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雷鳴轟く四日目
ふらふらと彷徨って
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こちらの返事を一切聞かず、佐久間は準備に取り掛かるため厨房へと走っていった。
佐久間の出現により毒気を抜かれたのか、架城は一旦矛を収め、一人部屋の隅に移動した。
架城が来る前に舌戦を繰り広げていた東郷と六道も、言い合いを再開する気はない様子。お互いにやや距離を取り沈黙した。当然姫宮は六道の隣に寄り添い、神楽耶は東郷の背後に控える。
思考停止状態に陥っていた鬼道院は、気づけば一人取り残されていた。広間の静けさが、言葉の奔流で溢れていた脳を修復してくれる。徐々に思考を取り戻したところで、はて、自分はどこに立っていればいいかと早速疑問に直面した。
鬼道院自身の思いとしては、いまだ架城や秋華と同様に単独で動いており、チームを組んでいるつもりは全くない。しかし成り行き上仕方なかったとはいえ、架城や六道らには東郷と組んでいるように勘違いされてしまったはずだ。
この勘違いを利用して、東郷グループに付いてしまうべきか。それとも誤解を解くためにも、一人部屋の隅に佇むべきか。
数十秒の思考の後、結局鬼道院はこの二つの選択肢をやめ、第三の選択肢を選ぶことにした。
「六道さん。せっかくですのでもう少し、お話しさせてもらっても宜しいでしょうか」
第三の選択肢――『ついさっきまで自身を殺そうとしていた六道チームに身を寄せる』を選んだ鬼道院は、穏やかな声で六道に声をかけた。
まさか鬼道院がここで自分たちに近づいてくるとは思っていなかったのだろう。六道は驚いた表情を浮かべる。
しかし拒むことはせずに、緊張した面持ちながら笑顔で頷いてくれた。
「鬼道院さんは度胸がありますね。今の状況で僕たちに声をかけてくるなんて。でも、はい。聞きたいことがあるのなら答えますよ」
この状況で彼らと話すと、なぜ度胸があると言えるのか。六道の言葉の意味はいまいち分からないものの、話し合いは拒まれなかったので笑顔で言葉を続けた。
「それでは、少しだけ。気になったことを尋ねさせてもらいますね。
先ほどの六道さんと東郷さんの話し合いを聞いた限りでは、あなた方の策は、私たちを広間に閉じ込めて殺すものだったはずです。しかし今しがたの佐久間さんの様子を見るに、彼はその作戦が失敗したことに対し全く動揺を示していませんでした。そこで思ったのですが、広間に閉じ込めるという作戦は、佐久間さん抜きで考えたものだったのではないかと。この考えが正しいかどうか、是非答えを聞いてみたいと思ったのです」
六道はまたも驚いた表情を浮かべた後、思わずと言った様子で「ぷっ」と笑い声を漏らした。
「鬼道院さんは本当に度胸があるというべきか、素直だというべきか。普通そうした質問を、敵に対して直接尋ねたりはしないんじゃないですか。僕がそれに対して真実を言ったかどうかなんて判断できないですから」
「確かにそれはその通りですね。ですが、もしこの考えが正しいのだとしたら、これから佐久間さんが教えてくださる全員が生還するための策。そこにまだ希望をもっていてもいいのかと思ったもので」
鬼道院も六道に釣られて明るく笑い声を上げる。
しかしその笑い声に不吉なものを感じ取ったのか、六道は笑顔を崩し、姫宮はそっと鬼道院から距離を取った。
その状況に虚しさを感じて鬼道院も笑顔を引っ込める。ただ笑い声を上げるだけで周囲の人に恐れられる自身の体質に、内心で深いため息が漏れる。
心なしか一歩鬼道院と距離を取った六道だが、声色は先と変わらぬ調子で答えてくれた。
「まあこの問いに関しては、既に計画が失敗した以上答えることによるデメリットもありませんからね。正直に話しますが、鬼道院さんの予想通りです。佐久間さんは大広間に集めた他プレイヤーを閉じ込めるという計画は知りませんでしたよ」
「やはり、そうでしたか。なら彼の策に対する希望を捨てる必要はなさそうですね。しかしなぜ、彼にはこの計画のことを話さなかったのですか? 仲間であることは間違いないのですよね」
数珠をなでながら鬼道院は目を細める。
六道は鬼道院の視線に耐えられなくなったようで、広間に視線を逸らしながら頷いた。
「勿論、佐久間さんとはスペルを教え合った間柄です。ただ、彼は僕たちに対しても、全員で生きて帰る方法を探したいというスタンスを貫いています。なので他プレイヤーを殺す計画自体は、今も僕と姫宮さんの二人で考えてるんですよ」
「では今回の作戦は、佐久間さんの案を聞いたあなた達が、それを利用して後から付け足した殺人計画だったというわけですか」
「そうですね。だから発想は悪くなかったと思うのですが、東郷さんが言うように詰めは甘かったみたいで失敗してしまいました。次はより瑕疵のない策を練らないと」
「その詰めの甘さのおかげで命拾いした身としては、どう答えればよいか反応に困りますね」
鬼道院は苦笑ぎみに六道の言葉を受け取る。するとその反応がまた、六道に強いプレシャーを与えてしまったらしい。今度は明確に一歩、距離を離された。
これ以上の話し合いはお互いに楽しいものにはならなそうだと判断し、六道に礼を告げるとその場からそっと離れた。
六道らから離れた鬼道院は、厨房へと視線を向けた。
そんなに準備するものが多いのか、佐久間はいまだ戻ってこない。
それにより再び、彼が戻ってくるまでどこで待機していようかという問題に直面した。
ここで東郷たちのもとに向かってしまえば、やはり自分が彼らとチームを組んでいると全プレイヤーに認定されてしまいそうである。かといって六道らの近くにい続けるのもばつが悪い。
やはり部屋の隅に移動するべきか。そう考えどこか居心地のよさそうな場所を探していると、ある人物で視線が止まった。
――そういえば、もう一つ疑問に思っていたことがありましたね。
せっかくだから彼女にも話を聞いておこうと思い、鬼道院はゆったりとした動作で彼女へと近づく。
鬼道院が近づいてくることに気づいた彼女――もとい架城は、猜疑に満ちた目をこちらに向けてきた。
「架城さん、少しだけお話宜しいでしょうか?」
「嫌よ」
朗らかに声をかけるも、一瞬のうちに否定の声が返ってくる。
最近別の誰かからも同じように拒絶されたなと思いつつ、鬼道院は笑顔で彼女の返しを受け流した。おそらく拒否されるだろうことは想像がついていたので、驚くことでもなかったからだ。
「そうですか。それは残念です。では、少しの間独り言を呟かせてもらいますね」
「……」
何を言われても立ち去るつもりはなさそうだと思ったのか、架城はため息をついて彼方に目を向けた。
文句を言ってこないのは承諾の証だと考え、鬼道院も視線を広間に飛ばしながら独り言を始める。
「先ほど架城さんは、広間に入ってくるなり、この場にいた全員に軽い皮肉を浴びせかけてきました。私はその時、あなたの状況判断の的確さ、素早さ、そして口を挟む余地のない滔々たる語りに圧倒されてしまいました。それゆえ半ば聞き惚れるように、その話の内容を吟味せず、あなたの言葉を受けとめていた。しかし、よく思い出してみると、一つ疑問に思える点があることに気づいたのです」
一度言葉を切り、架城の表情を探ってみる。おそらく脳内ではどんなミスをしてしまったのかと記憶を反芻しているのだろうが、それが表に現れることはない。こちらの話を聞いていないというスタイルを貫き、視線は虚空を見つめていた。
ならばこちらも独り言を続けよう。鬼道院はゆったりと話を再開した。
「その疑問に思った点とは、他でもない私自身への皮肉についてです。架城さんは、藤城さんとチームを組んだ後、今度は東郷さんとチームを組んだのか。教祖である私には、信者となって手足のように動いてくれる人物が必要なのか、と言ったことを仰いました。この言葉に関しては、反論すべき点や間違いが多く含まれているため、色々と訂正したいところではあるのですが――それ以上に気になる違和感が含まれていました。というのも、架城さんはいつ、私が藤城さんとチームを組んだことをお知りになったのでしょう? 私が藤城さんと行動を共にしていた二日目に、あなたとお会いした記憶はないのですが。もしかして、どこかで見ていらしたのでしょうか?」
予想していなかった問い(独り言)だったのか、架城は無表情を崩し、一瞬はっと顔を歪ませた。だが隙を見せたのはわずかな時間のみ。すぐに嘲るような笑みを貼り付け、鬼道院を見返してきた。
「教祖様って纏っている雰囲気に比例せず、記憶力はあまり良くないらしいわね。初日にあなたと藤城が親しく話している姿は見ているし、何より三日目に正義の使者様(笑)があなたと藤城について何か言っていたじゃない。藤城を救えなかったお前の話など聞く耳持たない、的なことを。だから二人がチームを組んでいたと知ってたのよ」
「おや、先程は嫌だと言っていたのに、私の独り言に反応してくれましたね。私に変な邪推をされるのが、そんなに嫌だったのでしょうか?」
「くっ……」
今度こそ明確に悔しそうな表情を浮かべ、架城は爪を噛み始める。
別に皮肉を言ったつもりはなかったのが、彼女のプライドを甚く傷つけてしまったようだ。
そのことに少々反省するも、彼女から反論の濁流が流れてこないのを幸いと、自身の記憶を掘り返す。すっかり忘れていたが、確かに宮城が自身と藤城がチームを組んでいるかのような発言をしていた覚えがある。加えて架城は初日の大広間においても、真っ先に自室へと戻っていた。つまり自分があそこで藤城と別れ、六道の話を聞きに行ったことも知らないことになる。
だとすれば彼女が自身と藤城がチームを組んでいると考えていたとしても、何も不思議はないのかもしれない。ただそうすると、わざわざ無視を止めて反論してきたことが気にかかる。もし彼女が自身で告げた通りの思考から藤城との関係を知ったのなら、特に反論などせず無視を貫けばよかったはずなのに。
――これは考え過ぎだろうか? 単に邪推されるのが嫌でつい口走ってしまっただけだろうか?――いや、それだけなら今こんなに悔しがっている理由が分からない。
架城が何も言ってこないのをいいことに、鬼道院は黙々と思考を続ける。鬼道院が黙り込んで何も言ってこないことが実際には架城によりプレッシャーをかけ、爪を噛ませる原因になっていたりするのだが、そのことに本人は気づいていない。
ただそれは結果として、鬼道院の思考にプラスに働いた。彼女の苛立ち、悔しさの原因が先ほどの会話の中にある。そう断定して考えることができたため、彼女が隠していたある事実に辿り着くことができた。
鬼道院は首元の数珠をなでながら、導き出した考えを口にする。
「ああ、成る程。やはりあなたも一人ではなかったのですね。どなたか、情報を提供してくれるパートナーがいた。それを隠したくて、つい口を開いてしまったと」
言い終えると同時に、殺気立った目で架城が睨み付けてきた。
――これはもしや、余計なことを言ってしまっただろうか。
次の瞬間には彼女がキラースペルを唱えてくる。そんな未来が脳裏をかすめ、鬼道院の背筋を冷たい汗が伝う。しかし、その妄想に反して架城がスペルを唱えてくることはなかった。
彼女が口を開く直前。厨房から水差しと人数分のグラスを載せたワゴンと共に、主役が戻ってきたからだ。
佐久間の出現により毒気を抜かれたのか、架城は一旦矛を収め、一人部屋の隅に移動した。
架城が来る前に舌戦を繰り広げていた東郷と六道も、言い合いを再開する気はない様子。お互いにやや距離を取り沈黙した。当然姫宮は六道の隣に寄り添い、神楽耶は東郷の背後に控える。
思考停止状態に陥っていた鬼道院は、気づけば一人取り残されていた。広間の静けさが、言葉の奔流で溢れていた脳を修復してくれる。徐々に思考を取り戻したところで、はて、自分はどこに立っていればいいかと早速疑問に直面した。
鬼道院自身の思いとしては、いまだ架城や秋華と同様に単独で動いており、チームを組んでいるつもりは全くない。しかし成り行き上仕方なかったとはいえ、架城や六道らには東郷と組んでいるように勘違いされてしまったはずだ。
この勘違いを利用して、東郷グループに付いてしまうべきか。それとも誤解を解くためにも、一人部屋の隅に佇むべきか。
数十秒の思考の後、結局鬼道院はこの二つの選択肢をやめ、第三の選択肢を選ぶことにした。
「六道さん。せっかくですのでもう少し、お話しさせてもらっても宜しいでしょうか」
第三の選択肢――『ついさっきまで自身を殺そうとしていた六道チームに身を寄せる』を選んだ鬼道院は、穏やかな声で六道に声をかけた。
まさか鬼道院がここで自分たちに近づいてくるとは思っていなかったのだろう。六道は驚いた表情を浮かべる。
しかし拒むことはせずに、緊張した面持ちながら笑顔で頷いてくれた。
「鬼道院さんは度胸がありますね。今の状況で僕たちに声をかけてくるなんて。でも、はい。聞きたいことがあるのなら答えますよ」
この状況で彼らと話すと、なぜ度胸があると言えるのか。六道の言葉の意味はいまいち分からないものの、話し合いは拒まれなかったので笑顔で言葉を続けた。
「それでは、少しだけ。気になったことを尋ねさせてもらいますね。
先ほどの六道さんと東郷さんの話し合いを聞いた限りでは、あなた方の策は、私たちを広間に閉じ込めて殺すものだったはずです。しかし今しがたの佐久間さんの様子を見るに、彼はその作戦が失敗したことに対し全く動揺を示していませんでした。そこで思ったのですが、広間に閉じ込めるという作戦は、佐久間さん抜きで考えたものだったのではないかと。この考えが正しいかどうか、是非答えを聞いてみたいと思ったのです」
六道はまたも驚いた表情を浮かべた後、思わずと言った様子で「ぷっ」と笑い声を漏らした。
「鬼道院さんは本当に度胸があるというべきか、素直だというべきか。普通そうした質問を、敵に対して直接尋ねたりはしないんじゃないですか。僕がそれに対して真実を言ったかどうかなんて判断できないですから」
「確かにそれはその通りですね。ですが、もしこの考えが正しいのだとしたら、これから佐久間さんが教えてくださる全員が生還するための策。そこにまだ希望をもっていてもいいのかと思ったもので」
鬼道院も六道に釣られて明るく笑い声を上げる。
しかしその笑い声に不吉なものを感じ取ったのか、六道は笑顔を崩し、姫宮はそっと鬼道院から距離を取った。
その状況に虚しさを感じて鬼道院も笑顔を引っ込める。ただ笑い声を上げるだけで周囲の人に恐れられる自身の体質に、内心で深いため息が漏れる。
心なしか一歩鬼道院と距離を取った六道だが、声色は先と変わらぬ調子で答えてくれた。
「まあこの問いに関しては、既に計画が失敗した以上答えることによるデメリットもありませんからね。正直に話しますが、鬼道院さんの予想通りです。佐久間さんは大広間に集めた他プレイヤーを閉じ込めるという計画は知りませんでしたよ」
「やはり、そうでしたか。なら彼の策に対する希望を捨てる必要はなさそうですね。しかしなぜ、彼にはこの計画のことを話さなかったのですか? 仲間であることは間違いないのですよね」
数珠をなでながら鬼道院は目を細める。
六道は鬼道院の視線に耐えられなくなったようで、広間に視線を逸らしながら頷いた。
「勿論、佐久間さんとはスペルを教え合った間柄です。ただ、彼は僕たちに対しても、全員で生きて帰る方法を探したいというスタンスを貫いています。なので他プレイヤーを殺す計画自体は、今も僕と姫宮さんの二人で考えてるんですよ」
「では今回の作戦は、佐久間さんの案を聞いたあなた達が、それを利用して後から付け足した殺人計画だったというわけですか」
「そうですね。だから発想は悪くなかったと思うのですが、東郷さんが言うように詰めは甘かったみたいで失敗してしまいました。次はより瑕疵のない策を練らないと」
「その詰めの甘さのおかげで命拾いした身としては、どう答えればよいか反応に困りますね」
鬼道院は苦笑ぎみに六道の言葉を受け取る。するとその反応がまた、六道に強いプレシャーを与えてしまったらしい。今度は明確に一歩、距離を離された。
これ以上の話し合いはお互いに楽しいものにはならなそうだと判断し、六道に礼を告げるとその場からそっと離れた。
六道らから離れた鬼道院は、厨房へと視線を向けた。
そんなに準備するものが多いのか、佐久間はいまだ戻ってこない。
それにより再び、彼が戻ってくるまでどこで待機していようかという問題に直面した。
ここで東郷たちのもとに向かってしまえば、やはり自分が彼らとチームを組んでいると全プレイヤーに認定されてしまいそうである。かといって六道らの近くにい続けるのもばつが悪い。
やはり部屋の隅に移動するべきか。そう考えどこか居心地のよさそうな場所を探していると、ある人物で視線が止まった。
――そういえば、もう一つ疑問に思っていたことがありましたね。
せっかくだから彼女にも話を聞いておこうと思い、鬼道院はゆったりとした動作で彼女へと近づく。
鬼道院が近づいてくることに気づいた彼女――もとい架城は、猜疑に満ちた目をこちらに向けてきた。
「架城さん、少しだけお話宜しいでしょうか?」
「嫌よ」
朗らかに声をかけるも、一瞬のうちに否定の声が返ってくる。
最近別の誰かからも同じように拒絶されたなと思いつつ、鬼道院は笑顔で彼女の返しを受け流した。おそらく拒否されるだろうことは想像がついていたので、驚くことでもなかったからだ。
「そうですか。それは残念です。では、少しの間独り言を呟かせてもらいますね」
「……」
何を言われても立ち去るつもりはなさそうだと思ったのか、架城はため息をついて彼方に目を向けた。
文句を言ってこないのは承諾の証だと考え、鬼道院も視線を広間に飛ばしながら独り言を始める。
「先ほど架城さんは、広間に入ってくるなり、この場にいた全員に軽い皮肉を浴びせかけてきました。私はその時、あなたの状況判断の的確さ、素早さ、そして口を挟む余地のない滔々たる語りに圧倒されてしまいました。それゆえ半ば聞き惚れるように、その話の内容を吟味せず、あなたの言葉を受けとめていた。しかし、よく思い出してみると、一つ疑問に思える点があることに気づいたのです」
一度言葉を切り、架城の表情を探ってみる。おそらく脳内ではどんなミスをしてしまったのかと記憶を反芻しているのだろうが、それが表に現れることはない。こちらの話を聞いていないというスタイルを貫き、視線は虚空を見つめていた。
ならばこちらも独り言を続けよう。鬼道院はゆったりと話を再開した。
「その疑問に思った点とは、他でもない私自身への皮肉についてです。架城さんは、藤城さんとチームを組んだ後、今度は東郷さんとチームを組んだのか。教祖である私には、信者となって手足のように動いてくれる人物が必要なのか、と言ったことを仰いました。この言葉に関しては、反論すべき点や間違いが多く含まれているため、色々と訂正したいところではあるのですが――それ以上に気になる違和感が含まれていました。というのも、架城さんはいつ、私が藤城さんとチームを組んだことをお知りになったのでしょう? 私が藤城さんと行動を共にしていた二日目に、あなたとお会いした記憶はないのですが。もしかして、どこかで見ていらしたのでしょうか?」
予想していなかった問い(独り言)だったのか、架城は無表情を崩し、一瞬はっと顔を歪ませた。だが隙を見せたのはわずかな時間のみ。すぐに嘲るような笑みを貼り付け、鬼道院を見返してきた。
「教祖様って纏っている雰囲気に比例せず、記憶力はあまり良くないらしいわね。初日にあなたと藤城が親しく話している姿は見ているし、何より三日目に正義の使者様(笑)があなたと藤城について何か言っていたじゃない。藤城を救えなかったお前の話など聞く耳持たない、的なことを。だから二人がチームを組んでいたと知ってたのよ」
「おや、先程は嫌だと言っていたのに、私の独り言に反応してくれましたね。私に変な邪推をされるのが、そんなに嫌だったのでしょうか?」
「くっ……」
今度こそ明確に悔しそうな表情を浮かべ、架城は爪を噛み始める。
別に皮肉を言ったつもりはなかったのが、彼女のプライドを甚く傷つけてしまったようだ。
そのことに少々反省するも、彼女から反論の濁流が流れてこないのを幸いと、自身の記憶を掘り返す。すっかり忘れていたが、確かに宮城が自身と藤城がチームを組んでいるかのような発言をしていた覚えがある。加えて架城は初日の大広間においても、真っ先に自室へと戻っていた。つまり自分があそこで藤城と別れ、六道の話を聞きに行ったことも知らないことになる。
だとすれば彼女が自身と藤城がチームを組んでいると考えていたとしても、何も不思議はないのかもしれない。ただそうすると、わざわざ無視を止めて反論してきたことが気にかかる。もし彼女が自身で告げた通りの思考から藤城との関係を知ったのなら、特に反論などせず無視を貫けばよかったはずなのに。
――これは考え過ぎだろうか? 単に邪推されるのが嫌でつい口走ってしまっただけだろうか?――いや、それだけなら今こんなに悔しがっている理由が分からない。
架城が何も言ってこないのをいいことに、鬼道院は黙々と思考を続ける。鬼道院が黙り込んで何も言ってこないことが実際には架城によりプレッシャーをかけ、爪を噛ませる原因になっていたりするのだが、そのことに本人は気づいていない。
ただそれは結果として、鬼道院の思考にプラスに働いた。彼女の苛立ち、悔しさの原因が先ほどの会話の中にある。そう断定して考えることができたため、彼女が隠していたある事実に辿り着くことができた。
鬼道院は首元の数珠をなでながら、導き出した考えを口にする。
「ああ、成る程。やはりあなたも一人ではなかったのですね。どなたか、情報を提供してくれるパートナーがいた。それを隠したくて、つい口を開いてしまったと」
言い終えると同時に、殺気立った目で架城が睨み付けてきた。
――これはもしや、余計なことを言ってしまっただろうか。
次の瞬間には彼女がキラースペルを唱えてくる。そんな未来が脳裏をかすめ、鬼道院の背筋を冷たい汗が伝う。しかし、その妄想に反して架城がスペルを唱えてくることはなかった。
彼女が口を開く直前。厨房から水差しと人数分のグラスを載せたワゴンと共に、主役が戻ってきたからだ。
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