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不動の二日目
睡魔に抗いつつ
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今のやり取りを呆気にとられた様子で眺めていた藤城は、鬼道院が歩き出したことに気づくと小走りでその姿を追いかけた。
何か聞きたそうにそわそわと体を揺らしているも、どう尋ねればよいのか思い浮かばないのか口を開かない。こちらから話しかけてもよかったのが、鬼道院自身も気になることができており敢えて尋ねることはしなかった。
そうしてお互い無言で歩いているうちに、無事連絡通路を渡り終え別館にたどり着く。
このまま自室に戻るか、一度架城の部屋を訪ねてみるか。今朝から一度もその姿を見ていないということは、彼女も橋爪同様殺されている可能性もある。その確認を込めてやはり一度部屋を訪ねるべきであるようにも思えた。
やや思い悩み藤城に意見を求めると、藤城はその話題に興味がないのか「別にわざわざ訪ねる必要性はないんじゃねえか。死んでるんだったらそれはそれだし、部屋にずっと籠ってるってんならルールに則って殺されてくれるだろうし」と、投げやりな答えが返ってきた。
それもそうかと納得し、鬼道院は自室へと歩き出す。今回は佐久間の部屋から誰かが出て来るということもなく、すんなりとⅡ号室に到着。
鍵を開け部屋の中に足を踏み入れると、当然のように藤城も中に入ってくる。そして鬼道院を追い越して部屋中央にあるソファへ腰かけると、待ちきれないと言った様子で口を開いた。
「なあなあ教祖様。もういろんな奴に俺とあんたが組んでいるってのは知れ渡っただろ。いい加減こんな形だけのチームじゃなくて、本当のチームになってもいいと思うんだよな」
今まで彼がそわそわしていたのはこれだったのか。
少し気が抜ける思いをすると共に、本当のチームが意味するものを思い浮かべ、自然と目が細まるのを感じる。
鬼道院はかすかに開いた瞼の隙間から、じっと藤城の瞳を見つめた。
「本当のチームになりたい。それはつまり、キラースペルをお互いに教え合おうということですね」
藤城はにんまりとした笑顔を浮かべ大きく頷く。
「Yes! 今日の俺は充分教祖様の役に立ってたと思うんすよね。徹夜して張り込みをしたことによって分かった各プレイヤーの就寝時の居場所。そして秋華の不可解な動きから推測される十四人目の可能性。それに何より一番の功績は東郷と神楽耶の歪な関係に気づけたこと! たったの一日でこれだけの成果を挙げて見せたわけですし、協力する仲間として申し分ないことは納得していただけたと思うわけですよ。どうです、これでもまだチームを組むのに不服がありますかい?」
今度は絶対にはぐらかさせないぞという強い意志と共に、藤城はどや顔で鬼道院に詰め寄る。
実際彼が言っていることは事実であり、信頼に値するかといえばやや不安は残るものの、パートナーとして頼りになるのは間違いないことに思えた。
鬼道院はそっと数珠に触れながら、目を瞑り考えを巡らす。そして、約三分にもわたる長い沈黙の後、「いえ、不服はありません」と申し出を受け入れた。
笑顔満面で強制的に握手を交わしてくるほど藤城が喜ぶ中、鬼道院は無表情に提案する。
「では、お互いに、キラースペルの書かれた用紙を見せ合いましょうか。まさかとは思いますが、用紙を捨てたなどということはありませんよね」
「おいおいおい、流石にそんな馬鹿なことするわけないじゃないっすか教祖様! チームを組むにあたってスペルの書かれた紙がないんじゃ話にならないんだから。誰かに盗まれたりしないよう、常に肌身離さず持ち歩いてますって」
ぶんぶんと大きく振り回していた手を離し、藤城はその場で靴を脱ぎ始める。さらにタキシードと同じ紫色の靴下を脱ぐと、躊躇うことなくその中に手を突っ込み一枚の紙を取り出した。
暴力が禁止されているこのゲームにおいて、靴下の中はまず盗まれることのない絶好の隠し場所。きっと藤城以外にもそこに隠している人物は多いのだろうなと思いつつ、鬼道院自身は修道服の袖をまくり上げる。
鬼道院がスペルカードをどこに隠していたのかを見て、藤城は軽く口笛を吹いた。
「ひゅー、教祖様は修道衣の下のシャツに直接縫い付けてたんですか。確かにそれも盗まれたりはしなさそうですけど、針と糸なんてこの館に置いてありましたっけ?」
「医務室に縫合用の針と糸が置いてありましたので、それを拝借させてもらいました」
「ふーん。まさかこの館で外科手術なんて行わないでしょうに、なんでそんなもんが置いてあるのか。もしかして腹を刺されたときは、それを使って自分で治療しろって言ってんすかね。ま、今はそんなことより、お互いのキラースペルの拝見と行こうじゃありませんか!」
一度大きく手を叩くと、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべながら藤城はシャツに縫い付けられたスペルカードに目を通す。鬼道院もつと藤城が靴下の中から取り出したスペルカードへと目を移した。
それは特に示し合わせたわけでなかったものの、お互いスペル名を見ると同時に、その名を小さく呟いた。
「『屍体操作』……」
「『記憶改竄』……」
「んじゃ、俺は一旦お暇させてもらいますよ。明日の朝九時頃また会いに来ますんで、それまで勝手に殺されないで下さいよ」
「ええ、勿論。藤城さんも余り無茶はなさらず、お気を付けてお過ごしください」
それぞれのキラースペルが共に即死系でなかったこともあり、スペルをばらした瞬間にどちらかが殺されるという展開にはならなかった。
どちらも強力なスペルであることは間違いないが、最も有効に利用するタイミングとなると難しい。どういった場面で使うのか、使うとすれば誰を対象にどういった効果を狙うのが適切か。
互いのスペルが判明したことにより今後の戦略について話し合いが過熱し、ふと気づけば時刻は九時を回っていた。藤城は今日も温室での張り込みをするつもりなのか、九時を過ぎていることを知ると話し合いを切り上げ、すぐに部屋から出ていった。
藤城が去り、鬼道院は部屋の中に一人残される。
初日とは異なり、二日目はほぼ一日中誰かと行動を共にしていた。それが嫌というわけではないが、一人になることで得られる解放感というのはやはり心地の良いもの。
ゆったりとした動作でベッドに倒れこむと、一つ、大きく息を吐き出す。
「……昨日に引き続き、本日も些か情報量の多い一日でした。特に藤城さんから頂いた新たなキラースペル。一体どう活用すべきでしょうか……」
目を瞑り、『記憶改竄』を使う際のシミュレーションを行ってみる。
自分が誰かに殺されかかったとき。
残りの人数が五人になったとき。
三人チームが現れたとき。
――どれも使う必要に迫られる場面であるが、最善は銃持ちのプレイヤーにこのスペルを唱えることであるだろうと結論を下す。どんな風に記憶を改竄するのかにもよるが、うまくいけば全員を綺麗に殺してくれるかもしれない。
もともと保有していた『屍体操作』は、既に三つ死体があるので使用は可能なものの、正直使い方に困っていた。この館では暴力が禁止されているとはいえ、おそらくそれは死体相手には当てはまらない。となると操作したはいいものの、宮城あたりが相手となればあっさりスクラップされる恐れがあった。
加えて操作とは具体的にどういう意味なのかも定義が難しいところ。逐一ああしろこうしろと念じなければ動かないのなら、非常に使い勝手が悪いものになる。かといって念じたことをオートでやり始められても、こちらの思うような結果を生み出してくれるとは限らない。
そうした理由から少し持て余していたのだったが、キラースペルを新たに一つ手に入れたことにより、やや活用の幅が広がった。例えば相手が三人組だったとしても、一人を記憶改竄で操り自殺させ、その直後に屍体操作で自殺した人間を操り残りの二人に奇襲すると言ったコンボも可能になった。
とはいえこの館にいるほかのプレイヤーもキラースペルを所持しているため、そう簡単に話が進むはずもないのだが。
ありとあらゆる想定をしつつ、明日からは藤城と共にもう少し積極的に仕掛けてみようかと鬼道院はぼんやり考える。
しばらくはベッドがもたらす心地よい微睡みに抗い思考を続けていたものの、予想以上に心身とも疲れていたらしい。気づけばその思考は、暗闇の中に溶け込んでしまっていた。
何か聞きたそうにそわそわと体を揺らしているも、どう尋ねればよいのか思い浮かばないのか口を開かない。こちらから話しかけてもよかったのが、鬼道院自身も気になることができており敢えて尋ねることはしなかった。
そうしてお互い無言で歩いているうちに、無事連絡通路を渡り終え別館にたどり着く。
このまま自室に戻るか、一度架城の部屋を訪ねてみるか。今朝から一度もその姿を見ていないということは、彼女も橋爪同様殺されている可能性もある。その確認を込めてやはり一度部屋を訪ねるべきであるようにも思えた。
やや思い悩み藤城に意見を求めると、藤城はその話題に興味がないのか「別にわざわざ訪ねる必要性はないんじゃねえか。死んでるんだったらそれはそれだし、部屋にずっと籠ってるってんならルールに則って殺されてくれるだろうし」と、投げやりな答えが返ってきた。
それもそうかと納得し、鬼道院は自室へと歩き出す。今回は佐久間の部屋から誰かが出て来るということもなく、すんなりとⅡ号室に到着。
鍵を開け部屋の中に足を踏み入れると、当然のように藤城も中に入ってくる。そして鬼道院を追い越して部屋中央にあるソファへ腰かけると、待ちきれないと言った様子で口を開いた。
「なあなあ教祖様。もういろんな奴に俺とあんたが組んでいるってのは知れ渡っただろ。いい加減こんな形だけのチームじゃなくて、本当のチームになってもいいと思うんだよな」
今まで彼がそわそわしていたのはこれだったのか。
少し気が抜ける思いをすると共に、本当のチームが意味するものを思い浮かべ、自然と目が細まるのを感じる。
鬼道院はかすかに開いた瞼の隙間から、じっと藤城の瞳を見つめた。
「本当のチームになりたい。それはつまり、キラースペルをお互いに教え合おうということですね」
藤城はにんまりとした笑顔を浮かべ大きく頷く。
「Yes! 今日の俺は充分教祖様の役に立ってたと思うんすよね。徹夜して張り込みをしたことによって分かった各プレイヤーの就寝時の居場所。そして秋華の不可解な動きから推測される十四人目の可能性。それに何より一番の功績は東郷と神楽耶の歪な関係に気づけたこと! たったの一日でこれだけの成果を挙げて見せたわけですし、協力する仲間として申し分ないことは納得していただけたと思うわけですよ。どうです、これでもまだチームを組むのに不服がありますかい?」
今度は絶対にはぐらかさせないぞという強い意志と共に、藤城はどや顔で鬼道院に詰め寄る。
実際彼が言っていることは事実であり、信頼に値するかといえばやや不安は残るものの、パートナーとして頼りになるのは間違いないことに思えた。
鬼道院はそっと数珠に触れながら、目を瞑り考えを巡らす。そして、約三分にもわたる長い沈黙の後、「いえ、不服はありません」と申し出を受け入れた。
笑顔満面で強制的に握手を交わしてくるほど藤城が喜ぶ中、鬼道院は無表情に提案する。
「では、お互いに、キラースペルの書かれた用紙を見せ合いましょうか。まさかとは思いますが、用紙を捨てたなどということはありませんよね」
「おいおいおい、流石にそんな馬鹿なことするわけないじゃないっすか教祖様! チームを組むにあたってスペルの書かれた紙がないんじゃ話にならないんだから。誰かに盗まれたりしないよう、常に肌身離さず持ち歩いてますって」
ぶんぶんと大きく振り回していた手を離し、藤城はその場で靴を脱ぎ始める。さらにタキシードと同じ紫色の靴下を脱ぐと、躊躇うことなくその中に手を突っ込み一枚の紙を取り出した。
暴力が禁止されているこのゲームにおいて、靴下の中はまず盗まれることのない絶好の隠し場所。きっと藤城以外にもそこに隠している人物は多いのだろうなと思いつつ、鬼道院自身は修道服の袖をまくり上げる。
鬼道院がスペルカードをどこに隠していたのかを見て、藤城は軽く口笛を吹いた。
「ひゅー、教祖様は修道衣の下のシャツに直接縫い付けてたんですか。確かにそれも盗まれたりはしなさそうですけど、針と糸なんてこの館に置いてありましたっけ?」
「医務室に縫合用の針と糸が置いてありましたので、それを拝借させてもらいました」
「ふーん。まさかこの館で外科手術なんて行わないでしょうに、なんでそんなもんが置いてあるのか。もしかして腹を刺されたときは、それを使って自分で治療しろって言ってんすかね。ま、今はそんなことより、お互いのキラースペルの拝見と行こうじゃありませんか!」
一度大きく手を叩くと、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべながら藤城はシャツに縫い付けられたスペルカードに目を通す。鬼道院もつと藤城が靴下の中から取り出したスペルカードへと目を移した。
それは特に示し合わせたわけでなかったものの、お互いスペル名を見ると同時に、その名を小さく呟いた。
「『屍体操作』……」
「『記憶改竄』……」
「んじゃ、俺は一旦お暇させてもらいますよ。明日の朝九時頃また会いに来ますんで、それまで勝手に殺されないで下さいよ」
「ええ、勿論。藤城さんも余り無茶はなさらず、お気を付けてお過ごしください」
それぞれのキラースペルが共に即死系でなかったこともあり、スペルをばらした瞬間にどちらかが殺されるという展開にはならなかった。
どちらも強力なスペルであることは間違いないが、最も有効に利用するタイミングとなると難しい。どういった場面で使うのか、使うとすれば誰を対象にどういった効果を狙うのが適切か。
互いのスペルが判明したことにより今後の戦略について話し合いが過熱し、ふと気づけば時刻は九時を回っていた。藤城は今日も温室での張り込みをするつもりなのか、九時を過ぎていることを知ると話し合いを切り上げ、すぐに部屋から出ていった。
藤城が去り、鬼道院は部屋の中に一人残される。
初日とは異なり、二日目はほぼ一日中誰かと行動を共にしていた。それが嫌というわけではないが、一人になることで得られる解放感というのはやはり心地の良いもの。
ゆったりとした動作でベッドに倒れこむと、一つ、大きく息を吐き出す。
「……昨日に引き続き、本日も些か情報量の多い一日でした。特に藤城さんから頂いた新たなキラースペル。一体どう活用すべきでしょうか……」
目を瞑り、『記憶改竄』を使う際のシミュレーションを行ってみる。
自分が誰かに殺されかかったとき。
残りの人数が五人になったとき。
三人チームが現れたとき。
――どれも使う必要に迫られる場面であるが、最善は銃持ちのプレイヤーにこのスペルを唱えることであるだろうと結論を下す。どんな風に記憶を改竄するのかにもよるが、うまくいけば全員を綺麗に殺してくれるかもしれない。
もともと保有していた『屍体操作』は、既に三つ死体があるので使用は可能なものの、正直使い方に困っていた。この館では暴力が禁止されているとはいえ、おそらくそれは死体相手には当てはまらない。となると操作したはいいものの、宮城あたりが相手となればあっさりスクラップされる恐れがあった。
加えて操作とは具体的にどういう意味なのかも定義が難しいところ。逐一ああしろこうしろと念じなければ動かないのなら、非常に使い勝手が悪いものになる。かといって念じたことをオートでやり始められても、こちらの思うような結果を生み出してくれるとは限らない。
そうした理由から少し持て余していたのだったが、キラースペルを新たに一つ手に入れたことにより、やや活用の幅が広がった。例えば相手が三人組だったとしても、一人を記憶改竄で操り自殺させ、その直後に屍体操作で自殺した人間を操り残りの二人に奇襲すると言ったコンボも可能になった。
とはいえこの館にいるほかのプレイヤーもキラースペルを所持しているため、そう簡単に話が進むはずもないのだが。
ありとあらゆる想定をしつつ、明日からは藤城と共にもう少し積極的に仕掛けてみようかと鬼道院はぼんやり考える。
しばらくはベッドがもたらす心地よい微睡みに抗い思考を続けていたものの、予想以上に心身とも疲れていたらしい。気づけばその思考は、暗闇の中に溶け込んでしまっていた。
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