私の使い魔がたわしだった件

雷庵

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五話 よう、朝ご飯食おうぜ

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「物は試しにとたわしの前で着替えてみたものの、本当に体とか興味ないのね」

 朝日の光がカーテンからこぼれる室内で、アリスはパジャマから制服へと着替えていた。たわしと同室で過ごす以上、たわしが裸体や下着といったものに興味を示すかどうかを調べるつもりで着替えていたのだが、たわしは本当にどうでもよさそうにあくびをしたり、二度寝したりしていた。

「おいおい、俺をなんだと思ってる? たわしだぞ……人間ならサービスシーンってやつかもしれないがな」

「ふーん……ならたわしって好きなタイプとかあるの?

「あるぞ? 俺はスポンジが好きでな……あのふかふかのへちまスポンジは最高だな」

 制服に着替え終えたアリスは疑問を覚えた。

(ふかふか? へちまのスポンジが? まぁいいか、たわしの好みのタイプなんてどうでも)

「ふーん、まぁいいわ、朝ごはん食べて学校いこ。今日から使い魔を連れて行かないとダメなの」

「オッケーだ、俺もその学校とやらに興味があったんだ。昔世話した奴らがいればいいがな」

 というと、たわしは脅威のジャンプ力でベッドからアリスの肩へと飛び移る。不思議なことに着地時に衝撃は一切なかった。しかしアリスはそんな事まったく気にすることもなかった。そもそもたわしの質量なのだから仕方のない事ではある。
 二人が部屋を出て居間へと向かう。居間からは良い匂いがただよっており、アリスの表情が少しやわらかくなる。

「お、今日はスクランブルエッグじゃーん、やったー」

「よく焼いてる卵のにおいだけでそこまでわかるな……」

「大好きなんだもーん」

 珍しくたわしの眉間にしわが寄った。そんなやり取りをしているうちにアリスは居間の扉を開く。すでにテーブルにはトランプが座っており、キャロットは両手に皿を持ちテーブルとコンロを往復していた。テーブルの上にはトースト、野菜のスープ、サラダ、スクランブルエッグとハムを焼いたものが並んでいた。

「おはよー、ママ、パパ。あれ、今日ちょっと朝食豪華じゃない? こんなに種類があるなんてめずらしー」
 
 アリスはパタパタと小走りし椅子に座る。キャロットは笑顔で

「おはようアリス、そうでしょうそうでしょう! あなたが使い魔を召喚した記念と、新しい家族のたわし様がきた記念みたいなものよ」

「おはようアリス、パパも毎日こういう感じで朝食が出てくるようにお仕事がんばってこなきゃいけないね」

 キャロットは苦笑いしながらトランプに視線を送る。好物ばかりの朝食にアリスの耳にはそんな言葉など入ってなくて

「いっただっきまーす! もぐもぐ……うーん、なんでこんなにスクランブルエッグとトーストってあうのぉ……」

 キャロットとトランプはアリスに視線を送り微笑んでいる。子供がおいしそうにご飯を食べてくれる、ただそんな事だけでも親としてみればうれしいのだろう。さて、たわしはというと……

「さて、俺の分のパンはどこかな? アリスの少しもらえばいいのかい?」

「あげないわよ!」

 即答で断られたたわしは目を見開いた、こんなケチな娘を始めてみたと。おいおい、そりゃないだろ? と、突っ込みをいれようと考えていたのだがあまりの即答具合に頭が真っ白になり果てた。数秒の時間だったのだがたわしは数分時間が止まったかのように感じられた、そしてたわしの中に現れた感情は……怒り。

「うっせぇ! 一口くらいよこせぇぇぇ! 魂の友だぞ!? 心の片割れだぞ!?」

 たわしは怒りに身を任せ皿の上にある残りの一枚のトーストにとびかかった。アリスはさせるか! とたわしを叩き潰そうとする。しかし悲しいかな、たわしとはいえ紛いなりにも相手は精霊……アリスのこぶしはテーブルをたたき、哀れアリスのトーストはたわしに食いつかれてしまった。

「もぐもぐ……ゴクン。たわし、あんたちょっと後で話をしましょうか、あたしの大好物とるとかなんなの」

「うっせぇ、俺はお前、お前は俺! アリスちゃんの大好物は俺も同じように好きなんだよ! 一枚くらいけちけちすんじゃねぇ!」

 たわしとアリスの口論がはじまると、キャロットとトランプはほほえましくそれを眺めていた。一人っ子だったアリスに兄弟がいたらこんな感じなのだろうか? そんなことを心中に抱きながら。しかし口論のボルテージがヒートアップを極めようとしており、キャロットはハッとして自分の分を二人に差し出す。

「たわし様ご飯たべるのね、その姿だからてっきり食べないかと…ごめんなさいね。私の分を二人で食べて。私の分はまた焼くから。でもなんだかあんたたち、仲のいい姉弟みたいで見てて楽しいわ」

 そのセリフを聞いた二人は目を丸くする。そして二人は目を合わせるとフフ、ハハと小さく声を出して笑い始める。そして家族4人の笑い声に満ちた居間となった、のだが……

「トーストの恨みは忘れないからね、たわし……後で覚えてなさい」

 アリスは小さな声でつぶやいた。
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