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困惑の一日目
幕間:主催者どもの勝手な予想
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そこは血命館から遠く離れた薄暗い一室。四方を埋め尽くすようにして無数のモニターが立ち並び、部屋全体を鈍い明りで照らしている。部屋の中央には大きな丸テーブルが一つ。それを囲うようにして並べられた豪奢な椅子には、明らかに常人とかけ離れたオーラを持つ五人の男女が腰を下ろしていた。
その部屋において、唯一席に座らず立っている男が彼らに声をかけた。
「さてさて皆さま如何でしたか? 初日から大波乱! 見応えたっぷりの展開だったと思われますが、どなたかお気に召すプレイヤーは見つかりましたでしょうか?」
マイクを片手に喜多嶋が陽気な声を上げる。その言葉を聞き、恰幅のよい禿げた男が口を開いた。
「儂は当然、鬼道院一択だよ。奴が持つポテンシャルは、あの場にいる誰よりも高い。現に誰もが奴の前では委縮していたしな。最後まで生き残ることは疑いようがないだろう」
「……それはどうでしょう」
頬がこけた白髪の青年が、禿げた男の言葉を否定する。
「八雲さんには悪いが、私の目にはそこまで魅力的に映らなかった。表面だけ取り繕った、中身のない男。そんな印象を、私は持ちましたよ」
「ほほう。なら如月の坊ちゃんには、一体誰が魅力的に見えたのかな?」
自分の意見を否定されたからか、八雲は威圧するような口調で聞く。
如月は臆することなく、淡々と名前を挙げた。
「六道天馬。魅力的かどうかはともかく、私が生き残ると考えるのは彼です。集められたプレイヤー次第ではすぐに殺されることも予想していましたが、今回のプレイヤーは慎重な者が多い。六道が下手に出しゃばりさえしなければ、最後まで何事もなく生き残れるでしょう」
「ふん。そううまくいくとは思わんがな。今だって姫宮とやらに手玉に取られているようだし、早々にミスをして殺されるんじゃないのか」
「さあ、どうでしょうね。所詮は現時点での予想にすぎません。私自身そこまで自信があるわけではない。実際どうなるかは、あの場にいる彼らにしか決められませんから」
「全く、優等生回答で詰まらんな。それで、天上院や金光は誰が勝ち残ると思うんだ」
あっさりと如月との会話を切り上げ、八雲は他の二人に話を振った。
仮面をかぶり、扇子を顔の前で広げた天上院が、やや高めの蠱惑的な声で答える。
「お二人とも随分と微妙な輩を推しているのですなあ。妾は断然、東郷という男が勝ち残ると予想しておりますよ。初手から大胆にもチームを結成し、早くも一人殺して見せた。ああいったリスクを恐れぬ愚か者こそが、このゲームを勝ち残るのにふさわしい。妾はそう思いますけどなあ」
「確かにああいった積極的な奴は見ていて面白いとは思う。だがな天上院よ。得てして奴のようなタイプは、その積極性が仇となり後半思いがけず殺されることが多いだろう。儂の記憶によれば、初日からキラースペルを唱えて最後まで勝ち残った者は、一人しかいない」
「なあに、一人いるのなら十分でしょう。そもそも前例がなかったとしても、それは今回も駄目であることにはリンクしませんしね。とはいえ、僕の一推しは宮城濾水ですけど」
とぼけた様子で話に割り込んだのは、軽薄な口調に似合わぬ精悍な顔立ちの男。年齢を予測しづらい見た目だが、少なくとも八雲より若いことは間違いなさそうだ。
八雲は顔をしかめながら言う。
「金光の一推しは宮城か……。確かにお主が好きそうな奴ではあるが、あの半裸男が最後まで残るのは……儂としては嬉しくないな」
「そうですか? 僕としては画面映えして面白いと思いますけど」
「妾も意外と好きじゃよ。なかなかによい筋肉をしておったからな」
「私もいいと思いますよ。見た目に似合わぬ理知的な発言は、ギャップがあって面白かったですし」
「ふん! どいつもこいつも儂とは意見が合わんな! まあよい。儂としては刺激的で面白い画さえ見れれば誰が生き残ろうと構わんからな!」
プイと横を向き、いじけた様子を見せる八雲。そんな彼を見て三人がため息をこぼす中、ここまで一度も発言していなかった最後の一人が、唐突に口を開いた。
「皆さん楽しめているようです何よりです。しかし、今回は私どもの方からも一人、ゲームに参加させております。その者が勝者となるのは、まず間違いないでしょう」
くぐもった、性別も年齢も感じさせない声音。
この場にいる最後の一人――全身を黒装束で包み、外見的な情報を一切与えないようにした『杉並』からの使者の発言に、金光が反応した。
「おいおい杉並さん。それはちょいと卑怯じゃないかな。毎回君たちのことを信用して参加者を任せてるんだ。そんな依怙贔屓をするんだったら、僕からも是非二人ほど参加させたい人がいたというのに。で、因みにどいつが杉並さんとこの社員なのかな?」
「申し訳ありません。しかしあの者をこのゲームに参加させたのは、以前命令違反を犯した罰則としてですので。それに、金光様も前回のゲームの際言っていたではありませんか。杉並のものがゲームに参加したら、一体どこまで生き残れるのかと」
「まあ確かに言った気はするが……それより、誰が杉並なのか焦らさずに教えてくれよ」
「どうせなら知らない方が楽しめると思いますので、ここでは口を噤ませていただきます。強いてヒントを与えるとするなら、ここまでで最も積極的に仕掛けている人物、でしょうか」
杉並の言葉を聞き、それぞれが記憶を掘り返し始める。
「ふむ。そうすると、妾が推している東郷かや」
「いえ。積極的に仕掛けているというなら、佐久間という男でしょう。何をするにしろ彼が中心にいますから」
「いやいや。僕が思うにやっぱり宮城君でしょう。彼、服装という面からみてもかなり積極的に仕掛けてるからね」
「ふん。お主らはよくこのゲームを見ていないな。積極的に仕掛けているというなら、あの男こそが杉並と見るべきだろう」
一人話を聞いているだけが嫌になったのか、八雲も気を取り直して会話に参加し始める。
四人が楽しげに憶測を語り合うのをしばらく眺めたのち、喜多嶋はパンと手を叩き、彼らの視線を集めた。
「さてさて、議論も白熱してきましたが、本日はここで一度お開きとしましょう。彼らの策謀巡らす殺し合い。それはまだまだ始まったばかりなのですから」
その部屋において、唯一席に座らず立っている男が彼らに声をかけた。
「さてさて皆さま如何でしたか? 初日から大波乱! 見応えたっぷりの展開だったと思われますが、どなたかお気に召すプレイヤーは見つかりましたでしょうか?」
マイクを片手に喜多嶋が陽気な声を上げる。その言葉を聞き、恰幅のよい禿げた男が口を開いた。
「儂は当然、鬼道院一択だよ。奴が持つポテンシャルは、あの場にいる誰よりも高い。現に誰もが奴の前では委縮していたしな。最後まで生き残ることは疑いようがないだろう」
「……それはどうでしょう」
頬がこけた白髪の青年が、禿げた男の言葉を否定する。
「八雲さんには悪いが、私の目にはそこまで魅力的に映らなかった。表面だけ取り繕った、中身のない男。そんな印象を、私は持ちましたよ」
「ほほう。なら如月の坊ちゃんには、一体誰が魅力的に見えたのかな?」
自分の意見を否定されたからか、八雲は威圧するような口調で聞く。
如月は臆することなく、淡々と名前を挙げた。
「六道天馬。魅力的かどうかはともかく、私が生き残ると考えるのは彼です。集められたプレイヤー次第ではすぐに殺されることも予想していましたが、今回のプレイヤーは慎重な者が多い。六道が下手に出しゃばりさえしなければ、最後まで何事もなく生き残れるでしょう」
「ふん。そううまくいくとは思わんがな。今だって姫宮とやらに手玉に取られているようだし、早々にミスをして殺されるんじゃないのか」
「さあ、どうでしょうね。所詮は現時点での予想にすぎません。私自身そこまで自信があるわけではない。実際どうなるかは、あの場にいる彼らにしか決められませんから」
「全く、優等生回答で詰まらんな。それで、天上院や金光は誰が勝ち残ると思うんだ」
あっさりと如月との会話を切り上げ、八雲は他の二人に話を振った。
仮面をかぶり、扇子を顔の前で広げた天上院が、やや高めの蠱惑的な声で答える。
「お二人とも随分と微妙な輩を推しているのですなあ。妾は断然、東郷という男が勝ち残ると予想しておりますよ。初手から大胆にもチームを結成し、早くも一人殺して見せた。ああいったリスクを恐れぬ愚か者こそが、このゲームを勝ち残るのにふさわしい。妾はそう思いますけどなあ」
「確かにああいった積極的な奴は見ていて面白いとは思う。だがな天上院よ。得てして奴のようなタイプは、その積極性が仇となり後半思いがけず殺されることが多いだろう。儂の記憶によれば、初日からキラースペルを唱えて最後まで勝ち残った者は、一人しかいない」
「なあに、一人いるのなら十分でしょう。そもそも前例がなかったとしても、それは今回も駄目であることにはリンクしませんしね。とはいえ、僕の一推しは宮城濾水ですけど」
とぼけた様子で話に割り込んだのは、軽薄な口調に似合わぬ精悍な顔立ちの男。年齢を予測しづらい見た目だが、少なくとも八雲より若いことは間違いなさそうだ。
八雲は顔をしかめながら言う。
「金光の一推しは宮城か……。確かにお主が好きそうな奴ではあるが、あの半裸男が最後まで残るのは……儂としては嬉しくないな」
「そうですか? 僕としては画面映えして面白いと思いますけど」
「妾も意外と好きじゃよ。なかなかによい筋肉をしておったからな」
「私もいいと思いますよ。見た目に似合わぬ理知的な発言は、ギャップがあって面白かったですし」
「ふん! どいつもこいつも儂とは意見が合わんな! まあよい。儂としては刺激的で面白い画さえ見れれば誰が生き残ろうと構わんからな!」
プイと横を向き、いじけた様子を見せる八雲。そんな彼を見て三人がため息をこぼす中、ここまで一度も発言していなかった最後の一人が、唐突に口を開いた。
「皆さん楽しめているようです何よりです。しかし、今回は私どもの方からも一人、ゲームに参加させております。その者が勝者となるのは、まず間違いないでしょう」
くぐもった、性別も年齢も感じさせない声音。
この場にいる最後の一人――全身を黒装束で包み、外見的な情報を一切与えないようにした『杉並』からの使者の発言に、金光が反応した。
「おいおい杉並さん。それはちょいと卑怯じゃないかな。毎回君たちのことを信用して参加者を任せてるんだ。そんな依怙贔屓をするんだったら、僕からも是非二人ほど参加させたい人がいたというのに。で、因みにどいつが杉並さんとこの社員なのかな?」
「申し訳ありません。しかしあの者をこのゲームに参加させたのは、以前命令違反を犯した罰則としてですので。それに、金光様も前回のゲームの際言っていたではありませんか。杉並のものがゲームに参加したら、一体どこまで生き残れるのかと」
「まあ確かに言った気はするが……それより、誰が杉並なのか焦らさずに教えてくれよ」
「どうせなら知らない方が楽しめると思いますので、ここでは口を噤ませていただきます。強いてヒントを与えるとするなら、ここまでで最も積極的に仕掛けている人物、でしょうか」
杉並の言葉を聞き、それぞれが記憶を掘り返し始める。
「ふむ。そうすると、妾が推している東郷かや」
「いえ。積極的に仕掛けているというなら、佐久間という男でしょう。何をするにしろ彼が中心にいますから」
「いやいや。僕が思うにやっぱり宮城君でしょう。彼、服装という面からみてもかなり積極的に仕掛けてるからね」
「ふん。お主らはよくこのゲームを見ていないな。積極的に仕掛けているというなら、あの男こそが杉並と見るべきだろう」
一人話を聞いているだけが嫌になったのか、八雲も気を取り直して会話に参加し始める。
四人が楽しげに憶測を語り合うのをしばらく眺めたのち、喜多嶋はパンと手を叩き、彼らの視線を集めた。
「さてさて、議論も白熱してきましたが、本日はここで一度お開きとしましょう。彼らの策謀巡らす殺し合い。それはまだまだ始まったばかりなのですから」
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