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0001 テンプレから斜め下に
しおりを挟む食料品を買いぼんやりと道を歩いていたら足元に異様な光りが現れ、しっかりと目視すれば、それは魔法陣と呼ばれそうな物だった。
一瞬の内に趣味の“なろう文豪”やら“アルファメトロ”などからの無料小説達が頭に浮かぶ。召喚魔法かな、これは。
いやいや、中二病じゃないんだからさ。せめて迷惑なテレビ局が一般人に仕掛けたドッキリ辺りに考えようか。
足元から顔を上げれば前方には高校生の男女5人が居る。男2人に女が3人、自分は魔法陣の端の方だ。なるほど、巻き込まれたか。
試しに足を動かそうとするも金縛りの様に動かない。そうこうしてる内に魔法陣の光りが強くなり、目が開けて居られなくなった――ガツンッ!! え?頭部に、かなり強い衝撃が……
目を開けたら白い空間。目の前には土下座した幼女。
さらさらな腰まで伸ばされたストレートのプラチナブロンドに小さな体躯、青い瞳はぱっちりで美幼女だ。
「あの……」
「申し訳、ありませんでしたーーっ!! こ、ここここちらの不手際で、寿命がまだある桜花様を死なせてしまいました。つきましては、元の世界では無理なので他の世界での、やり直しを……」
声を掛けたら大袈裟なぐらいに相手の肩がビクリと揺れた。
ニワトリかよ、どもり過ぎだろお嬢さん。いや、女神さま。その後は、言い訳やらが延々と続いていく。
ああ、うん。なんか分かった。今まで読んだ小説達よ、お前さん等のお陰で今の状況がテンプレだと分かる。分かりたく無いけど分かるよ、ありがとう。
「とりあえず責任は取って貰えるんですよね? 知らない世界に、ただ生き返らされて放り出されるのは困ります。あと貴女は……?」
「ぴゃ、ぴゃいっ! もちろんですぅ~…新しい体はイチから作られます。生活に困らない能力も差し上げます。……ハゥッ、申し遅れました。私は貴女方が地球と呼んでいる世界線の創造主の元で見習い女神をしています。一人前ではないので、名前は、まだありません!」
びくびくと怯えながら、こちらを見ている幼女。私は子供を、いや、相手が大人でもだが、敵でも何でも無い他人を甚振る趣味は無いから怯えられるのは困る。
あ、でも向こうの不手際で殺されたのなら、相手を敵認定しても良いのか?――とは言え、謝られてるから敵認定は流石に無しか。
それより、どうせ怯えられるなら美女の方が良い。怯えて涙目で震える美女、そそる……こほん。脱線したな。
「では、貰える能力とは?」
「あ、こちらのゴッドフォンに能力群の表示がされますから桜花様が、ご自分の意思で自由に選んで下さって構いません」
幼女女神が光沢のある布から板の様な物を取り出す。
「それぞれの能力には獲得するのに必要なポイントがあり、持ちポイントで交換できます。因みに持ちポイントとは、今までの桜花様の功績や残り寿命が計算されます。
そのポイント内で自由に能力が選べるんですが、私は見習いなので桜花様のステータスを見る能力がありません。もちろん相談して頂けたら乗れますが……
――因みに、このゴッドフォンを桜花様が持てば、桜花様ご自身のステータスが、本人に見える様に表示されます。また、交換出来ないような余ったポイントは身体や運へ振り分けられます」
……長い。一気に言われたが、説明が長いよ幼女女神。恐るおそると差し出され、幼女女神から渡されたスマホに似たゴッドフォン。いや、スマホよりは画面が大きいから、アイパッド系とかか?
受け取ったそれを、手の中で確認しながら相手を見る。
「……私の、自分のポイントだけで、お詫びとしてのポイントはつかないんですか? 生き返るのは、そちらの不手際を挽回する為ですよね? 殺された事への賠償は付かないと?」
謝れられて、生き返らされるだけで済ますには色々と問題がある。
こちらは相手側のせいで死んでるんだが?
そもそも、不手際の内容も教えられていない。
第一生き返っても嬉しいとは自分は感じないのだ。だって生きると言う事は、楽しい事も嬉しい事も確かにあるが、辛いものだ。悲しいものだ。
全員がそうとは言わないが、自分みたいに、ただただ死なないから生きてるだけって人も居る。
仕事をバリバリして趣味のオタク活動に生きていた二十代。
そんなある日、突然父親が脳梗塞で倒れ、次いで母が心筋梗塞で手術した。
二人とも命は無事だけど誰かの手を借りないと駄目だった。
倒れる前の感覚で動き回る父親には、何度か鍋やら台所の壁を焦がされた。
下手をすれば火事になるからと説得しても、怒鳴る程に怒っても、喧嘩をしても、昔気質、悪く言えば意固地で、子供の言う事なぞ聞く物かと、こちらの話しを全然聞いて貰え無かった。
足は引きずってはいるものの、動けるからと動き回る。
本人は自分が正常だと思っていたみたいだが、端から見るに正常では無い上に判断力さえ弱くなるどころか、無くなっていた。
母上は意識は正常だった。ただ、入院中に体力が落ちた為に、問題が表に出た。
今までの苦労が祟り、体を壊したのだ。
痛む体を動かすのは辛そうで、寝室や居間、台所の移動が精々。それでも、トイレや入浴は自分で出来るから、動きは緩慢でも転ばない様に気を付けるだけ。
だから、食事の準備や掃除は、私や父がする必要があった。
もし父親の体が動けなければ、役所や国に助けて貰えたのに、多少足を引きずるだけで問題なく動けていたから、相談しても何も助けては貰え無かった。
見張らなければ火事になる。古い家は良く燃えるから怖いんだ。
仕方なく仕事を辞めて、そんな両親の監視兼介護を始めた三十代。
空き時間に出来る仕事はバイト位で生活保護を受けさせて貰っていた。
田舎の一軒家だったから家屋や庭の管理も大変だった。
両親が亡くなり自由になった時はアラフォー、結婚出来なかったから未婚のまま、今にいたる。
自分の人生が不幸とは言わないが、幸せとも言えないのは親のせい。
いや、両親のせいじゃないな。親を見捨てられ無かった自分のせいで、人嫌いな自分のせいだ。人嫌いなのに寂しいのは悲しいとか、センチメンタルか。
考え込んでたせいで、幼女女神を、じっと物言わず見詰め続けていたみたいだ。幼女女神はガクガクブルブルと上下左右に大きく震えている。撹拌機でも内蔵しているのだろうか。
何故だ、そんなに私が怖いのか? ……可笑しいな、中二病的な俺の部分は出してないのに。別に態度も言葉遣いも普通なはず……?
そう考えてる間も相手を見ていたら、
「ももっ、も申し訳ありませんでしたーーっ! 直ぐに神様に聞いてきましゅーーっ!!」
え、桃? あ、違ったか。
脱兎の如く、目の前から幼女女神が消えた。
大丈夫なのか、あの女神。まあ、見習いらしいしな…
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