僕と私の大決断

藤鬼一

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「どうゆうことですか?」

「蒼井にな、『生徒に何してるんですか!』って言われたよ」

 藤髙先生はそう言って笑っていた。
 女と新井は、ずっとそうめんを食べている。

「藤髙先生、僕はあの後どうなったんですか?教えてください」

「どこまで覚えてるんだ?」

「蒼井さんらしき人が見えて…そこからは…何も」

「そうか。だったら話は早いな。あの後、倒れただろ」

「はい」

「そんでな、話したいこともあったから、俺の家に連れてきた。それだけだ。
 あと、それは蒼井であってるよ。石波の家には連絡済みだ」

 別に家に連絡を入れようが入れまいがどっちでもいい。
 でも、説明をされてもまったくわからない。

「ここはどこですか?」

「俺の家」

 さっぱりわからない。まぁ、聞いてみるしか理解する方法はなさそうだ。

「なんで新井もいるんですか?」

「それはな…」

 僕は息をのんだ。

「秘密だ」

 僕は思わず芸人みたいに転けそうになった。
 緊張して損した気分だ。

「でしたら、そちらの女の人は?」

 女の人はまるで、「私の話するの?」と言いたそうな顔で藤髙先生を見た。

「俺の家に住む…居候だ」

「そうですか」

 それ以上は、今は聞いてはいけない気がして、聞けなかった。何故だろう?

 ひとつ屋根の下に、僕と学校の先生と居候の女と不良の同期と晩餐。
 しかも、4人で一緒にそうめんを食べる。シュール過ぎる絵面だ。

 僕は食べている途中で「帰っていいですか?」と藤髙先生に尋ねた。

「食べきってから帰れよ」

「はい」



「帰ります。失礼しました」

「また、なんかあったら来いよ」

「はい」

「新井!送ってやれ」

「わかりました」と新井の返事が奥から聞こえた。
 2人だけは気まずいだろ。と思いながら藤髙先生には断れず一緒に帰ることになった。

 何故か気まずいのはなんなんだ。

「急に殴ろうとしたりしてごめんな。名前は石波信太朗でいいよな?」と新井から話し出して謝ってきた。
 僕は「いいよ」と応えようとしたが、あえて、黙っていることにした。

 それから3分程度歩いたが、相変わらず、気まずい。

「実はな…俺、藤髙先生に弟子入りしたんだよ」と照れくさそうに新井が言った。
 いったい何を言っとるだコイツは?
 何故かわからないが僕は引いている。

「そうなんだ」

「それでな、信太朗が来るまで稽古つけてもらってたんだ。そしたら藤髙先生が練習相手が来るから一緒にしろって言ったから、言われたままやったんだ。ごめんな」

「そうなんだ。別にいいよ」

「一つ聞いていいか?」

「何を?」

「信太朗とあの蒼井さんって人、どうゆう関係なんだ?」


 またもや初対面でこんなに踏み込んでこれるものなのか?しかも呼び捨てで。
 この質問には困るなぁ。なんと言えばいいのだろう。

「蒼井さんとは…そうゆう関係だよ」

「えっ?…そうゆう関係って…そうゆうことするの?」

 やってしまった。変な誤解を生んでしまった。

「そうゆうことじゃなくてね…なんて言うか…」

「ごめん。変なこと聞いて」

 そうゆうことじゃないのに。こんなフザケタこと、蒼井さんに失礼だ。
 蒼井さんに申し訳ない。なんとかしなければ。

「あのさ…明日もう一回、藤髙先生の家に集まってほしい」

「え?なんで?」

「いいから来てくれ。頼む」

 僕は異常なほどに真剣な目つきで新井の目を見つめた。


「わかった」

「ありがとう。藤髙先生とは連絡取れる?」

「取れるよ」

「だったら、11時に家に居るように言っておいて…もうすぐ家だから、ここでいいよ。ありがとう」

「そうか。じゃあ、また明日で」

「うん」


 それから家に入り、蒼井さんに電話をした。

「もしもし、蒼井さん?」

「石波くん⁉︎大丈夫なの?どこも痛くない?」

「大丈夫だよ。ごめんね、蒼井さん」

「よかった。心配したんだよ」

 蒼井さんの声に少し涙が混じっている気がした。ホントに申し訳ない。
 普通なら僕が蒼井さんに心配させてはいけないのに。

「急で悪いんだけど、明日の11時空いてる?」

「空いてるけど、なんで?」

「じゃあ、空けといて。用事は、明日話から」と僕は押し気味で伝えた。



 本当に大丈夫なのかな?でも…石波くんからの誘いなんて初めて。
 もしかして、デートだったらどうしよう。ドキドキしちゃうな。



 翌朝になり、蒼井さんの家を訪ねた。 
 家のチャイムを鳴らせば、「はーい」とあの声が聞こえた。
 扉が開き、蒼井さんの妹が出てきた。

「おはようございます」

「おはようございます」

 向こうから挨拶をしてきた。意外としっかりとした挨拶だ。

「あの、蒼井さんは?」

「出かけました」

「えっ?」


 蒼井さんへの伝え方が悪かった。
 多分だが、11時だけ空けとけばいいと思ったんだろう。やってしまった。

「こら!ちゃんと私は居ます。ウソをつかないの」

 蒼井さんだ。よかった。

「ごめんなさ~い。お姉ちゃん」

「まったく…ごめんね、石波くん」

「ごめんなさい」

「大丈夫だよ」


 蒼井さんと妹に謝られたら、許すしかない。
「大丈夫なの?」

「うん。大丈夫だよ」

「よかった」

「じゃあ、行ける?」

「ちょっと待ってね、着替えてくる」

 ………


 「お待たせ」

 僕はドキッとした。綺麗で可愛い…前から思っていたが、ほんとにアイドルみたいだ。

「あ、うん。行こうか」

「うん。どこに行くの?」

「藤髙先生の家」

「え?そうなんだ」



 私は少しガッカリした。
 その反面、少しウキウキしているのはなんで?



 藤髙先生の家に着いた。
 僕はうろ覚えだったから来るのに少し手間取った。
 チャイムはどこだろうか?
 そんなことで悩んでいたら、新井がきた。

「おはよう」

「2人ともおはよう。何してんの?今来たところ?」

「チャイムを探すのに少し手間取ったんだ」

「チャイム?」

「あー、インターホンのこと」

「あ~。それ、この家にないよ」

「え?そうなの?」

「うん。だからこう呼ぶんだ。ごめんくださ~い!新井で~す!」

 僕は驚いた。今の時代に、なんて原始的な。
 そして新井も必要以上に声がデカい。
 そんなに出さなくてもいいだろう。

 返事はなかったが、玄関に向かう足元が中から微かに聞こえた。
 ここら辺は人通りも、車通りも少ないからずいぶん静かだ。
 そのせいでよく聞こえる。

 扉が開いたら、居候の女の人が出てきた。
 昨日は気づかなかったが、よく見ればかなりの美人だ。
 僕はこんな人を前にして叫んでしまったのか。恥ずかしい。

「どうぞ」

 そう言われ入ると、昨日そうめんを食べた部屋に通された。

「少し待っていてください。呼んできますね」

 そう言われて、約10分ぐらいたっただろうか。
 いっこうに藤髙先生は現れない。何をしてるんだ。

 「すまんな。待たせた」

 そう言って藤髙先生が現れた。

「なんだ?話って?」

「単刀直入に聞きます。なぜ、僕と新井で殴り合いをさしたんですか?」

「それはな…すぐに強くなるためだ。それ以外に何もない」

「訳がわかりません。もし、そのためならやり合わなくていいんじゃないですか?」

「わかってないな。蒼井を護るってことはな、急なんだよ」

 分からない。ホントにわからない。


「すみませんが、もう少し詳しく言ってください」

「だからな、蒼井の身に起こる事件は急だ。
 だから石波も、それに対応できるようにしておくんだ。学校のときのだって、急だっただろ」

 確かにそうだったが、何も練習のときからそうしなくてもいいんじゃないのか?


「練習のときは急じゃなくていいんじゃないですか?」

「だから、それじゃダメなんだって。
 練習と本番は、まるきり違うんだよ。
新井のとき何を感じた?あれはあくまでも練習だ、本番はあのときよりもっと厳しい。
 だから、練習から厳しくするんだよ」


 一理あるが、何故か納得がいかない。

「納得いかない顔してるなぁ」と藤髙先生が少し呆れたように言った。

「すみませんがわかりません」

「まぁ、そんときになればわかるさ…他に何かあるか?」


「あと、新井には言ってるんですか?」
「何を?」

「僕と蒼井さんの関係です」

「言ってない。それは、石波と蒼井で決めろ」

「蒼井さん、どうしますか?」

「言わなくてもいいんじゃないかな」

 僕が振ったことで今までずっと黙っていた蒼井さんが話した。


「え、どんな関係なの?教えてよ。信太朗」

「何もないよ」

「教えてくれたっていいじゃんか。ケチ」

「人を殴っといて、その言い方はないんじゃない?」

 蒼井さんが噛みついた。
 蒼井さんの声には嫌悪と少しだけ怒りが混じっている気がした。

「あ?何者だよ」

 よくない雰囲気だ。

「私は石波くんの…彼女です」

 蒼井さんの口からそんなことが飛び出てくるなんて。ビックリだ。

「マジで?」と藤髙先生と新井が同時に言った。
 何故、新井がそう言うんだ。聞いておいて。
 僕も言いそうになったが、やめておいた。

「聞いてないぞ。そんなこと」

 そこから皆んな黙っていたが、藤髙先生が切り出した。

「一旦、そちらの新井とか言う人には席を外して欲しいです」

「新井。すまないが席を外してくれ」と藤髙先生が促した。
 新井は不服そうな顔をして出ていった。

 新井が出たところで…あまり場の空気は変わらなかった。

「出したが。どうしたんだ?」と藤髙先生が言った。
 蒼井さんは少し間隔を空け、こう言った。

「私達は…違います。付き合ってません」

「だよな。よかった…何がよかったのか分からんが」

 僕はずっと黙っている。

「はい。ところであの新井とかって人は、なんですか?」と蒼井さんが藤髙先生に訊いた。

「あれは弟子だ」

 蒼井さんも僕と一緒で混乱している。

「話は終わりだな。昼飯、食ってから帰れよ」

 強引に話を断たれた感じだ。

 少し異様な空気で食事を済ました。

「ご馳走様でした。では、失礼します」

「気をつけてな。しっかり送れよ。石波」

「はい」

「新井は少し残れ」

 新井はその一言を聞いて、返事のせずに藤髙先生の家の中へ消えた。


 僕は蒼井さんを送る途中に、昨日の出来事を全部話した。
 蒼井さんはかなり驚いていたが理解したようだった。
 蒼井さんの家に着いた。

「じゃあね。蒼井さん」

「うん。気をつけてね」


 あれから2週間ぐらい経ったが、特に何もなく過ごした。

「信太朗ー電話よー」

 下から母さんの呼び声が聞こえた。僕に向けての電話なんて久しぶりだ。

「誰~?」

「蒼井さんって人よー」


 僕は急いで母さんから受話器を受け取った。
 蒼井さんからの電話は予想していなかった。

「もしもし蒼井さん。どうしたの?」

「家に来て欲しいの」

「え?」

「今すぐ私の家に来て。早く」

「わかった」

 電話が急にきれた。
 僕はすぐさま家を出た。
 蒼井さんの声からは、恐怖の色が滲み出ている気がした。
 母さんが何か僕に聞いていたが耳に入ってこなかった。


 あのことから数週間経ってママと病院へ行けば、1番怖かったことを告げられた。

「実に悲しいですが、蒼井爽さんの寿命がもうすぐ尽きてしまいます」

 お医者さんからの、この言葉で、私の頭の中は真っ白になり、次第に恐怖が襲ってきた。怖い。

「よくて…あとどれくらいなんでしょうか?」とママが衝撃を受けた顔で言った。

「よくて…1ヶ月です」とお医者さんが深刻な表情で言った。

 ママと私は死んだような顔をしてしまった。

 それから待合室で薬の処方を待っている間、私は不安だった。
 私はとっさに石波くんの家に電話をしてしまった。
 そして、石波くんに不確定なことを言ってしまった。

「家に来てほしい」と。


 蒼井さんの家に着き、チャイムを押した。
 返事がない。どうしたんだろう。
 もしかして、ドラマとかでよく観る、扉はもう開いている感じなのか?
 開いていたら、だいたいは死んでいるぞ。

 僕は緊張してドアノブに手を掛けた。
脈が早くなっていく。
 開けたくない。
 でも、開けなければいけない。
 蒼井さんを護ると決めたんだから。

 "僕がやるしかない"

 ドアノブを捻り軽く押せば…開いている。最悪の展開だ。
 僕は急いで中に入り、蒼井さんの部屋の扉を開けた。
 蒼井さんがいない。
 そういえば家族もいない。どうしよう。心臓の音だけが耳に響く。


「石波君!」

 後ろから声が聞こえ、振り向くと…蒼井さんがいた。

「よかった。死んでなくて」

「え?」

 僕の心の声が漏れてしまった。
 蒼井さんは、泣きそうな目をして微笑んでくれた。
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