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困惑の一日目
地下室と温室の調査
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「ああ、ここが温室みたいですね。それにこっちには地下へ繋がる階段もあります。ここも館内図と間違ってはいないみたいですね」
「……そうだな」
神楽耶の声により、明は深い思考の中から自分を取り戻した。
温室と、地下へ繋がる階段。
それらは連絡通路のちょうど中間地点にあり、別館から見て右手側に温室が。左手に階段が存在した。
喜多嶋の話によれば、階段を下った先の地下には霊安室と冷凍庫があったはず。正直そちらはあまり見るものも多くなさそうなので、まずは秋華も入っていた温室から調べるべきだろう。
そう考え、ほとんど迷うこともなく明は温室を選択する。
温室に入ると同時に、二人は揃って感嘆の声を上げた。
「これは、中々凄いな。随分と変わった植物がたくさん……」
「そ、そうですね……。あまり一般では見ないような、ちょっと圧迫感の強い植物が多いというか……。あ、ちゃんとそれぞれ名前や特徴が書いてありますね。シッサス、ウツボカズラ、キンメモウソウチク、ブッシュカン、ギンリョウソウ、マミラリア――」
わざわざ名前を呼んで一つずつ見て回る神楽耶。もしかしたら名前を読み上げるのが癖なのかもしれない。
それはともかく、かなり驚きの光景。想像していた温室よりもずっと広く、何より天井が高い。あくまで目測だが、おそらく十五メートル――マンション五階分の高さはあるんじゃないだろうか。その高さに見合うよう、十メートル近い植物まで栽培されている。
一見人が隠れられるようなスペースは見当たらないが、木の上で待ち伏せされていたらそうそう気付かないだろう。まあ、このゲームに限って言うならそこは問題じゃない。問題なのは、十メートル以上の高さまであれば墜落死を狙える――要は、『空中浮遊』のような高さを必要とするキラースペルがかなり強力に働くということ。俺のキラースペルや神楽耶のキラースペルとは違い、うまくやれば一度に複数人殺すこともできるかもしれない。いや、俺のキラースペルでも……。
明は再び思考の世界に没頭する。
そんな明に気づいた様子はなく、神楽耶はしばらくの間興味深そうに栽培されている植物を見て回っていた。
温室には時計がないので正確な時間は分からない。おそらく十分近くがたったころ、一通り植物を見終わったのか神楽耶が明の肩を叩いた。
「あの、何か考え事をしているみたいですけど、そろそろ移動しませんか? まだ他にも見て回るところが残ってますし、一か所にあまり時間をかけるのは良くないと思うのですが」
特に反論する必要も無い正論。
明は黙って頷くと、温室を出て真向かいにある地下階段へと歩いていった。
地下へと通じる階段は狭く、人一人がちょうど通れる幅しかない。自然と明が前を歩き、神楽耶がその後ろに付き従った。
地下にあるのが冷凍庫と霊安室だからか、階段を下っていくほど冷気が強くなっていく。数分留まるくらいなら問題はないが、もし何時間もいるのならば防寒着を着るなどしっかり準備をしないと厳しそうだ。
階段の段数を数える声を背で受け止めながら、明はそんなことを考えた。
「……十八、十九、二十!」
二十という声が聞こえるのと同時に、階段を下りきる。
吐く息が白くなるくらい寒い地下室。まず目に映ったのは、何も物が置かれていない殺風景な四角い部屋。そして、奥に付けられた二つの鉄扉だった。
鈍色の輝きを放つ武骨な鉄扉は、それぞれ離れて左右に存在している。向かって右手の鉄扉の上には「冷凍庫」と書かれたプレートが。左手の鉄扉の上には「霊安室」と書かれたプレートが張り付けられている。
特に深く考えず、まずは冷凍庫と書かれた鉄扉を手前に引いて開け、中を覗き込む。開けた瞬間、更なる冷気が二人を襲い、条件反射的に体が震えた。これは早く出たほうがいいと思いざっと中を見回すと、無数に存在する発泡スチロールの白い箱が視界に映った。
近くにあった箱を開けてみると、中には肉や魚などが所狭しと詰められている。神楽耶も同じように箱を開けては、「うわ、美味しそうなお肉がたくさん」などと呟いていた。
明らかに十日分以上の食料があるように見えるが、何のためにここまで用意したのか。少し気になったものの、寒さのせいでうまく思考がまとまらず、明は一旦外に逃げ出した。
冷凍庫から出る直前、その扉にカギが付いているかどうかをチェックする。有難いことに、鍵は存在していなかった。
「はあ、本当にここは寒いですね。ささっと霊安室も調べて、早く上に戻りましょう」
冷凍庫から出るなり、神楽耶は両手で肩を抱きつつ言った。雪国に住んでいるかのような白い肌をしている割に、それほど寒さに強くはないらしい。どちらかと言うとお嬢様として、あまり外に出ることがなかったが故の白さなのだろう。
まあ、ここが異常に寒くて早く出て行きたいというのは明も同じ。
軽く頷き返すと、早歩きで霊安室の前に移動し扉を開けた。
霊安室は冷凍庫ほどの寒さはなかった。が、部屋を照らす蛍光灯がなぜかブルーライトで、純粋な冷気とは違う霊気が漂っていそうな雰囲気。背中がぞくぞくするのを堪えながら中に入ると、そこには整然と並べられた十基の棺が置かれていた。
ブルーライトのせいで分かりにくいが、真っ白な直方体の棺。日本でよく見かける木製の棺ではなく、石で作られた石棺。勿論人が入れるほどの大きさであり、一人で動かすには少々骨が折れる重さがあった。
どの石棺も一応動くことと、中に何も入っていないことを確認する。それからもう一度部屋の中を見回し、他に何も見当たらないことを確認してから明は言った。
「よし、地下はこれぐらいで十分だろ。連絡通路に戻って、次は本館を見て回るぞ」
「分かりました」
ようやく地下の寒さから解放されることに安堵したのか、ホッとした表情で神楽耶は霊安室を出る。明も神楽耶について部屋の外に向かうが、ここでも部屋を出る直前に扉の前で立ち止まった。
扉の幅と、石棺の横幅。足を使ってその長さを比較してみたところ、わずかではあるが扉の幅の方が長いことが分かった。どうやら、出そうと思えば霊安室から棺を出すことは可能らしい。
念のためそのことを頭の片隅で記憶しつつ、明は階段を上り連絡通路へと戻った。
「……そうだな」
神楽耶の声により、明は深い思考の中から自分を取り戻した。
温室と、地下へ繋がる階段。
それらは連絡通路のちょうど中間地点にあり、別館から見て右手側に温室が。左手に階段が存在した。
喜多嶋の話によれば、階段を下った先の地下には霊安室と冷凍庫があったはず。正直そちらはあまり見るものも多くなさそうなので、まずは秋華も入っていた温室から調べるべきだろう。
そう考え、ほとんど迷うこともなく明は温室を選択する。
温室に入ると同時に、二人は揃って感嘆の声を上げた。
「これは、中々凄いな。随分と変わった植物がたくさん……」
「そ、そうですね……。あまり一般では見ないような、ちょっと圧迫感の強い植物が多いというか……。あ、ちゃんとそれぞれ名前や特徴が書いてありますね。シッサス、ウツボカズラ、キンメモウソウチク、ブッシュカン、ギンリョウソウ、マミラリア――」
わざわざ名前を呼んで一つずつ見て回る神楽耶。もしかしたら名前を読み上げるのが癖なのかもしれない。
それはともかく、かなり驚きの光景。想像していた温室よりもずっと広く、何より天井が高い。あくまで目測だが、おそらく十五メートル――マンション五階分の高さはあるんじゃないだろうか。その高さに見合うよう、十メートル近い植物まで栽培されている。
一見人が隠れられるようなスペースは見当たらないが、木の上で待ち伏せされていたらそうそう気付かないだろう。まあ、このゲームに限って言うならそこは問題じゃない。問題なのは、十メートル以上の高さまであれば墜落死を狙える――要は、『空中浮遊』のような高さを必要とするキラースペルがかなり強力に働くということ。俺のキラースペルや神楽耶のキラースペルとは違い、うまくやれば一度に複数人殺すこともできるかもしれない。いや、俺のキラースペルでも……。
明は再び思考の世界に没頭する。
そんな明に気づいた様子はなく、神楽耶はしばらくの間興味深そうに栽培されている植物を見て回っていた。
温室には時計がないので正確な時間は分からない。おそらく十分近くがたったころ、一通り植物を見終わったのか神楽耶が明の肩を叩いた。
「あの、何か考え事をしているみたいですけど、そろそろ移動しませんか? まだ他にも見て回るところが残ってますし、一か所にあまり時間をかけるのは良くないと思うのですが」
特に反論する必要も無い正論。
明は黙って頷くと、温室を出て真向かいにある地下階段へと歩いていった。
地下へと通じる階段は狭く、人一人がちょうど通れる幅しかない。自然と明が前を歩き、神楽耶がその後ろに付き従った。
地下にあるのが冷凍庫と霊安室だからか、階段を下っていくほど冷気が強くなっていく。数分留まるくらいなら問題はないが、もし何時間もいるのならば防寒着を着るなどしっかり準備をしないと厳しそうだ。
階段の段数を数える声を背で受け止めながら、明はそんなことを考えた。
「……十八、十九、二十!」
二十という声が聞こえるのと同時に、階段を下りきる。
吐く息が白くなるくらい寒い地下室。まず目に映ったのは、何も物が置かれていない殺風景な四角い部屋。そして、奥に付けられた二つの鉄扉だった。
鈍色の輝きを放つ武骨な鉄扉は、それぞれ離れて左右に存在している。向かって右手の鉄扉の上には「冷凍庫」と書かれたプレートが。左手の鉄扉の上には「霊安室」と書かれたプレートが張り付けられている。
特に深く考えず、まずは冷凍庫と書かれた鉄扉を手前に引いて開け、中を覗き込む。開けた瞬間、更なる冷気が二人を襲い、条件反射的に体が震えた。これは早く出たほうがいいと思いざっと中を見回すと、無数に存在する発泡スチロールの白い箱が視界に映った。
近くにあった箱を開けてみると、中には肉や魚などが所狭しと詰められている。神楽耶も同じように箱を開けては、「うわ、美味しそうなお肉がたくさん」などと呟いていた。
明らかに十日分以上の食料があるように見えるが、何のためにここまで用意したのか。少し気になったものの、寒さのせいでうまく思考がまとまらず、明は一旦外に逃げ出した。
冷凍庫から出る直前、その扉にカギが付いているかどうかをチェックする。有難いことに、鍵は存在していなかった。
「はあ、本当にここは寒いですね。ささっと霊安室も調べて、早く上に戻りましょう」
冷凍庫から出るなり、神楽耶は両手で肩を抱きつつ言った。雪国に住んでいるかのような白い肌をしている割に、それほど寒さに強くはないらしい。どちらかと言うとお嬢様として、あまり外に出ることがなかったが故の白さなのだろう。
まあ、ここが異常に寒くて早く出て行きたいというのは明も同じ。
軽く頷き返すと、早歩きで霊安室の前に移動し扉を開けた。
霊安室は冷凍庫ほどの寒さはなかった。が、部屋を照らす蛍光灯がなぜかブルーライトで、純粋な冷気とは違う霊気が漂っていそうな雰囲気。背中がぞくぞくするのを堪えながら中に入ると、そこには整然と並べられた十基の棺が置かれていた。
ブルーライトのせいで分かりにくいが、真っ白な直方体の棺。日本でよく見かける木製の棺ではなく、石で作られた石棺。勿論人が入れるほどの大きさであり、一人で動かすには少々骨が折れる重さがあった。
どの石棺も一応動くことと、中に何も入っていないことを確認する。それからもう一度部屋の中を見回し、他に何も見当たらないことを確認してから明は言った。
「よし、地下はこれぐらいで十分だろ。連絡通路に戻って、次は本館を見て回るぞ」
「分かりました」
ようやく地下の寒さから解放されることに安堵したのか、ホッとした表情で神楽耶は霊安室を出る。明も神楽耶について部屋の外に向かうが、ここでも部屋を出る直前に扉の前で立ち止まった。
扉の幅と、石棺の横幅。足を使ってその長さを比較してみたところ、わずかではあるが扉の幅の方が長いことが分かった。どうやら、出そうと思えば霊安室から棺を出すことは可能らしい。
念のためそのことを頭の片隅で記憶しつつ、明は階段を上り連絡通路へと戻った。
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