君に10年恋してる

有涼汐

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1巻

1-2

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 たしかにだんだん頭が冷えてくると、今の状況に戸惑いを感じ始めていた。
 逃げ出したい気持ちがないわけではない。
 でも、狭山の言うように「寂しい」と口に出したのは私だ。このまま誰もいない部屋に帰るのは嫌だった。
 それに、お酒のせいで現実感がなかったとはいえ、狭山と二次会を脱け出すことの意味がわかっていなかったわけじゃない。私は彼の優しさを期待したのだ。
 エレベーターの中で横に立つ狭山を見上げる。
 やっぱイケメンだなーなんて再認識していると、私の視線に気づいた狭山が唇を寄せてきた。

「んんっ」

 冷え始めていた頭が、また熱を持つ。

「欲しそうにしてましたからね」

 耳元で色気を含んだ声が響き、私は自分の腰がむずむずと動くのを感じた。
 触れるだけのキスでこんなに反応してしまうのなら、深いキスをされたらどうなってしまうのだろう。


 エレベーターを降りて、部屋に入った瞬間――
 身体を壁に押しつけられて唇をふさがれた。
 猛獣もうじゅうに食べられているような錯覚におちいるほどに、荒々しい口付け。すでになけなしになっていた理性が吹き飛んでいく。
 狭山は左手で私の腕を掴み、右手で私の頬をでた。頬をでていた手はやがて後頭部に回る。
 髪につけていたコサージュが揺れて、落ちた。

「んぁ」

 狭山の肉厚で熱い舌が口腔こうこうへと侵入してくる。思わず逃げようとした私の舌は彼の舌にからめとられた。
 舌の付け根をしごかれ、久しぶりの官能に身体が勝手にうずく。

「んっ、あ、はぁ……」
「……ほら、舌をもっと出しなさい」
「んぁ、っ」

 思わず言われた通りに舌を突き出せば、狭山はいい子だというように目を細めながら私の舌を吸った。
 口を閉じることができず、えきが下へとしたたり落ちていく。
 口付けが、こんなに気持ちがいいなんて知らなかった。
 私は狭山の腕に自分の腕をからめてすがった。

「さ、やまぁ」

 知らずに甘い声が漏れる。
 身体が熱くて逆上のぼせそうだ。

「んっ、なんですか? もっと欲しいんでしょう」

 狭山はひどく楽しそうな声で言う。
 私は目に涙をめながら彼をにらんだ。
 私がどうしたいのかわかってるくせに、気づいてるくせに!
 早く狭山の素肌に触れたかった。
 なのに彼からは動いてくれない、キスばかり執拗しつようにしてくる。
 狭山のキスは気持ちがいい。嫌なんかじゃない。嫌なんかじゃないけど、これじゃあ物足りないよ……

「ほら、お強請ねだりはちゃんと言葉にしないとわかりませんよ」

 狭山は楽しそうに笑う。

「……っ、意地悪」

 何よ……、こいつ意地悪だ。私から言わないと絶対にしてくれない気がする。
 一瞬のしゅんじゅん
 けれど、傷つけられからっぽになった心に、身体に、熱が欲しかった。
 身体だけでも誰かに必要とされたい。一人ではないと教えてほしい。
 そうでないと、全てが散り散りになって弾けて、消えてしまいそうだ。
 あぁ、なんで私はこんなに弱くてずるくて卑怯者ひきょうものなんだろう。狭山を利用して寂しさを埋めようなんて……
 心の隅にある罪悪感。
 後ろめたくて、目を閉じる。でもすぐにもう一度、視線を彼に向けた。
 狭山は何を考えているのか、優しそうな笑みを浮かべて私を見ている。
 先ほどまでの意地悪な笑みのほうがまだ耐えられた。
 こんなふうに、大事なものを見るように見られたら、狭山にすがってもいいんだと許された気になってしまう。
 私は狭山の首に両腕を回して抱きついた。

「が、まん、できないから……お願い……!」

 かすれる声で狭山の耳元にささやきながら、身体を彼にこすりつける。

「まぁ、今日はそれでいいでしょう」

 何か足りなかったのか、彼は少し不満そうだった。
 けれど、今の私にはこれが限界だ。
 私の臀部でんぶたくましい腕が回り、足が浮いた。
 狭山は子どもを抱っこするように、私を軽々と抱きかかえる。
 私は、標準体重より少し重めなのに。
 自分の両腕を狭山の首に、両足を腰に巻きつけると、履いていたピンクのパンプスが足から落ちてカツンと音を立てた。


 狭山は私をベッドに運ぶ。移動しながらも、ちゅっちゅっと音を立てて頬や唇に口付けをした。
 キスしづらくないのかなと思うけれど、私だってやめるつもりはない。
 こんな心を揺さぶられる口付けを人生で何回体験できるだろうか。もしかしたらこれが最後の可能性だってある。
 それならば、少しでも長くこの甘い口付けを受けていたい。
 とろけるそれを酸欠になりかけるほど何度も繰り返した。
 狭山は口付けに夢中になっていて、なかなか前に進まない。
 時間をかけて私たちはダブルベッドにたどりついた。
 狭山は名残惜なごりおしそうに唇を離しながら、そっと私をベッドに座らせた。そして自分はスーツのジャケットを脱ぐ。

「……っ、ふぁ」

 解放された唇から吐息が漏れる。

「まったく、そんな顔をして」

 そんな顔ってどんな顔なのか、私にはわからない。
 狭山の目に情欲が宿っている。
 まるで彼から本当に愛されているように感じて、涙が出そうになった。
 もちろんそれは私の思い込み。どうしようもなく自分勝手な勘違いだ。
 きっと狭山は弱っている人をほうっておけないだけ。高校の時に泣いている私を無視できなくて声をかけたみたいに、今回も声をかけてくれた。
 それでも今こうして、愛しげに頭をでる腕や、ついばむように首筋を舐める舌は現実のものだ。
 私は狭山のぬくもりにすがった。
 狭山は息だけで笑い、上半身をかがめて〝すん〟と私の首筋のにおいをぐ。そして、あごから首筋を往復するように何度もざらついた舌で舐めた。

「んっ、いや」

 くすぐったくて、思わず彼の身体を軽く押し返す。

「余裕ですね」

 狭山はそうつぶやいて、もう何度目になるかわからないキスをした。

「そんな、ことっ、んんっ……ないよ」

 私が答えると、狭山は慣れた手つきで私のワンピースのファスナーを下ろす。
 熱くなった身体が外気に触れ、ひんやりとして気持ちがいい。
 その隙間から、狭山の手が入りこんできた。私は小さな声を上げる。
 ブラのホックを外して、狭山は首筋から鎖骨、胸元へ舌を這わせた。
 ぬるぬるとした舌が私の全てを知り尽くそうとするように丹念たんねんに舐めていく。
 ワンピースの袖から腕を抜かれて、上半身裸にされた。性急に身体を押し倒される。
 ほてった身体には、冷たいシーツが気持ちいい。
 狭山は私におおいかぶさりながら、すくうように胸に触れた。それだけで私の口から甘ったるい声が漏れる。

「はぁ、んっ」
みがいのある胸ですね」

 狭山が目を細めて言う。その嬉しそうな顔から私は目をらした。

「うるっ……、さい……」

 胸が大きいのはコンプレックスだ。そんなこと言われても嬉しくなかった。
 胸が大きいことでどれほど恥ずかしい思いをしたことか。
 服だって袖や肩幅はちょうどいいのに胸だけ入らなかったり、ボタンが弾けて飛んでしまったり。
 ねる私を見て、ますます狭山は楽しそうだ。
 彼から視線を外したお仕置きだとでもいうように胸のいただきあまみされる。
 私はいっそう高い声を上げた。

「ひぃっ! ひゃ、い、きなりぃ」

 あまみされたいただきが、今度は舌先でねぶられた。わざと音を立てているのか、胸を吸う音がやけに大きく響く。

「はぁ、あぁっ……」

 狭山は乳輪をなぞるように舐めてから、緩急をつけていただきなぶり、またあまみした。もう片方の胸も、指の腹でこりこりとねられる。
 胸をいじられただけで達しそうになるぐらい快楽を感じ、腰がびくびくと動いた。
 最後に胸を押し潰すように舐めてから、狭山の唇が離れた。
 私の胸は彼のえきでぬるぬるになっている。
 そこに突然息を吹きかけられた。ひんやりした快感に「ひん」と声を出してしまう。
 両胸のいただきを指の腹でぐりぐりといじりながら、再び胸の間に狭山が顔を埋めた。そして胸の周りに口付けを落とす。
 時折ピリっとした痛みがあるが、それすら快楽に変わる。
 あえぎ声を上げながら、私は狭山がくれる快楽を受け取った。
 あまりに強い快感になぜか恐怖を感じる。

「も、いやぁ……! ひぁあ」

 逃げようとして身体をずらしかけるが、狭山が全身でかりはばんだ。
 痛くはないが、少し重い。
 彼の重さを心地良いと感じている。それが妙に悔しかった。
 その間も狭山は胸をいじり続けている。さらに首筋やあごにちゅっと口付け、唇の角度を変えながらついばむ。

「いや、じゃないでしょ。ほら、ちゃんといいって言いなさい」
「んぁあ、やぁ」

 悦楽におぼれる自分が情けなくて、いやいやと首を横に振った。
 今までこんなふうに感じたことはない。
 身体がどんどん狭山に作り変えられていっている気がして怖い。 
 まだ胸しかいじられていないのに、全身が溶けきっているようだ。

「まったく、しかたのない人ですね」

 私が翻弄ほんろうされているのが楽しいらしく、狭山は耳元でそうささやくとを舌でなぶった。生温かい舌が耳の穴をゆっくり行き来する感覚に身体が震えた。

「ひぃ、や、耳いやぁ」
「耳が弱いんですね。あぁ、耳もでしたね。貴女の身体はどこも敏感ですから」

 そう言って狭山はこうこつとした表情を浮かべた。
 私はふと、狭山がまだシャツを着たままだということに気づいた。
 彼の胸をぐっと両手で押すと、狭山は身体を起こす。
 そして「どうした?」という顔をしながら緩く首をかたむけた。
 それが心を許した恋人に見せる仕草みたいに感じて、私の心は温かくなる。たったそれだけで私の心の隙間が埋まっていくような気がした。
 そっと狭山のシャツに触れて、ボタンを一つ一つ外していく。
 するとごつごつした指が私のあごをとらえて、キスをしてきた。

「んー……」
「ほら、はやく脱がせてください」

 私がボタンに手をかけると、狭山はまたキスをしかけてくる。
 そのたびに私の手は止まってしまった。

「うご、んんっ、か、ないで」

 邪魔をしているのは狭山なのに、彼はにやにやと笑いながら「はやく」と再び私をかす。
 手伝ってくれてもいいのにと軽くにらんだら、さらに深いキスをされた。
 舌先が触れ合い、じゅるっとみだらな音が響く。口蓋こうがいや頬裏を丹念たんねんに舐められて、また脳がとろけてしまいそうだと思った。
 酸欠になりながらもなんとかボタンを全て外し終える。
 目の前に現れた胸板にそっと触れた。思っていた通りの綺麗な筋肉がついたたくましい身体。
 細すぎるわけでも、筋肉がつきすぎているわけでもない。ギリシア彫刻のような体躯たいくに胸がときめく。

「どうしました?」

 まじまじと見ている私をいぶかしく思ったのか、狭山が不思議そうに聞いてくる。
 私は黙って胸板に口付けした。

「ん、ちゅ」

 何度もキスをしながら、シャツを羽織はおったままの狭山から服をはぎとった。
 現れた裸の上半身を抱き締め素肌と素肌をくっつけながら、浮き彫りになった鎖骨に舌を這わせる。

「はぁ……今度は、貴女が楽しませてくれるんですかね」

 小さな吐息と笑い声が頭上から降ってきた。
 彼の声にこたえるように鎖骨から胸、そしてへそへ舌を這わせる。私は次第に大胆になり、あとをつけるように強く吸った。
 狭山はその行為を止めようとはせずに、私の頭をでる。
 あとをつけても怒らないということは、今彼に特定の相手はいないのかもしれない。もし彼女や、そういう関係の人がいればあとはつけさせないだろう。
 まぁ、狭山のような真面目そうなタイプが浮気をするなんてありえないと思っているけれど……
 酔っているからといって、私だって相手がいる人にすがったりしたくない。

「上手ですね。いいですよ」

 狭山の声がかすれていて、彼も感じていることがよくわかった。
 私も乱されたのだから、狭山ももっと乱れればいい。もっと感じて、私のことしか考えられないぐらいになればいいのに。
 ただ舐めているだけで、自分の奥から蜜があふれてきているのを感じた。 
 そっと狭山のそれを見つめると、脱がなくてもわかるぐらいに大きくなっている。そこに手を添えてでた。
 狭山が私に欲情していると思うと喜びが湧き上がり、背中をぞわぞわとした快感が駆ける。

「まだ、ですよ」

 早く欲しいって訴えたのに、狭山は私の手を掴んだ。
 そして形勢逆転というふうに私をシーツの上に押し倒して、おおいかぶさる。
 狭山のきっちり整った髪が崩れ始めていて、なまめかしい。
 狭山の手が私の太ももをなぞった。大きい手の感触が熱くて気持ちいい。

「はぁ……」

 ただでられただけで息が上がってしまう。
 狭山を見上げると、彼は私から視線を外さず舌舐めずりをした。
 無意識であろう狭山の仕草に色気を感じ、私の息が止まる。
 その隙に狭山は私のワンピースを完全に脱がし、さらにストッキングを脱がした。
 下着の上から秘所をでられ、我慢しきれず声がこぼれる。

「ひぃああ」
「あぁ、もうこんなに濡れてますね。すごい音がしますよ」

 ゆっくりと念入りにそこをこすられて、らされる。
 すでに下着はぐっしょりと濡れていて、狭山がでるたびにぐちゅぐちゅと音がした。
 気持ち良さと、もっと欲しいという欲望で腰が動く。我慢できない。

「んぁ、はぁ、ああ」

 自分でもおかしいと思うくらい感じていた。
 元彼としてた時に、こんなに濡れたこともこんなに快楽におぼれたこともなかった。頭がおかしくなりそうなほど気持ちいいと感じたこともない。
 突然下着がずらされ、ぬぷっと指を挿入された。
 意識を他にやっていた私は驚いて、嬌声きょうせいを上げる。

「あぁあああ」
「軽くイキましたね」

 狭山は笑いながら言った。そして、中を確かめるように指を動かす。

「ひ、んんぁ。あっ、あぁあ」

 男らしい指で膣壁をぐにぐにとこすられると、身体の奥が甘くうずく。
 イッてしまったばかりだというのに、息を整える暇もない。さらに強い刺激を与えられ、翻弄ほんろうされ始めた。
 ぞわぞわと背中に甘いしびれが駆け上がり、私は逆上のぼせた頭を何度も振る。それなのに狭山の行為はただただ激しさを増す。

「俺と居るのに、他の男のことを考えていませんでしたか? お仕置きですよ」

 そう言って狭山は、一本だった指を二本に増やし媚肉を広げた。私の奥からとろとろになった蜜があふれ出てくる。

「ひぅっ、も、やぁっ、激し……っ」
「これぐらい、激しいうちに入りませんよ」

 狭山は色気を含んだ笑みを浮かべる。
 これが激しくないのなら、彼にとっての激しい行為とはどういうものなのか。
 息も絶え絶えに、私はただひたすら愛撫を受けた。
 狭山は指を動かしながら、もう片方の手で充血した花芯を軽く押し潰す。
 身体がびくりと動いて、頭が真っ白になりそうな快感が襲う。 
 狭山の愛撫はとどまることを知らない。
 私は足先でシーツをいて、り上がってくる甘いうずきから逃れようとした。

「んあぁあ、あっ、だ、め、今だめぇ」
「嘘つきですね。気持ちが良くてとろけそうな目をしているくせに」

〝そんなことない〟と訴えるように両手で自分の顔をおおう。けれど、優しく膣壁をこすられているだけで頭が焼き切れそうだ。

「んんっ、ふぁあ」

 声をこらえようと下唇をむが、それでもあえぎ声は漏れていくばかり。

「一度、イキましょうか」
「えぇ?」

 狭山がいったい何を言っているのかわからなくて、自分の顔をおおっていた手を外した。目に映った彼は楽しそうに笑っている。
 その笑みの意味を理解した時には、花芯をぐりぐりと押し潰されていた。思わず逃げようとしたが、さらに激しく指を動かされて、腰に力が入らない。

「貴女は優しくするより、少し強いぐらいのほうが感じるようですね。愛撫のしがいがありますよ」

 彼は、強請ねだるようにふくらんだ花芯をぐりぐり押し潰し、指で摘まんで何度もしごく。
 私は頭を振りながら、柔らかいシーツをぎゅうっと握り締めた。

「ひっ、や、あぁ、あぁあああっ」

 背中を弓なりに反らし、一際高い嬌声きょうせいを上げて達する。頭が真っ白になって、身体はぐったりとベッドに沈んだ。
 荒い息を繰り返しながら、ぼんやりと狭山の顔を見た。

「イッたみたいですね。可愛い声を上げて、そんなに気持ちが良かったんですか?」

 狭山の声は笑っているが、瞳の奥にはいまだ冷めていない欲望がある。
 イッたのは私だけで、彼はまだなんだから当たり前だ。
 私の蜜でどろどろになった指が引き抜かれ、じゅぷっと卑猥ひわいな音がこぼれた。
 狭山は私に見せつけるように、自分の指についた蜜を舐めとる。
 それを見て達したばかりのそこがまたうずき出した。けれど身体は倦怠感けんたいかんで動かない。
 狭山は一度私から離れた。
 今まで感じていた熱さが急に失われて、少し肌寒い。
 視界から外れた場所でガチャッとベルトが床に落ちる音が聞こえる。
 続いて、ガサガサというビニールの音と袋を破く音がした。
 ベッドに戻って来た狭山は、私の両足をかかえ込みながらおおいかぶさってきた。濡れそぼった蜜口に、欲望でたかぶったものを主張するようにゆるゆるとこすりつける。

「はっ、あぁ……っ」
「ひくついていますね。れて欲しいですか?」

 熱い息を吐きながらそんなことを言う狭山を見つめる。
 この状況で、れて欲しくないと言葉にできる女性がどれだけ居るのか。
 どこかには居るかもしれないが、私には無理だ。
 これ以上らさないでほしい。
 とろけたそこに屹立きつりつした熱い肉茎をこすりつけられると、身体のうずきが激しくなる。
 それに、早く狭山に私を感じてほしかった。
 彼はどんな声を出し、どんな顔をするんだろう。
 乱れる狭山の姿が見たい。

「は、やく……! れ、てよ」

 息を短く吐きながら涙目で言葉にすると、彼はとろけるような笑みを浮かべた。


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