キラースペルゲーム

天草一樹

文字の大きさ
上 下
8 / 98
困惑の一日目

地下室と温室の調査

しおりを挟む
「ああ、ここが温室みたいですね。それにこっちには地下へ繋がる階段もあります。ここも館内図と間違ってはいないみたいですね」
「……そうだな」

 神楽耶の声により、明は深い思考の中から自分を取り戻した。
 温室と、地下へ繋がる階段。
 それらは連絡通路のちょうど中間地点にあり、別館から見て右手側に温室が。左手に階段が存在した。





 喜多嶋の話によれば、階段を下った先の地下には霊安室と冷凍庫があったはず。正直そちらはあまり見るものも多くなさそうなので、まずは秋華も入っていた温室から調べるべきだろう。
 そう考え、ほとんど迷うこともなく明は温室を選択する。
 温室に入ると同時に、二人は揃って感嘆の声を上げた。

「これは、中々凄いな。随分と変わった植物がたくさん……」
「そ、そうですね……。あまり一般では見ないような、ちょっと圧迫感の強い植物が多いというか……。あ、ちゃんとそれぞれ名前や特徴が書いてありますね。シッサス、ウツボカズラ、キンメモウソウチク、ブッシュカン、ギンリョウソウ、マミラリア――」

 わざわざ名前を呼んで一つずつ見て回る神楽耶。もしかしたら名前を読み上げるのが癖なのかもしれない。
 それはともかく、かなり驚きの光景。想像していた温室よりもずっと広く、何より天井が高い。あくまで目測だが、おそらく十五メートル――マンション五階分の高さはあるんじゃないだろうか。その高さに見合うよう、十メートル近い植物まで栽培されている。
 一見人が隠れられるようなスペースは見当たらないが、木の上で待ち伏せされていたらそうそう気付かないだろう。まあ、このゲームに限って言うならそこは問題じゃない。問題なのは、十メートル以上の高さまであれば墜落死を狙える――要は、『空中浮遊』のような高さを必要とするキラースペルがかなり強力に働くということ。俺のキラースペルや神楽耶のキラースペルとは違い、うまくやれば一度に複数人殺すこともできるかもしれない。いや、俺のキラースペルでも……。
 明は再び思考の世界に没頭する。
 そんな明に気づいた様子はなく、神楽耶はしばらくの間興味深そうに栽培されている植物を見て回っていた。
 温室には時計がないので正確な時間は分からない。おそらく十分近くがたったころ、一通り植物を見終わったのか神楽耶が明の肩を叩いた。

「あの、何か考え事をしているみたいですけど、そろそろ移動しませんか? まだ他にも見て回るところが残ってますし、一か所にあまり時間をかけるのは良くないと思うのですが」

 特に反論する必要も無い正論。
 明は黙って頷くと、温室を出て真向かいにある地下階段へと歩いていった。
 地下へと通じる階段は狭く、人一人がちょうど通れる幅しかない。自然と明が前を歩き、神楽耶がその後ろに付き従った。
 地下にあるのが冷凍庫と霊安室だからか、階段を下っていくほど冷気が強くなっていく。数分留まるくらいなら問題はないが、もし何時間もいるのならば防寒着を着るなどしっかり準備をしないと厳しそうだ。
 階段の段数を数える声を背で受け止めながら、明はそんなことを考えた。

「……十八、十九、二十!」

 二十という声が聞こえるのと同時に、階段を下りきる。
 吐く息が白くなるくらい寒い地下室。まず目に映ったのは、何も物が置かれていない殺風景な四角い部屋。そして、奥に付けられた二つの鉄扉だった。
 鈍色の輝きを放つ武骨な鉄扉は、それぞれ離れて左右に存在している。向かって右手の鉄扉の上には「冷凍庫」と書かれたプレートが。左手の鉄扉の上には「霊安室」と書かれたプレートが張り付けられている。





 特に深く考えず、まずは冷凍庫と書かれた鉄扉を手前に引いて開け、中を覗き込む。開けた瞬間、更なる冷気が二人を襲い、条件反射的に体が震えた。これは早く出たほうがいいと思いざっと中を見回すと、無数に存在する発泡スチロールの白い箱が視界に映った。
 近くにあった箱を開けてみると、中には肉や魚などが所狭しと詰められている。神楽耶も同じように箱を開けては、「うわ、美味しそうなお肉がたくさん」などと呟いていた。
 明らかに十日分以上の食料があるように見えるが、何のためにここまで用意したのか。少し気になったものの、寒さのせいでうまく思考がまとまらず、明は一旦外に逃げ出した。
 冷凍庫から出る直前、その扉にカギが付いているかどうかをチェックする。有難いことに、鍵は存在していなかった。

「はあ、本当にここは寒いですね。ささっと霊安室も調べて、早く上に戻りましょう」

 冷凍庫から出るなり、神楽耶は両手で肩を抱きつつ言った。雪国に住んでいるかのような白い肌をしている割に、それほど寒さに強くはないらしい。どちらかと言うとお嬢様として、あまり外に出ることがなかったが故の白さなのだろう。
 まあ、ここが異常に寒くて早く出て行きたいというのは明も同じ。
 軽く頷き返すと、早歩きで霊安室の前に移動し扉を開けた。
 霊安室は冷凍庫ほどの寒さはなかった。が、部屋を照らす蛍光灯がなぜかブルーライトで、純粋な冷気とは違う霊気が漂っていそうな雰囲気。背中がぞくぞくするのを堪えながら中に入ると、そこには整然と並べられた十基の棺が置かれていた。
 ブルーライトのせいで分かりにくいが、真っ白な直方体の棺。日本でよく見かける木製の棺ではなく、石で作られた石棺。勿論人が入れるほどの大きさであり、一人で動かすには少々骨が折れる重さがあった。
 どの石棺も一応動くことと、中に何も入っていないことを確認する。それからもう一度部屋の中を見回し、他に何も見当たらないことを確認してから明は言った。

「よし、地下はこれぐらいで十分だろ。連絡通路に戻って、次は本館を見て回るぞ」
「分かりました」

 ようやく地下の寒さから解放されることに安堵したのか、ホッとした表情で神楽耶は霊安室を出る。明も神楽耶について部屋の外に向かうが、ここでも部屋を出る直前に扉の前で立ち止まった。
 扉の幅と、石棺の横幅。足を使ってその長さを比較してみたところ、わずかではあるが扉の幅の方が長いことが分かった。どうやら、出そうと思えば霊安室から棺を出すことは可能らしい。
 念のためそのことを頭の片隅で記憶しつつ、明は階段を上り連絡通路へと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話

本見りん
ミステリー
交通事故に遭った沙良が目を覚ますと、そこには婚約者の拓人が居た。 一年前の交通事故で沙良は記憶を失い、今は彼と結婚しているという。 しかし今の沙良にはこの一年の記憶がない。 そして、彼女が記憶を失う交通事故の前に見たものは……。 『○曜○イド劇場』風、ミステリーとサスペンスです。 最後のやり取りはお約束の断崖絶壁の海に行きたかったのですが、海の公園辺りになっています。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

処理中です...