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肆.伍
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その男は突然現れた。
荒くれ者共が集まる冒険者ギルド。この辺境伯領でも相違なく、気性の荒い男達が集まっていた。
今は昼と夕方の間の時間帯。早朝から以来に出かけた冒険者たちの中でも、早めに終わる軽い依頼を受けた者たちは既に戻ってくる時間帯だ。
まだ日のある時間にもかかわらず、金銭に余裕のあるものはギルド併設の酒場で酒を飲み、話に花を咲かせている。
辺境伯領は国境間際にあることもあり、領軍の騎士達の練度が高く治安も良い。しかし隣国がここの所きな臭い為、都市全体がやや緊張感が高まっていた。
「おい聞いたか?”剛腕のゼクス”が隣の国の紛争に巻き込まれて怪我しちまったらしいぜ」
「それって本当なのか?あの馬に吹っ飛ばされてピンピンしてるような奴が人間同士の戦いで怪我すんのか?」
「森の浅いとこに難民共が居てな、根こそぎパパノイア草をとっちまってんだよ!せっかく群生地を見つけたってのに、あんな採り方されちゃまた1から探し直しだ!」
難民が増えた事により、市民や冒険者の生活に影響が出てしまっているようだ。不平不満が徐々に溜まり始めている。普段なら潤沢に納品されている薬草類も、徐々に数が少なくなり依頼料がやや上がり始めていた。
キィ…
静かに冒険者ギルドの扉が開かれた。荒くれ者たちでは絶対にしない扉の開け方だ。ギルド内の者が入口に目線を向ける。
そこには小柄な男が1人立っていた。
周りから視線を向けられている事を気にもせず、ゆったりとカウンターに歩いていく。短めに切りそろえられた黒髪に、黒目がちなアーモンド型の目は知的な光を浮かべている。肌はきめ細かく、やや黄味がかっており、この国ではあまり見かけない肌色だった。
エキゾチックな雰囲気に自然と目を向けてしまう。受付に向けて笑みを浮かべた瞬間、可愛らしい愛嬌が溢れた。ぷっくりとした唇から鈴がなるような高めのハスキーな声が紡ぎ出される。
受付との会話を皆が耳を済ませる中、どうやらその男は納品とギルドカードの発行を行うようだ。
◇◇◇◇◇◇
ギルドの受付嬢であるミルトは内心興奮していた。
(なんてスマートな人なの!!!!!!)
旅慣れた雰囲気にやや衣服は草臥れているものの清潔感は失われず、周りのガサツな男どものような男臭い匂いがしない。むしろ爽やかな清潔な香りがする。これはサボンの実できちんと衣類を手入れしていると見た。
この国では滅多にお目にかかれない変わった風貌。黄龍帝国周辺の民族なのだろう。ギルドカード発行証の書類上は、隣国寄りの黄昏の森の中の集落出身と書かれているので、移民村か奴隷から逃れた者の集落なのだろう。隣国ではまだ奴隷制度が残っている。
柔和な微笑みに洗練された言葉遣い。言葉の端から滲む知性。外套の袖から除く腕は細いながらも筋肉がついているのが見て取れ、猫科の魔物のようなしなやかさが伺える。
ミルトは賢そうな男がタイプだった。ギルドの受付嬢となったのも、一重に冒険者の魔法使い達や依頼に訪れる貴族たちの従者達と繋がりを持つためである。
ガチガチ物理系アタッカーの脳みそ筋肉はお呼びではなかった。
紡ぎ出されるハスキーな声に、そこはかとなく色気が滲んでいる。好みドンピシャだ。これは何としてもお近付きにならねば!
次からも利用してもらうには、自分が有能かつ仕事が早い事をアピールせねばならない。自分に鑑定のスキルがないことが惜しい。男から受け取った薬草類を、鑑定係がいる奥の部屋にダッシュで持ち運んだ。
ミルト・オルベンスキー(19)、バリバリの身体強化スキル持ちだった。
荒くれ者共が集まる冒険者ギルド。この辺境伯領でも相違なく、気性の荒い男達が集まっていた。
今は昼と夕方の間の時間帯。早朝から以来に出かけた冒険者たちの中でも、早めに終わる軽い依頼を受けた者たちは既に戻ってくる時間帯だ。
まだ日のある時間にもかかわらず、金銭に余裕のあるものはギルド併設の酒場で酒を飲み、話に花を咲かせている。
辺境伯領は国境間際にあることもあり、領軍の騎士達の練度が高く治安も良い。しかし隣国がここの所きな臭い為、都市全体がやや緊張感が高まっていた。
「おい聞いたか?”剛腕のゼクス”が隣の国の紛争に巻き込まれて怪我しちまったらしいぜ」
「それって本当なのか?あの馬に吹っ飛ばされてピンピンしてるような奴が人間同士の戦いで怪我すんのか?」
「森の浅いとこに難民共が居てな、根こそぎパパノイア草をとっちまってんだよ!せっかく群生地を見つけたってのに、あんな採り方されちゃまた1から探し直しだ!」
難民が増えた事により、市民や冒険者の生活に影響が出てしまっているようだ。不平不満が徐々に溜まり始めている。普段なら潤沢に納品されている薬草類も、徐々に数が少なくなり依頼料がやや上がり始めていた。
キィ…
静かに冒険者ギルドの扉が開かれた。荒くれ者たちでは絶対にしない扉の開け方だ。ギルド内の者が入口に目線を向ける。
そこには小柄な男が1人立っていた。
周りから視線を向けられている事を気にもせず、ゆったりとカウンターに歩いていく。短めに切りそろえられた黒髪に、黒目がちなアーモンド型の目は知的な光を浮かべている。肌はきめ細かく、やや黄味がかっており、この国ではあまり見かけない肌色だった。
エキゾチックな雰囲気に自然と目を向けてしまう。受付に向けて笑みを浮かべた瞬間、可愛らしい愛嬌が溢れた。ぷっくりとした唇から鈴がなるような高めのハスキーな声が紡ぎ出される。
受付との会話を皆が耳を済ませる中、どうやらその男は納品とギルドカードの発行を行うようだ。
◇◇◇◇◇◇
ギルドの受付嬢であるミルトは内心興奮していた。
(なんてスマートな人なの!!!!!!)
旅慣れた雰囲気にやや衣服は草臥れているものの清潔感は失われず、周りのガサツな男どものような男臭い匂いがしない。むしろ爽やかな清潔な香りがする。これはサボンの実できちんと衣類を手入れしていると見た。
この国では滅多にお目にかかれない変わった風貌。黄龍帝国周辺の民族なのだろう。ギルドカード発行証の書類上は、隣国寄りの黄昏の森の中の集落出身と書かれているので、移民村か奴隷から逃れた者の集落なのだろう。隣国ではまだ奴隷制度が残っている。
柔和な微笑みに洗練された言葉遣い。言葉の端から滲む知性。外套の袖から除く腕は細いながらも筋肉がついているのが見て取れ、猫科の魔物のようなしなやかさが伺える。
ミルトは賢そうな男がタイプだった。ギルドの受付嬢となったのも、一重に冒険者の魔法使い達や依頼に訪れる貴族たちの従者達と繋がりを持つためである。
ガチガチ物理系アタッカーの脳みそ筋肉はお呼びではなかった。
紡ぎ出されるハスキーな声に、そこはかとなく色気が滲んでいる。好みドンピシャだ。これは何としてもお近付きにならねば!
次からも利用してもらうには、自分が有能かつ仕事が早い事をアピールせねばならない。自分に鑑定のスキルがないことが惜しい。男から受け取った薬草類を、鑑定係がいる奥の部屋にダッシュで持ち運んだ。
ミルト・オルベンスキー(19)、バリバリの身体強化スキル持ちだった。
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