キラースペルゲーム

天草一樹

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困惑の一日目

元運営人への質問

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「さっきの話、要するにどういうことだったんでしょうか?」

 大広間で最初の殺人が起こってから幾許かの時がたち、明を含め数人は談話室へと移動していた。
 一方的に橋爪を馬鹿にした架城は、言いたいことを言い終えると一人勝手に部屋を出て行ってしまった。彼女の態度に苛立ったのか、橋爪もそれ以上喋ろうとはせず、厨房にあった食料をごっそりと強奪し自室へ引き上げていった。
 こうして自室に帰る者が現れたことにより佐久間主催の親睦会は実質的に終了。とはいえ、一井と野田の死体をこのままにはしておくわけにもいかない。お互いに監視をしあいながら彼らの服を探り、スペルが書かれたカードを持っていないか探した後――どちらからも見つからなかった――多少の良心(?)が残っているメンバーで二人の遺体を地下の霊安室まで運搬した。
 この運搬作業に参加した者の中には六道も含まれ、彼に話を聞きたいという者がその後談話室へと集結したわけである。
 因みに、親睦会の主催者である佐久間は今も大広間で気絶(死亡?)中。誰一人として生死を確認する者もなく放置されたままである。
 現在談話室には六人ほどが集まり、木製テーブルを囲うようにして椅子に座っていた。その中でも真っ先に口を開いたのは、一井が死亡して以降魂が抜けたように固まっていた神楽耶であった。

「さっきの話っていうのは、具体的にどれのことかな?」

 六道が柔らかな笑みを浮かべて聞き返す。神楽耶はほんの少し顔を赤らめると、

「一井さんのキラースペルについてと、架城さんが言っていた小細工の意味です」

 と告げた。

「正直分からないことだらけなんですけど、一井さんが自ら宣言した『規則無視』というキラースペルは本当に嘘だったんでしょうか? 私としては十分にその可能性もあると思ったのですけど。それから橋爪さんが唱えた『大脳爆発』についても。架城さんの言う小細工って、橋爪さんの唱えたキラースペルが嘘だったことについてですよね。でも確かに私は『大脳爆発』を聞いたのと同時に一井さんが……亡くなるのを見ました。だからどこまで彼女の話が正しかったのかが曖昧なままなんです。敵対関係にある六道さんに聞くのもどうかとは思うんですが、できればまずそこから教えてくれたらなと」
「全然かまわないよ。それに、その問いの中にはこれから聞かれるであろうこともいくつか含まれてるしね。さて、まずはどこから答えようか」

 六道は一度目を閉じ考え込む。そしてすぐに目を開けると、ゆったりとした口調で話し始めた。

「最初は橋爪君が行った『小細工』について話していこうか。実のところ彼のやったことは単純でね。本当のキラースペルを唱えた後に偽のキラースペル――『大脳爆発』を唱えて見せただけなんだ。ただし、偽のスペルを唱えるタイミングを本当のキラースペルに被せるっていう『小細工』はしてたけどね」

 六道の言葉を聞き、神楽耶の左隣に座っていた明は小さく頷いた。

「おそらく可能だろうとは思っていたが、やはりできるのか。キラースペルの発動条件はスペルを実際に唱えることと、それによって起こる現象を明確にイメージすること。ならば、スペルを唱えた数分後に相手が死ぬイメージを持てば、時間差で効果を発揮させることもできる。そういうことだな」
「御名答。誰もこのことに気づかずゲームが終了することもよくあるんだけど、今回は随分とレベルが高いね」

 六道は爽やかな笑みと共に明の言葉を肯定する。
 そのやや上からの態度に明が顔をしかめていると、六道の正面に座っていた鬼道院が唐突に立ち上がった。

「時間差でのスペル使用は有効。実に興味深いことです。もしその話が本当であるのなら、私もスペルの使い道を再度検討する必要があるかもしれませんね。六道さん、貴重なお話を聞かせていただき有難うございました」

 深々と頭を下げると、鬼道院は滑るようにして出口へと向かっていく。
 まだ質問が始まったばかりというのに談話室を出ようとする彼を見て、六道は驚きからかやや目を見開いた。

「いや、礼を言われるほどのことじゃないけれど――他に知りたいことは無いのかい? 聞きたいことがあれば遠慮なく質問してくれて構わないんだよ」
「お気遣い有難うございます。しかし、私としては今、質問すべき内容が他にありません。私のことはお気に為さらず、他の方々の質問に答えてあげてください。それでは、お休みなさい」

 談話室に来てから五分と経たないうちに、鬼道院は部屋を立ち去った。
 まさか本当に時間差でキラースペルが唱えられるかどうかだけを知りたくてここに来たのか。それとも、何か別の目的があり、それを達成したがゆえに部屋を出て行ったのか。
 鬼道院の幽玄とした態度からは、そのどちらであったのかを推し量ることはできない。結果として、残りのメンバーはもやもやとした違和感を引きずることとなった。
 数秒の間、無意味に静かな時間が流れる。
 だがすぐに、この話しづらい雰囲気を元に戻そうと、明の正面に座っている姫宮が明るく続きを促した。

「そ、それで六道さん。『大脳爆発』が偽のキラースペルだったトリックは分かったけど、一井さんの『規則無視』も偽物だったっていうのは本当なの? 私も江美ちゃんと一緒で、十分その可能性があると思ってたんだけど。実際彼の言葉を信じて、私は悲鳴をあげちゃったわけだしさ」

 姫宮は恥ずかしそうにはにかんで見せる。
 可愛いを詰め込んだかのようなその表情に、無意識に頬が緩みそうになる。
 少なくとも神楽耶の目の前で姫宮にデレる姿など見せるわけにはいかない。明はとっさに目をそらして、視界から彼女の姿を追い出した。
 一方明とは違い特に人目をはばかる必要のない六道は、緩んだ笑顔を姫宮に向けた。

「あの状況で斧を向けられたら誰だって悲鳴くらい上げるよ。まして佐久間さんが頭を殴られた後だったんだし、信じるのも無理はないさ。ただ、橋爪君の推理が正しいかはともかく、『規則無視』がブラフだった可能性は非常に高い。ね、宮城君」

 六道は、意外にもこの談話室まで付いてきた最後の人物――宮城濾水に話を振った。
 正義の使者を自称するだけあってか、死体を霊安室まで運ぶのに率先して動いたのがこの男だった。明や六道、鬼道院だけでは、一井ならともかく野田の死体を運ぶのはかなり困難だっただろう。だがそれも、宮城が協力してくれたおかげで比較的スムーズに行うことができた。
 悪を滅するという敵対発言をしていただけに、まさかこの集まりに参加しないだろうと思われていたが、一度部屋に戻り全身に付いた返り血を洗い流すと談話室までやってきた。それも、秋華の一言が効果的だったのか、グレーのランニングウェアを着なおすというおまけつきだ。
 そんな意外な行動をとった宮城だが、談話室についてからの彼の視線は神楽耶に固定され続けていた。どうやら彼女に用があってここまで来たらしい。
 六道に話を促され、宮城はようやくその視線を外した。

「当然だ。爆殺魔の言葉など信用するに値しないが、奴の意見を受け俺は自分の考えを改めた。そしてその結果、やはり『規則無視』などというキラースペルは与えられていないはずだという結論に達した。それと同時に、爆殺魔が唱えた以外の可能性も導き出した」

 どこか窮屈そうに服を引っ張りながら、宮城は続ける。

「『規則無視』が真実であった場合と虚偽であった場合のメリット・デメリット。俺はそれを追求した。
 まずこれが虚偽であった場合。斧男にデメリットは一切ない。斧男の真のスペルは誰にも知れらず、奴が罰されない理由は不明のまま。あの場で偽のスペルを語ることによる不安要素は何もない。メリットは勿論、それを信じた誰かが暴力行為を行い、罰則によって死ぬことだ。
 次にこれが真実であった場合。デメリットとしては、俺のように純粋に鍛えているものが力を発揮できるようになり、斧男の優位性が減ること。俺や斧男のような腕力に優れたものが危険視され、率先して狙われるようになることだ。対してメリットはほぼ皆無。不意打ちを恐れ、ゲームの進行速度が少し早くなるなどの効果はあるだろうが、斧男にとってメリットがあることではない。
 加えて、『規則無視』などというこのゲームでしか使い道のないスペルをわざわざ運営が持たせるメリットもない。
 つまり誰にとっても『規則無視』は虚偽である方が都合がいいということになる」

 体に装備している筋肉量に似合わない論理的思考。先とは違いまともに服を着ているためか、知的にすら見える。
 姫宮は疑問が氷解した晴れやかな顔で、宮城の手を握った。

「広間でも思いましたけど、宮城さんってとても頭が良いんですね! それにすっごく逞しいし、油断してると惚れちゃいそうです。あ、でも、宮城さんは正義の使者ですから私みたいな女は嫌いですよね……。江美ちゃんと違って、私にはこの場所に呼ばれるようなことをした過去が、本当にありますから……」

 『満面の笑みで手を握る』×『泣きそうな声で過去を悔いる』のコンボ技。あざとく計算し尽された彼女のコンボ技を食らって、理性を保っていられる男はごく少数だろう。
 当の宮城はというと、顔を真っ赤に染めながらも、

「貴様が自分の罪を懺悔し、その償いをするのなら……嫌うことなどない」

 と、正義の使者としてぎりぎり体裁を守り切った。
 姫宮はその言葉を聞き、パッと顔を輝かせる。
 このまま放置していると、宮城がどんどん姫宮に取り込まれてしまいそうである。新たにチームが結成されるのを黙って見ているわけにもいかず、明は無理やり言葉をはさんだ。

「それで、お前の思いついた一井の本当の能力は何なんだ。俺は橋爪の推理に八割がた賛成なんだが、それよりもましな考えがあるとでも」
「爆殺魔の案を超えるものではない。が、斧男がルールに縛られず攻撃できた理由なら他にも考えられる。例えば、『物を変身させる』能力。それから斧が館内にないといったのは爆殺魔の勝手な判断。館内に隠されていた可能性だって当然ある。とすれば、『肉体を強化する』類の能力だったかもしれない」

 姫宮との会話を妨げられ、宮城は不快感を滲ませた表情を明に向ける。
 それでも律義に答えてくれたのは、正義の使者としての信条ゆえだろうか。
 再び雰囲気が悪くなる前にと、六道がパンと手を叩いた。

「宮城君、解説ごくろうさま。姫宮さんは納得してくれたみたいだけど、神楽耶さんはどうかな? まだ疑問は残ってるかい?」
「いえ、大丈夫です。納得できました。でもそうなると、結局誰のキラースペルも不明のままってことなんですね。状況的には最初と変わらないままなわけですか」

 神楽耶の言葉を聞き、六道はフルフルと首を横に振る。

「そんなことはないよ。プレイヤーが二人減って残り人数が十一人になった今は、開始時よりチームを組むことへの意義が高まっている。何せもし三人チームを組めれば、その時点でキラースペルを一斉に唱えて自分たち以外の全員を殺せるようになったわけだからね。あ、でも勿論、一井君のスペルみたいに唱えただけじゃ人を殺せないのもあるだろうからさ。そう簡単な話ではないけどね」

 怯えた表情を見せた神楽耶に配慮してか、軽い調子で話をまとめる。
 あまりにもあっさりと二人も死んだため、まだ事態を把握できず緊張感に欠ける者もいる。しかし、六道が言った通り、今の状況はすでにクライマックスになりうる危険性をはらんでいるのである。
 三人まで生き残れるということは、三人チームはできても不思議ではないということ。そして、三人揃えば最大九つのキラースペルを唱えることができる。万が一にも橋爪のように一撃必殺のスペルを持つものが三人手を組めば、その時点でゲームが終了するといっても過言ではないのだ。
 神楽耶や姫宮はそのことに気づいていなかったらしく、今更ながら表情に緊張の色が見えだした。
 宮城はそもそも全員敵だと考えているためか、焦った様子は全くない。六道は言うに及ばず、明もさして焦りを感じてはいなかった。
 腕がプルプルと振るえだした神楽耶の手を握り、明は落ち着くよう囁きかける。

「恐れるな。六道の言葉は事実だが、三人組ができる心配はまずない。最初にも言ったが、仲間を作るという選択はリスクが大きすぎる。それをこんな序盤から行える奴などまずいない。仮に運よく仲間を作れても、橋爪のスペルのように一撃で相手を殺せるスペル持ちが揃うことなど絶対ない。このゲームで即死系のスペルを与えられた奴は、多くとも四人だろうからな」
「え、どうしてそんなことが言えるんですか?」

 驚きから目を見開きつつも、神楽耶が小声で問い返す。

「現状見る限り、最低でも八人・・は即死系のキラースペルを持っていない。それに俺がまだ判断のついていない四人全員が、即死系のキラースペルを持っているとも思えない。加えてこのゲームは娯楽として機能している。即死系のスペル持ちを多くしてすぐにゲームが終わるような展開は望まれていないはずだ。その二つを合わせて考えると、このゲームには多くとも四人しか即死系のスペルを持った奴はいない。つまり、約三パーセント以下の確率でしか即死チームは作れないことになる。気にする必要はないってことだ」
「……それはあくまで、東郷さんの見立てが当たってた場合の話ですよね」
「そうだな」
「……分かりました。信じます」

 神楽耶の震えが止まったのを見て、明は彼女の手を放す。
 それをにやにやと見つめていた六道は「終わったかな?」と小さく笑いかけた。

「神楽耶さんの不安も解消されたみたいだし、次の質問をしてくれて構わないよ」
「じゃあ、私からいいですかー」

 明と神楽耶の密談を冷めた目で見ていた姫宮が口を開く。

「こんなこと聞いちゃうのってルール違反な気もするんですけど、もし必勝法とか、裏技とか知ってたら教えてくれませんか? 私には江美ちゃんみたいに頼れるパートナーがいないし、六道さんの話を聞いて不安になったまんまなんです。やっぱりこんなところで死ぬなんて絶対嫌だし、ぜひ教えて欲しいんですけど。だめ、ですか?」

 溢れんばかりの涙を瞳にため、せつなげな表情を浮かべる姫宮。
 これが演技だとわかっているにも関わらず、つい同情して優しい声をかけたくなってしまう。
 明が無心を心がける中、六道は困った表情で頭をかくと、「ゴメンね。さすがに必勝はないかな」と否定の言葉を発した。

「このゲームを勝ち抜いた人たちの戦い方を見てきたわけだから、必勝法とは言えずとも勝つ人の傾向ぐらいは教えられるけど――やっぱり運の要素が強いんだよ。この人は勝ちそうだなって人に限って、最初の方で死んだり。特に何もしてないのに周りが勝手に殺し合ったせいで生き残ったり。少なくとも必勝法はなかったよ。裏技っていうほどのものも特にはないし……」
「じゃあ勝つ人の傾向だけでいいので教えてください! もしかしたら何かいい考えが思い浮かぶかもしれないし! ここで話すとなると長くなってみんなに迷惑かかると思いますし、後で六道さんの部屋で教えてください! いいですよね?」
「勿論構わないけど……」

 少し慌てた様子で六道は周囲を見回す。
 姫宮の言っていることは、実質的にチームを組もうと持ち掛けているようなもの。ただでさえ元運営人ということで殺害順位が上がっている今、六道としてはこれ以上目立ちたくはないと考えているのだろう。
 幾度か明たちの顔を交互に見た後、すぐにキラースペルを唱える者がいないとみて取り、ほっと息を吐く。しかしまだ安心できないと思っているのか、一旦話を変えようと再び質問を募った。

「それじゃあ姫宮さんの疑問は後にするとして、他に質問は何かあるかな?」

 六道の思惑に乗る形で、明はすぐに「質問だ」と口を開いた。

「広間で一井と野田の死体を運んだ時、本来なら血まみれになっているはずの絨毯が完全に乾いていた。薄々気づいてはいたが、この血命館はキラースペルによって創られたものがいくつかあるんだろ。血を吸う絨毯以外に、どんな特殊物質があるのか教えてくれ」

 話がそれたことが嬉しかったのだろう。六道は爽やかな笑みを取り戻し、愛想よく答えた。

「明君は目ざといね。元から絨毯が真っ赤だから、意外と気づかない人も多くいるんだけどね。さて、明君の着眼点は非常に良いんだけれど、実のところこの建物にある特殊物質は絨毯含めて二つしかない。もしかしたら予想はついているだろうけど、絨毯以外のもう一つの特殊物質は、血命館それ自体だ。この館の壁は見た目に反して異常な耐久力を持っている。具体的にどれほどかってのは、僕も知らないんだけどね。取り敢えずダイナマイトでも傷一つつかなかったのは実際に見たかな。それから、館内にいくつかカメラが設置されているのを見ただろうけど、実のところあれは全部ただの玩具だ。館内の映像・音声はすべて館中に埋め込まれた隠しカメラから送られている。だからカメラの死角を利用して殺人を起こすっていうのは実質無理なんだよね。ああ因みに、その隠しカメラを壁に埋め込むのにもスペルが使われたらしいよ」

 監視カメラがどこにあるのかわからない以上、反則行為は即処刑に繋がりかねない。これを知らずに反則行為を行い処刑される者も出そうだが、喜多嶋からしたら質問されなかったから答えなかった、というところだろうか。まあ反則をする気がない者には関係ないことである。
 明は続けて、もう一つ疑問を投げかけた。

「現時点での俺からの質問は最後になるが、そもそもどうして俺たちはキラースペルなんて言う超能力を使うことができる。それに、他者のキラースペルを知ることでそのキラースペルを使えるようになるのなら、なぜ俺たちは『大脳爆発』や『空中浮遊』を使用できないんだ」
「やっぱりそこは気になるよね。でも、そうだな、その答えはまた今度――僕が数日後も生きてたら教えてあげようかな」

 完全に普段の調子を取り戻した六道は、飄々と答えをはぐらかす。
 明は眉間にしわを寄せ、六道に詰め寄った。

「ふざけるな。数日後もお前が生きている保証なんてないだろ。大体どんな質問にも答えるといったのはお前の方だろう」
「それはその通りだよ。でもさ、夜もだいぶ更けてきたし、この話をしていると連絡通路の閉鎖時間を過ぎちゃうかもしれないから。何より、荒唐無稽すぎて言っても理解できないだろうしね」
「それはお前が決めることじゃ――」

 さらに追及しようとした明を制し、六道は首を横に振る。

「質問した明君自身が分かってると思うけど、その質問は今後勝ち抜くために絶対に必要なことではないよね。今の僕から言えるのは、ここにいるプレイヤーが使えるキラースペルは、この館にいる十三人の参加者がそれぞれ持っているキラースペルだけ、ってことだ。そしてそれさえ分かっていれば、特に問題はないはずだよ」

 断定口調で話を締める。
 図書室のとき同様、話す気はないという強い意志を感じさせる雰囲気。明は渋々ながら口を閉じ、椅子に深く腰掛けた。
 明のその様子を見て六道はにっこり笑うと、再び全員を見回した。

「さて、他に何か質問のある人はいるかな。ないならそろそろお開きにしたいけど――いいよ、宮城君。質問は何かな」

 真っすぐ垂直に手をあげ、質問アピールをした宮城を六道が指名する。
 宮城はゆっくりと手を下ろすと、正義に満ちた(殺意のこもった)目で六道を真っすぐ見据えた。

「最後に俺から質問だ。殺し合いを楽しんで鑑賞するなどという性根の腐った悪人たち――もといこのゲームのスポンサーは、一体どこのどいつだ。どうせ口止めをされているだろうが、答えられるなら答えてもらおう」

 正義の使者というよりは、血に飢えた殺人鬼の如き瞳。その視線を真っ向から受けた六道は、クスリとおかしそうに笑うと、言った。

「教えるのは構わないけど、後悔しないでね。
このゲームのスポンサーは、日本を牛耳る四大財閥――金光・如月・八雲・天上院――と、その陰に潜む諜報機関『杉並』だ。そんなわけだから、少し大げさに言えば『日本そのもの』、が君が敵対しようとしている悪の組織だよ。だから宮城君。もし君が正義の使者としてこのゲームの主催者に制裁を加えようと思っているのなら、十分に覚悟はしておいた方がいいと思うよ。勿論、死ぬ覚悟をね」
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