元PTの男たちなんか問題にならないくらい強いだろう。
「さて。お前はどうするんですか」
師匠は槍士の方を向いた。槍士は口数の少ない男だけど、あたしが蔑まれるのを見てニヤニヤするいやらしい奴だ。でも今はかなり焦った顔をしてる。
「お……俺は何も。ただ訓練に来ただけで……」
「私たちが訓練している射場に勝手に入り込んでおいてですか。お前の得物は何ですか」
「や、槍だ」
「お前がここへ訓練をしに来たと言い張るのなら、ちゃんと槍の訓練をしてもらいましょう。私が相手になります」
二人は訓練用の木の棒を持って向き合った。師匠が選んだ棒の方が短いし、体も小さい。でも、予想通り槍士はコテンパンにやられた。一瞬で間合いを侵略されて、対応することもできずに棒でメッタ突きにされた。あれが本物の槍なら即死だ。槍士は降参の言葉を発することもできないまま気絶して倒れた。
「さて、ここにいても仕方ないので、お昼でも食べに行きましょうか。いいお店があれば案内してください。荷物は預かりますよ」
師匠のアイテム袋に荷物を入れてもらい、PT脱退記念ということで評判のいい高級店に入った。
「あの……師匠と呼ばせてくださいっ」
「いいんですか? ちょっと特殊で、厳しい特訓をすることになりますが」
倒れた槍士が思い浮かんだ。でも、どんなにボコボコにされてもやるしかない。悔しいけど剣士に言われたことは本当だ。PTに入ってたからCランクに上がれたけど、今のあたしが単独でCランクの依頼をこなすのは無理だ。
「やりますっ」
料理は評判通り美味しかった。
「ところで師匠、この街にはバジリスク討伐に来たんですか?」
師匠は料理を頬張ったまま頷いた。こうして見ても本当に恐ろしいほどの美少女だ。この店は客層が上品だから騒ぎにはなってないけど、なんとなく他の客もそわそわしている。
「でもどうやって……」
「先に目を潰すんです。弓で」
あたしの戦い方と同じだ。ただ問題はバジリスクの目を見たら硬直させられてしまうという点だ。目を見ずに、目を射抜く。まるで心眼とかそういう話だ。多分、師匠にしかできないんだろう。
「あの……師匠があたしを拾ってくれたのは、どうしてですか」
「それは……体の中に魔力が封印されているのが分かったからです」
「えっ、魔力が封印……? そんな話、初めて聞きました」
「そうですね。私も初めて見ました」
見たって……そうか、師匠には魔力が見えるんだ。バジリスクの目を見ずに目を射抜けるのも、その力があるからなのか。超一流の魔法職だけが使える魔力感知っていう能力があることは知ってるけど、弓の狙いを定められるほど鮮明に見えるなんて思わなかった。
「でもそうするとあたしって、封印された魔力以外は空っぽなんですか」
「違います。特訓にも関わるので説明しておくと、魔力の集まる場所が脳天から会陰まで体の芯に沿って七つ並んでいます。そのうち下から二番目が魔力中枢です。そこから全身に魔力が巡っているんですが、そこが二重構造のようになっているのが見えたんです。強い魔力が殻のようなものに閉じ込められていて、その魔力は巡りに関与していないんです。殻の外側には弱い魔力があって、そっちが体を巡っています」
どうやら師匠は訓練場であたしの魔力の巡りを観察してたらしい。
「その殻を破るのが、特訓の目標です」
冒険者の強さは、魔力の強さに比例する。もちろん魔物だってそうだ。すべての生き物は魔力を持ってるけど、その中で特に魔力が強いのは魔物と、一部の人間だ。魔物は体内に魔石を宿してるけど、一部の人間は師匠の話にあった魔力中枢が他の獣なんかよりも発達するらしい。中級以上の冒険者になれるような人がそれにあたる。
「特訓はこの街でも出来ないことはありませんが、私の地元に来てもらった方がいいです。何か予定はありますか」
「いえ、なんにもないです。PTは抜けたし、個人で受けてる依頼もないので」
「分かりました。一旦家に帰って準備しますか」
「いえ、PTで借りてる部屋は出ることになって、私物もさっき受け取ったので、このまま行きます」
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