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最終話:後日談
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結論から言うと、犯人は水谷洋だった。
あの後俺たちは全ての部屋の時計をリビングに集め、その時間を見比べてみた。案の定一つの時計だけが三十秒近くずれており、それを俺が発見した時点で、突然水谷が自白を始めたのだ。
俺の推理通り、飯島の部屋を訪れた後、水谷の部屋にやってきた金光は、部屋に入って時計を見るなり突然パニック状態に陥ったらしい。水谷は、そうして完全に隙だらけになった金光を見て、ついやってしまったのだと打ち明けた。
もちろん他にもいろいろと理由はあったようだが、要するに、殺害するに十分過ぎる舞台が用意されてしまったことこそが、金光殺害の一番の原因であるようだ。
水谷が自白後、自首すると言ったので、警察に話す内容を全員で考え(彰子にも強制した)、話がまとまった段階で彰子の携帯を使い警察に電話。現在は山荘で待機状態となっている。
俺は山荘から出てすぐのところで横になり、星がいくつか瞬く以外真っ暗になった空を見上げていた。冬の山は寒い。横になったはいいが、すぐに山荘に戻りたくなった。
「あの、少し聞いてもいいでしょうか」
突然頭上から降ってわいた声に、驚きながら体を起こすと、涼森が立っていた。
「もちろんいいけど。何?」
デジャビュを感じながらも快く頷く。俺が頷いたのを確認すると、涼森は俺の横に腰を下ろした。
「きれいな夜空ですね」
「そうだね、さっきまでの事件が嘘のようだ」
俺が笑いながら返すと、涼森は突然、
「すみませんでした」
と謝ってきた。俺がやや呆然としながら涼森を見ていると、涼森は俺を見つめながら話し始めた。
「私はずっと日暮さんのことを疑っていたんです」
「俺を?」
「はい。あなたの行動は私にはとても怪しく見えたので」
俺は姿勢を正して、涼森のほうを向く。
「なんで、そう思ったの」
「……私は日暮さんの次にこの山荘にやってきました。もちろんその時は、金光のほかに少し陰気で話しかけづらそうな人がいるなぁ、と思っただけでした」
俺自身忘れかけてたけど、クマのせいでやっぱり他の人には陰気だと思われてたんだなぁ。そんな俺の感慨に当然気づくことなく、涼森は話を続ける。
「でも、そのあと皆が集まってから行われた自己紹介。あの時あなただけが金光に脅されている内容を告白しましたよね。そのうえ、あなたは私たちが警戒と緊張からほとんど手を付けなかった料理や飲み物を、なんの警戒もなく食べていました。そこで、私は思ったんです。日暮冬という人間は金光側の、脅す側の人間ではないのかと」
まさか普段の貧乏生活から培った食欲をそんな風に解釈されるとは驚きだ。
「私は、あなたになぜ自身の罪状を話したのかを聞きに行きましたよね。あれはあなたが本当はどういった立場の人間なのかを見極めるために話に行ったんです。あなたが見せている余裕がどこから来ているのか知りたくて。結果としては日暮さんの頭の良さを確認しただけで、その正体を見極めることはできませんでしたが。ただ、あまりにも落ち着いた対応をしてきたことからますます疑いを深めました」
俺は黙って彼女の話を聞きながら、そろそろ寒いので山荘内に戻りたいなと思い、ちらちらと山荘を見た。だが、涼森はそんな俺の様子に気づかず話を続けた。
「私たちが部屋に閉じ込められた後、時間になっても金光がやってこないので部屋を出た私が、真っ先に日暮さんの部屋に向かったのは、あなたならこの異常事態についても何か知っているのではないかと思ったからです。結果としては日暮さんは何も関係ありませんでしたけど、皆を集めて金光の部屋に行った際、日暮さんは誰よりも早く金光の死体に近づき、その生死を確認しました。死体を前にしてもなお冷静に対処しうる姿を見て、私は金光を殺したのは日暮さんなのではないかとも思いました」
昔読んでいた推理小説に似た状況があったから、とりあえず真似してみただけなのだが、かなりの過大評価につながっていたらしい。それにしても、涼森さんは寒くないのだろうか。
「その後の話し合いでも、日暮さんは終始冷静に話し合いを行い、私たちの行動を支配していました」
涼森さんも俺と同じくらい冷静に対応していたというか、俺の発言をうまく補ってくれていたような。それも俺を疑って発言を注意深く聞いていたからなのかな? まあなんにしても、シャレにならないくらい寒くなってきた。
俺は何とか室内に戻るよう話を促そうとしたが、涼森はやや興奮しているのか、寒さを感じていないらしく、話を続ける。
「そして、金光彰子の発見。あの時、彰子さんが入っていた箪笥の前にいたのは日暮さんでした。私は一度箪笥に何かがぶつかる音がしたとき、日暮さんが音を立てたのだと思いました。でも、あなたが何もしていないのに再び箪笥から音がして、箪笥の中に人がいるのではないかという雰囲気になりましたよね。実際、箪笥の中には彰子さんがいたわけですが、私はその時一つの考えを思いつきました。
それは、最初に箪笥の近くでなった音は日暮さんが箪笥内にいる彰子さんを起こすために、わざと鳴らしたのではないかというものです」
涼森の話を聞いていると、本当は俺が犯人なんじゃないかと思えてきたが、これは寒さのせいで頭が回らなくなっているからだろう。
「その後も私たちの意表を突く形で彰子さんをリビングに連れてきたり、彰子さんのスマホを取り出して時間を見たはずなのに、何事もなかったかのように振る舞ったり、時間を見てくると言って部屋に入ったきりなかなか出てこなかったり……。でも、全部私の妄想だったみたいですね。金光の仲間だと思ったり、金光殺害の犯人だと疑ってしまってすみませんでした」
俺は首を横に振り、別にそんなこと気にしてないよ、と言って立ち上がると、山荘内に戻ろうとした。すると、涼森が俺の前に立ち、
「最後に、少しだけ疑問があるんですけどいいですか?」
と聞いてきた。俺は一刻も早く戻りたかったが、涼森の妙な気迫に押され、すごすごと頷いた。
「寒いからできるだけ手短に。というか室内に戻ってからでも……」
「いえ、すぐに済みますから」
涼森はそう言うと、再び語りだす。
「疑問は三つです。
一つ目は、金光に促されてそれぞれ部屋に入っていったときのことですけど、日暮さんだけは部屋に向かおうとせず座ったままでしたね。あれはなぜですか?
二つ目は、金光が部屋に訪れた時間なんですけど、十二時から話し合いを始めると言っていたのに、一番最初の人、藤宮さんの部屋を訪れたのは十二時半でした。水谷さんは先ほど、飯島さんが金光と部屋で話した時間のすぐ後に、金光が自分の部屋に来たと言っていました。そして私の部屋には金光は来ていません。本当に日暮さんの部屋に金光は来なかったのですか?
三つ目は、先の疑問を含めた、日暮さんの行動全体です。あなたは金光がやろうとしていたことを本当に知らなかったのですか? そして、金光を殺した犯人が誰だか本当にわかっていなかったんですか?」
涼森がまっすぐに俺を見つめてくる。俺は明りの灯っている山荘内を見つめながら、小さな声で呟いた。
「過大評価のしすぎだよ。実際、俺は一番重要なところを間違えてたんだから」
俺は山荘内を指でさした。涼森が不思議そうな顔をしながら山荘内に目を向けると、そこには五人の人影が映っていた。
あの後俺たちは全ての部屋の時計をリビングに集め、その時間を見比べてみた。案の定一つの時計だけが三十秒近くずれており、それを俺が発見した時点で、突然水谷が自白を始めたのだ。
俺の推理通り、飯島の部屋を訪れた後、水谷の部屋にやってきた金光は、部屋に入って時計を見るなり突然パニック状態に陥ったらしい。水谷は、そうして完全に隙だらけになった金光を見て、ついやってしまったのだと打ち明けた。
もちろん他にもいろいろと理由はあったようだが、要するに、殺害するに十分過ぎる舞台が用意されてしまったことこそが、金光殺害の一番の原因であるようだ。
水谷が自白後、自首すると言ったので、警察に話す内容を全員で考え(彰子にも強制した)、話がまとまった段階で彰子の携帯を使い警察に電話。現在は山荘で待機状態となっている。
俺は山荘から出てすぐのところで横になり、星がいくつか瞬く以外真っ暗になった空を見上げていた。冬の山は寒い。横になったはいいが、すぐに山荘に戻りたくなった。
「あの、少し聞いてもいいでしょうか」
突然頭上から降ってわいた声に、驚きながら体を起こすと、涼森が立っていた。
「もちろんいいけど。何?」
デジャビュを感じながらも快く頷く。俺が頷いたのを確認すると、涼森は俺の横に腰を下ろした。
「きれいな夜空ですね」
「そうだね、さっきまでの事件が嘘のようだ」
俺が笑いながら返すと、涼森は突然、
「すみませんでした」
と謝ってきた。俺がやや呆然としながら涼森を見ていると、涼森は俺を見つめながら話し始めた。
「私はずっと日暮さんのことを疑っていたんです」
「俺を?」
「はい。あなたの行動は私にはとても怪しく見えたので」
俺は姿勢を正して、涼森のほうを向く。
「なんで、そう思ったの」
「……私は日暮さんの次にこの山荘にやってきました。もちろんその時は、金光のほかに少し陰気で話しかけづらそうな人がいるなぁ、と思っただけでした」
俺自身忘れかけてたけど、クマのせいでやっぱり他の人には陰気だと思われてたんだなぁ。そんな俺の感慨に当然気づくことなく、涼森は話を続ける。
「でも、そのあと皆が集まってから行われた自己紹介。あの時あなただけが金光に脅されている内容を告白しましたよね。そのうえ、あなたは私たちが警戒と緊張からほとんど手を付けなかった料理や飲み物を、なんの警戒もなく食べていました。そこで、私は思ったんです。日暮冬という人間は金光側の、脅す側の人間ではないのかと」
まさか普段の貧乏生活から培った食欲をそんな風に解釈されるとは驚きだ。
「私は、あなたになぜ自身の罪状を話したのかを聞きに行きましたよね。あれはあなたが本当はどういった立場の人間なのかを見極めるために話に行ったんです。あなたが見せている余裕がどこから来ているのか知りたくて。結果としては日暮さんの頭の良さを確認しただけで、その正体を見極めることはできませんでしたが。ただ、あまりにも落ち着いた対応をしてきたことからますます疑いを深めました」
俺は黙って彼女の話を聞きながら、そろそろ寒いので山荘内に戻りたいなと思い、ちらちらと山荘を見た。だが、涼森はそんな俺の様子に気づかず話を続けた。
「私たちが部屋に閉じ込められた後、時間になっても金光がやってこないので部屋を出た私が、真っ先に日暮さんの部屋に向かったのは、あなたならこの異常事態についても何か知っているのではないかと思ったからです。結果としては日暮さんは何も関係ありませんでしたけど、皆を集めて金光の部屋に行った際、日暮さんは誰よりも早く金光の死体に近づき、その生死を確認しました。死体を前にしてもなお冷静に対処しうる姿を見て、私は金光を殺したのは日暮さんなのではないかとも思いました」
昔読んでいた推理小説に似た状況があったから、とりあえず真似してみただけなのだが、かなりの過大評価につながっていたらしい。それにしても、涼森さんは寒くないのだろうか。
「その後の話し合いでも、日暮さんは終始冷静に話し合いを行い、私たちの行動を支配していました」
涼森さんも俺と同じくらい冷静に対応していたというか、俺の発言をうまく補ってくれていたような。それも俺を疑って発言を注意深く聞いていたからなのかな? まあなんにしても、シャレにならないくらい寒くなってきた。
俺は何とか室内に戻るよう話を促そうとしたが、涼森はやや興奮しているのか、寒さを感じていないらしく、話を続ける。
「そして、金光彰子の発見。あの時、彰子さんが入っていた箪笥の前にいたのは日暮さんでした。私は一度箪笥に何かがぶつかる音がしたとき、日暮さんが音を立てたのだと思いました。でも、あなたが何もしていないのに再び箪笥から音がして、箪笥の中に人がいるのではないかという雰囲気になりましたよね。実際、箪笥の中には彰子さんがいたわけですが、私はその時一つの考えを思いつきました。
それは、最初に箪笥の近くでなった音は日暮さんが箪笥内にいる彰子さんを起こすために、わざと鳴らしたのではないかというものです」
涼森の話を聞いていると、本当は俺が犯人なんじゃないかと思えてきたが、これは寒さのせいで頭が回らなくなっているからだろう。
「その後も私たちの意表を突く形で彰子さんをリビングに連れてきたり、彰子さんのスマホを取り出して時間を見たはずなのに、何事もなかったかのように振る舞ったり、時間を見てくると言って部屋に入ったきりなかなか出てこなかったり……。でも、全部私の妄想だったみたいですね。金光の仲間だと思ったり、金光殺害の犯人だと疑ってしまってすみませんでした」
俺は首を横に振り、別にそんなこと気にしてないよ、と言って立ち上がると、山荘内に戻ろうとした。すると、涼森が俺の前に立ち、
「最後に、少しだけ疑問があるんですけどいいですか?」
と聞いてきた。俺は一刻も早く戻りたかったが、涼森の妙な気迫に押され、すごすごと頷いた。
「寒いからできるだけ手短に。というか室内に戻ってからでも……」
「いえ、すぐに済みますから」
涼森はそう言うと、再び語りだす。
「疑問は三つです。
一つ目は、金光に促されてそれぞれ部屋に入っていったときのことですけど、日暮さんだけは部屋に向かおうとせず座ったままでしたね。あれはなぜですか?
二つ目は、金光が部屋に訪れた時間なんですけど、十二時から話し合いを始めると言っていたのに、一番最初の人、藤宮さんの部屋を訪れたのは十二時半でした。水谷さんは先ほど、飯島さんが金光と部屋で話した時間のすぐ後に、金光が自分の部屋に来たと言っていました。そして私の部屋には金光は来ていません。本当に日暮さんの部屋に金光は来なかったのですか?
三つ目は、先の疑問を含めた、日暮さんの行動全体です。あなたは金光がやろうとしていたことを本当に知らなかったのですか? そして、金光を殺した犯人が誰だか本当にわかっていなかったんですか?」
涼森がまっすぐに俺を見つめてくる。俺は明りの灯っている山荘内を見つめながら、小さな声で呟いた。
「過大評価のしすぎだよ。実際、俺は一番重要なところを間違えてたんだから」
俺は山荘内を指でさした。涼森が不思議そうな顔をしながら山荘内に目を向けると、そこには五人の人影が映っていた。
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