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雷鳴轟く四日目
外は嵐
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「皆さんにお願いがあるのです! コインが全部なくなってしまって、スロットができなくなってしまったのです! ですからどうか、一枚ずつでいいのでコインをお貸しいただけないでしょうか!」
「……本当に、全く空気を読まないのね、あなた」
いつから明たちの状況を窺っていたのか。さも今用事ができたと言った様子で堂々たる土下座を見せつけながら佐久間が言う。
架城からは冷たい視線が降り注ぐが、土下座中の佐久間の後頭部はそれをあっさりと反射する。
架城に対しずっと冷たい視線を投げかけていた神楽耶も、佐久間の圧倒的場違い感に感化され、苦笑いを浮かべて口を開いた。
「コインだったら私たちに借りなくても、分配しきれなかった分がたくさん残ってるじゃないですか。コイン集めゲームとしては反則ですけど、単にスロットをやりたいだけならあれを使えばいいんじゃないですか」
「い、いえ……。何というかその……、そちらの余剰コイン含めて全て使い切ってしまったので、もう皆さまからお借りする以外に選択肢がないと言いますか……」
「あれだけのコインをこの短時間で全部使い切っただと……」
流石に予想していなかった佐久間の発言に、明は呆れと感嘆を含んだ声を漏らす。
積み上がったケースの量からするに、まるまるスロット一台分のコインが吐き出されていたはず。それをこの一時間足らずで全て還元してしまうとは。
主に呆れと蔑みの視線が降り注ぐ中、佐久間は床に何度も額をこすりつけ、コインの提供を願う。
しばらく黙ったまま四人はその姿を眺めていたが、この時間の無為性にいち早く気づいた架城が、わざとらしく時計へと目を向けた。
「そういえば、もうコイン集め勝負の期限である一時間は経ったわね。そっちの結果もさくっと出しちゃいましょうか。とはいえ私たちの順位はババ抜きの結果と変わらないでしょうし、佐久間が借金こさえて最下位であることも間違いないでしょうから。後はここにいない三人の稼ぎ次第になるけれど……彼らは今どこにいるのかしら?」
少し足を動かし、娯楽室内に鬼道院らがいないか探してみる。
しかしどこにもその姿は見当たらない。
架城は軽く息を吐くと、「棄権、と見做していいのかしらね」と呟いた。
一方ゲームの勝敗になど一切興味のない明は、六道に軽い猜疑の視線を向けた。
「お前はあの三人の居場所を知ってるんじゃないのか。経緯はどうあれここまで付いてきておきながら、教祖や秋華が勝手に娯楽室を出て行くとは思えない。姫宮に何か仕掛けさせたんじゃないのか?」
六道は心外そうに首を振って、これを否定する。
「まさか。僕の考えた策はさっき君に破られたばかりだ。それからここに来るまでの間に、彼女に新たな策を授けるなんてとてもじゃないけど無理だよ」
「元から広間での作戦が失敗した時の代替案を用意していたんじゃないか。ここに来るよう誘導したのだって、考えてみればお前とチームを組んでいる佐久間なわけだしな」
「それは深読みのし過ぎだよ。正直、大広間に閉じ込める作戦は必勝の策だと思ってたんだ。昨日までの三日間、誰も広間に閉じ込められるなんてことを考えていそうな人はいなかったからね。成功しないどころかこちらのスペルまでばれるなんて、予想もしていなかったよ」
「だから代案を用意していなかったと? 何度もここでの殺し合いを見てきた奴が、そんな甘い考えを持っているとは信じられないな。ましてお前のスペルに関しては、いまだ不明のままなんだ」
「なら好きにすればいい。その誤解で困るのは、僕じゃなくて君だからね」
一向に疑いの視線を止めない明に対して、六道は困ったように肩をすくめた。
そこで会話は途切れ、またも険悪な雰囲気が漂い始める。
全員仲良くをスローガンとする佐久間が、「単に三人だけで何か別の遊びでもしているのでしょう」と、何とか雰囲気を改善しようと意見を出す。
その言葉を信じたわけではないが、少なくとも何かが起きていないことを確認しようと、自然彼らの足は廊下へと向かっていった。
娯楽室を出て、廊下に。
扉を閉じて完全に娯楽室との連絡を遮断。常に耳に入り込んできていた音楽が消失し、代わりに死者の奏でる無音が彼らの鼓膜を通り過ぎた。
当然の如く、廊下に鬼道院らの姿はない。
次にどうすればいいのか分からず、しばらく黙って立ち尽くす五人。
そこでまたも、この無意味な時間を架城の声が打ち破る。「もう十分。私は娯楽室で楽しませてもらったから部屋に戻るわね。生き残っている人全員が自殺の決断を下したら、私を呼びに来なさい」と一方的に告げ、悠々と自室へ戻っていった。
続いて六道が、「僕は姫宮さん探しに行きますね」と言って、大広間の方に歩き出し。それに呼応して佐久間も、「では私は秋華さんを探してきます」と言って、別館の方に歩み出した。
残された明と神楽耶は三人が完全に視界から消えた後、お互い顔を見合わせた。
「えと、あの流れからすると私たちは鬼道院さんを探しに行けばいいんでしょうか?」
「別に探しに行く必要はないと思うが……、あの三人が揃って娯楽室から出ていた事実は無視できるものじゃない。ここはすぐ自室に向かわず、どこかで時間を潰した方がいいかもしれないな」
「じゃ、じゃあ宝物室に――」
「温室に行くか。あそこは唯一内開きで閉じ込められる心配もないし、別館と本館を行き来する奴を見張ることもできるからな」
「………………でも、一瞬でいいので宝物室も覗いていきませんか? 姫宮さんか秋華さんがいる可能性も、零ではないと思うので」
精一杯の真剣な表情で神楽耶は明を見つめる。
ここで一切譲歩しないでいたらせっかく築き上げてきた信頼があっさり折れそうな気がして、明は渋々首を縦に振る。ただ、あくまで二人がいないか覗くだけで中には入らないことは約束させた――そうでもしないと絶対に一瞬では終わらない予感がしたから。
そうして二人は、隣にある宝物室に移動。明が布巾でドアノブをくるみながら扉を開け、中を覗き見る。
予想していたことではあるが、中には誰もいなかった。明はすぐさま扉を閉めようとするが、神楽耶がつま先でそれを妨害し、無言でじっと中の宝石に視線を注ぐ。
五分に及ぶ無言の格闘の末、ようやく扉を閉めることに成功。二人は当初の目的通り温室へと移動を始めた。
連絡通路に入ると、ちょうど中間地点を佐久間が歩いているのが見えた。どうやら娯楽室で別れた後、すぐに別館に向かわず温室と地下も捜索していたようだ。
特に佐久間が後ろを振り向く気配もなかったので、声をかけたりせず、黙々と連絡通路を進んでいく。
連絡通路はガラス張り故、外の景色がはっきりと見える。館内にいると外の音などは全く聞こえないため気にかからなかったが、外は雨と風、そして雷が乱舞する嵐の様相を見せていた。
幾度も天が光に満ち溢れ、木々は葉を散らしながらも必死に大地を掴んでいる。
「消えた三人に、嵐の館、か」
ついそんな呟きを漏らしてしまうほど、お誂え向きの状況。これで何事も起きていないなど、そちらの方が考えづらい。
神楽耶も明同様外の景色に目を奪われたのか、歩みを緩めて外を眺めていた。
そうしてゆっくりとした足取りで温室の前に着いた頃には、既に佐久間の姿は連絡通路から消えていた。
やや時間をかけ過ぎたかと思いながら、宝物室同様ドアノブに布巾を巻き付け、扉を押し開く――と、その瞬間。
嵐をも突き抜けるような盛大な悲鳴が、別館から聞こえてきた。
「……本当に、全く空気を読まないのね、あなた」
いつから明たちの状況を窺っていたのか。さも今用事ができたと言った様子で堂々たる土下座を見せつけながら佐久間が言う。
架城からは冷たい視線が降り注ぐが、土下座中の佐久間の後頭部はそれをあっさりと反射する。
架城に対しずっと冷たい視線を投げかけていた神楽耶も、佐久間の圧倒的場違い感に感化され、苦笑いを浮かべて口を開いた。
「コインだったら私たちに借りなくても、分配しきれなかった分がたくさん残ってるじゃないですか。コイン集めゲームとしては反則ですけど、単にスロットをやりたいだけならあれを使えばいいんじゃないですか」
「い、いえ……。何というかその……、そちらの余剰コイン含めて全て使い切ってしまったので、もう皆さまからお借りする以外に選択肢がないと言いますか……」
「あれだけのコインをこの短時間で全部使い切っただと……」
流石に予想していなかった佐久間の発言に、明は呆れと感嘆を含んだ声を漏らす。
積み上がったケースの量からするに、まるまるスロット一台分のコインが吐き出されていたはず。それをこの一時間足らずで全て還元してしまうとは。
主に呆れと蔑みの視線が降り注ぐ中、佐久間は床に何度も額をこすりつけ、コインの提供を願う。
しばらく黙ったまま四人はその姿を眺めていたが、この時間の無為性にいち早く気づいた架城が、わざとらしく時計へと目を向けた。
「そういえば、もうコイン集め勝負の期限である一時間は経ったわね。そっちの結果もさくっと出しちゃいましょうか。とはいえ私たちの順位はババ抜きの結果と変わらないでしょうし、佐久間が借金こさえて最下位であることも間違いないでしょうから。後はここにいない三人の稼ぎ次第になるけれど……彼らは今どこにいるのかしら?」
少し足を動かし、娯楽室内に鬼道院らがいないか探してみる。
しかしどこにもその姿は見当たらない。
架城は軽く息を吐くと、「棄権、と見做していいのかしらね」と呟いた。
一方ゲームの勝敗になど一切興味のない明は、六道に軽い猜疑の視線を向けた。
「お前はあの三人の居場所を知ってるんじゃないのか。経緯はどうあれここまで付いてきておきながら、教祖や秋華が勝手に娯楽室を出て行くとは思えない。姫宮に何か仕掛けさせたんじゃないのか?」
六道は心外そうに首を振って、これを否定する。
「まさか。僕の考えた策はさっき君に破られたばかりだ。それからここに来るまでの間に、彼女に新たな策を授けるなんてとてもじゃないけど無理だよ」
「元から広間での作戦が失敗した時の代替案を用意していたんじゃないか。ここに来るよう誘導したのだって、考えてみればお前とチームを組んでいる佐久間なわけだしな」
「それは深読みのし過ぎだよ。正直、大広間に閉じ込める作戦は必勝の策だと思ってたんだ。昨日までの三日間、誰も広間に閉じ込められるなんてことを考えていそうな人はいなかったからね。成功しないどころかこちらのスペルまでばれるなんて、予想もしていなかったよ」
「だから代案を用意していなかったと? 何度もここでの殺し合いを見てきた奴が、そんな甘い考えを持っているとは信じられないな。ましてお前のスペルに関しては、いまだ不明のままなんだ」
「なら好きにすればいい。その誤解で困るのは、僕じゃなくて君だからね」
一向に疑いの視線を止めない明に対して、六道は困ったように肩をすくめた。
そこで会話は途切れ、またも険悪な雰囲気が漂い始める。
全員仲良くをスローガンとする佐久間が、「単に三人だけで何か別の遊びでもしているのでしょう」と、何とか雰囲気を改善しようと意見を出す。
その言葉を信じたわけではないが、少なくとも何かが起きていないことを確認しようと、自然彼らの足は廊下へと向かっていった。
娯楽室を出て、廊下に。
扉を閉じて完全に娯楽室との連絡を遮断。常に耳に入り込んできていた音楽が消失し、代わりに死者の奏でる無音が彼らの鼓膜を通り過ぎた。
当然の如く、廊下に鬼道院らの姿はない。
次にどうすればいいのか分からず、しばらく黙って立ち尽くす五人。
そこでまたも、この無意味な時間を架城の声が打ち破る。「もう十分。私は娯楽室で楽しませてもらったから部屋に戻るわね。生き残っている人全員が自殺の決断を下したら、私を呼びに来なさい」と一方的に告げ、悠々と自室へ戻っていった。
続いて六道が、「僕は姫宮さん探しに行きますね」と言って、大広間の方に歩き出し。それに呼応して佐久間も、「では私は秋華さんを探してきます」と言って、別館の方に歩み出した。
残された明と神楽耶は三人が完全に視界から消えた後、お互い顔を見合わせた。
「えと、あの流れからすると私たちは鬼道院さんを探しに行けばいいんでしょうか?」
「別に探しに行く必要はないと思うが……、あの三人が揃って娯楽室から出ていた事実は無視できるものじゃない。ここはすぐ自室に向かわず、どこかで時間を潰した方がいいかもしれないな」
「じゃ、じゃあ宝物室に――」
「温室に行くか。あそこは唯一内開きで閉じ込められる心配もないし、別館と本館を行き来する奴を見張ることもできるからな」
「………………でも、一瞬でいいので宝物室も覗いていきませんか? 姫宮さんか秋華さんがいる可能性も、零ではないと思うので」
精一杯の真剣な表情で神楽耶は明を見つめる。
ここで一切譲歩しないでいたらせっかく築き上げてきた信頼があっさり折れそうな気がして、明は渋々首を縦に振る。ただ、あくまで二人がいないか覗くだけで中には入らないことは約束させた――そうでもしないと絶対に一瞬では終わらない予感がしたから。
そうして二人は、隣にある宝物室に移動。明が布巾でドアノブをくるみながら扉を開け、中を覗き見る。
予想していたことではあるが、中には誰もいなかった。明はすぐさま扉を閉めようとするが、神楽耶がつま先でそれを妨害し、無言でじっと中の宝石に視線を注ぐ。
五分に及ぶ無言の格闘の末、ようやく扉を閉めることに成功。二人は当初の目的通り温室へと移動を始めた。
連絡通路に入ると、ちょうど中間地点を佐久間が歩いているのが見えた。どうやら娯楽室で別れた後、すぐに別館に向かわず温室と地下も捜索していたようだ。
特に佐久間が後ろを振り向く気配もなかったので、声をかけたりせず、黙々と連絡通路を進んでいく。
連絡通路はガラス張り故、外の景色がはっきりと見える。館内にいると外の音などは全く聞こえないため気にかからなかったが、外は雨と風、そして雷が乱舞する嵐の様相を見せていた。
幾度も天が光に満ち溢れ、木々は葉を散らしながらも必死に大地を掴んでいる。
「消えた三人に、嵐の館、か」
ついそんな呟きを漏らしてしまうほど、お誂え向きの状況。これで何事も起きていないなど、そちらの方が考えづらい。
神楽耶も明同様外の景色に目を奪われたのか、歩みを緩めて外を眺めていた。
そうしてゆっくりとした足取りで温室の前に着いた頃には、既に佐久間の姿は連絡通路から消えていた。
やや時間をかけ過ぎたかと思いながら、宝物室同様ドアノブに布巾を巻き付け、扉を押し開く――と、その瞬間。
嵐をも突き抜けるような盛大な悲鳴が、別館から聞こえてきた。
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