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第二章:視点はおそらく李千里

幕間:オオカミの思考

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 オオカミ使いがリビングを襲撃してから数分後。

 ここは無月島にあるどこかの部屋の一室。

 周りには私――オオカミ以外の気配は一切なく、時間が止まっているかのような静けさだけが部屋の中を満たしている。電気も消えていて真っ暗なため、よりその静けさが強調されているように感じられる。

 それでもなお、一切の気を抜くことなく、じっと息を殺しその場から微動だにしないで様子を見る。もし誰かがこの場に現れたら、その瞬間に次の一手を打たないといけないのだから。

 今こそが、私に残されている最大の、場合によったら最後の思考タイム。これからの行動を整理しないといけない。


 それにしても、ついに仕掛けてきたか。いや、もう仕掛けてきたというべきか。


 オオカミは思考する。今自分が取るべき最良の手段は何か? 現在私があの人――オオカミ使い――に捕捉されていないことから、まだ私と彼――それとも彼女だろうか?――のどちらが裏切ったのかは分かっていないはずだ。もちろん、どちらが裏切ったか分からなくなるはずだという確証があったからこそ、こうしてあの人を裏切ったわけだが。


 そして、ここからこそが本番。私と彼のどちらが裏切ったのかを判断させないよう、最善の行動をとっていかなければならない。


 次の行動をどうするべきか。それを考えつつも、私はつい苦笑してしまう。今の私の悩みは、ただのヒツジである人達からしたら全く理解不能なことだろう。何せ彼らはこのゲームにもう一人、ヒツジに紛れたあの人の仲間が紛れ込んでいることなんて考えもしていないだろうから。オオカミでもヒツジでもない、第三の立場の人物。私自身もいること自体はすでに知らされているが、誰かまでは聞かされていない者。あの人の話が真実なら、彼も私が誰かは知らされていないらしいが。

 なんにしろ、ヒツジの皆は全く想定していないはずの者。まあ人によっては疑心暗鬼に陥り、自分以外の全員があの人の仲間であるなどと考えているかもしれない。馬鹿みたいな話だが、それも全く的外れというわけでもないし、実は一番真実に近い所にいるとさえいえるかもしれない。それに、全く想定していないだろうなどと言ったが、気づいている人だっているかも……。

 おっと、ヒツジに関して考えていないで、今はこれからの行動を考えなければいけない。ここで打つ手を間違えると、あっさりと捕まって私の計画も潰えてしまう。

 どうせ私の居場所はあの人に筒抜けのはず。何らかのサインを送り、接触を試みるか。それとも、事態が収束するまでしばらく動かずに様子を見るか。


 彼――もう一人の協力者がどう動くのか。それが一番の問題だ。


 今のところ彼と私では、悔しいことに彼の方が一歩リードしている。私が用意した四人・・の協力者。そのうちの一人が、彼の手によって別人へとすり替えられていた。あの人がそんなことをする必要性はないから、おそらく彼がやったことで間違いない。それに、どうやら彼もあの人に秘密で数人協力者を紛れ込ませているようだ。彼が何の目的で協力者を連れてきたのかは分からないが、何にしろ私にとっては邪魔な存在だ。あの人の目的を知っているという点で、この計画を完全に成し遂げるための障害となる。途中まではあの人を撹乱させるために生き残っていてもらわないと困るが、その後は……。


 要になるのは、藤里の立ち回り。そして、もう一人。彼女・・がいかにあの人に疑われることなく溶け込んでいてくれるか。彼女さえ無事なら、最悪私が捕まっても何とかなる。


 それはそうと、やはり一度接触を試みたほうがいいだろうか。もう一人の協力者が一体どんな行動に出ているか分からないが、現状自身の無実を証明できる手はないはず。しかし、一度くらいはあの人に自分の無実を訴えかけているかもしれない。ないとは思うが、彼に自分の無実を証明するための手札があった場合、ここで接触をしておかないとそのまま私が裏切り者だと断定されてしまうかもしれない。


 ……いや、私からの接触は不要だ。


 あの人なら、自分で話を聞きたいと思ったタイミングで勝手にやってくるはず。私から接触を取りに行く必要性はない。となれば、今私がやるべきことは一つだけだ。私はこの先の展開を頭の中で組み立て………思考するのをやめた。


「よし、やるか」


 私は気合を入れるように小さくそう呟いた。
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