キラースペルゲーム

天草一樹

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困惑の一日目

親睦会への誘い

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「やあやあ東郷君! それに神楽耶さん! 二人ともいつの間に仲良くなったんだい! 私も誘ってくれればよかったのに!」
「……何しに来た」

 鬼道院と遭遇後、二人は明の自室に戻り今後の作戦会議を開いていた。
 そこから数時間は誰も来ず、六道の予測も外れたのだと話し合っていたころ。唐突に扉をたたく音がしたと思うと、佐久間が意気揚々と部屋の中に入ってきた。
 あからさまに敵意を含んだ明の視線を気にすることもなく、佐久間は堂々と備え付けのソファに座り、十年来の友人のように話しかけてくる。

「何しに来たなんて決まってるじゃないか。私は最初に言った通りこの短い期間でも、少しでも君たちと仲良く過ごしたいと思ってるんだ! だから親睦を深めようとみんなの部屋を見て回っているわけだよ! 特に神楽耶さんとはずっと前から話したいと思ってたんだ! 部屋を訪ねたとき反応がなかったから嫌われているのかと思ったけど、どうやらそうじゃなかったようだね。よかった! これからどうぞ宜しく、神楽耶さん!」
「ど、どうも……」

 佐久間の流れるような語りに圧倒され、神楽耶が目を白黒させながら答える。
 言葉通り仲良くしたいのか、明たちを害そうとする気配は一切ない。だが佐久間もキラースペルゲーム参加者である以上、これは勿論こちらを油断させる演技と考えるべきだろう。
 明は佐久間の言葉を無視し、再度きつい口調で問いかけた。

「一体何しに来たんだ。もし用がないならさっさと出ていけ」

 佐久間は大袈裟に体を仰け反らせながらも、笑顔で答える。

「そんなことは言わないでくれよ! こんな冷酷非道な殺人ゲームを戦い抜かないといけないんだ。友情の花の一つや二つ作らないでは勝ち残るなんて厳しすぎる! 仮に生き残ったとしても、その後の余生を荒んだ気持ちで過ごさなくてはならなくなるじゃないか! 私はそんな風にはなりたくないし、私以外の誰かにもそんな思いをしてほしくない! 相手を殺すのにも、そして殺されるのにも、すがすがしい気持ちを抱いたままであるに越したことはないじゃないか!」
「俺は人を殺した後にすがすがしい気持ちでいられるような狂人になりたくはないがな」

 皮肉気な明の言葉にも、佐久間は嬉しそうな笑顔を崩さない。それどころか、一層笑みを深くして語りだした。

「東郷君! 君はなんて素敵な人なんだ! 確かに、確かにその通りだよ! 人を殺すというのはどんな理由があっても決して許されることじゃない! 自己を防衛するためとはいえ人を殺したのならその人の分まで背負って生きる責任が生じるんだ! だから人を殺した後にすがすがしい気持ちでいるなんてあってはならないことじゃないか! ああ、私はなんて愚かなことを言ってしまったのだろう……。みんなと仲良くなりたいという思いが真実だとはいえ、あまりにも身勝手で軽はずみな発言をしてしまった……。東郷君。愚かなる私はどう責任を取ればいいだろうか……」

 つい数秒前まで満面の笑みを浮かべていたはずなのに、今はすぐにでも自殺してしまいそうなほど悲壮な表情に変わっている。
 あまりの佐久間の変わりように、明も神楽耶もどう声をかけていいかわからず引きつった表情で彼を見つめていた。

 佐久間喜一郎――百八十を超える長身を上下グレーのスーツで包んだ優男。かっこいいというよりは美しいといったタイプのイケメンであり、洗練された動きから漫画に登場する英国貴族のような印象を受ける。だが、話口調がいちいち大袈裟すぎる上に、行動の一つ一つが無駄に芝居がかっている。そのせいで滑稽な道化師のようなイメージが先に立ってしまい、彼の優雅さをすべて消し去っていた。

 今も自分の魅力を限りなくゼロにする佐久間の職人芸が炸裂中。取り敢えずこのまま会話をしていてもペースを乱されるばかりで何も益がないと考え、明は強引に話を戻すことにした。

「責任を取りたいなら今すぐこの部屋から出ていけ。俺たちは愚か者と無駄話をしていられるほど暇じゃないんだ」
「おお、これはこれは手厳しい! それでは無駄話とならないよう、そろそろ本題を話すとしましょうか」

 悲壮な表情から一転、真剣でまっすぐな瞳になり佐久間は言った。

「実は今、キラースペルゲーム参加者の皆さんに大広間に集まっていただき、軽い自己紹介をしようと提案しているのですよ。こうして一室ずつ尋ねれば誰が誰なのか分かるでしょうが、それでは手間がかかりますからね。名前と顔くらいは一致させておいた方が誰にとっても得でしょうし、私としても仲良くなれる機会を逃したくはないのです。ですからお二人にも是非親睦会に参加してほしいのですが、どうでしょうか?」

 自己紹介を兼ねた親睦会(?)への誘い。
 六道が予測していた通りの展開に驚き、明と神楽耶は顔を見合わせ一瞬息をのんだ。
 二人の反応の意味が分からず一人きょとんとする佐久間。
 明は眉間にしわを寄せつつ、佐久間に尋ねた。

「その親睦会はお前が考えたものなのか? それとも別に発案者がいたりするのか?」
「いえ、私が考えたことですよ。残念なことに私以外のゲーム参加者は照れ屋ばかりみたいですので。親睦会を開こうと提案してくれる社交的な方は現れてくれませんでした」

 質問の意図が分からないながらも佐久間は返事を返す。
 特に嘘をついているようには見えない。どうやら、六道が裏で何か仕掛けたわけではないらしい。
 明は頭を切り替え、今の状況を尋ねた。

「それで、今のところ何人に話しかけて、どれだけ了解をもらえたんだ」
「知っているかもしれませんが私の部屋は一号室にあるのです。それゆえ二号室から順に訪ねて回っているので、東郷君と神楽耶さんで八人目ということになりますね。ちなみに神楽耶さん以外は皆さん自室にいて、全員私の誘いを受け入れてくれましたよ! やはり誰もが本心では仲良くすることを望んでいるようですね!」

 目を輝かせて佐久間は叫ぶ。
 すでに分かっていることではあるが、いちいち彼の反応に付き合っていると身が持たない。
 明は佐久間の言葉だけを脳内にとどめ、提案を呑むかどうか考え始めた。

 ――佐久間の言うように全員が仲良くしたいと思って提案を呑んだとは思えない。とすると、それぞれ誘いに乗るメリットを見つけたということ。それが何かは分からないから迂闊に誘いに乗るのは危険だが……参加しないで情報を得られない方がまずいだろうか。

 数十秒の黙考の後、明は佐久間の提案を受けることにした。

「他のプレイヤーも参加するというなら断る理由はないな。俺も参加しよう。神楽耶、お前はどうする?」
「もちろん私も参加しますよ」

 明の急な問いかけに慌てることなく神楽耶が答える。
これまでの作戦会議から、明が一方的に選択権を持っていると悟らせないよう、神楽耶にも意見を求めることが話し合われていた。
 まあ、二人の関係を全く疑っていない様子の佐久間相手に、そんなことをする必要があったのかは疑問だが。
 望んでいた通りの二人の答えに、佐久間は一層目を輝かせ喜びの声を上げた。

「そうですか、二人も参加してくれますか! これはいよいよ楽しい親睦会が開けそうです! それでは残りのプレイヤーにも声をかけてきますので、お二人は先に大広間に向かっていてください。では、また後でお会いしましょう!」

 爽やかな笑顔を振りまき、疾風のごとく駆け去っていく。
 残された二人はしばらく呆然としていたが、

「……取り敢えず行くか」
「……そうですね」

 と呟き合い、大広間に向かうことにした。
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